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ほくろちゃん

私の左目のすぐ下にほくろがあった。
楕円形でわりと大きめの。
1センチくらいあった。

小学校二年生の時に、手術して取った。多分、悪いほくろではなかったと思うけれど、大きくなるかもしれない、という話もあった気がする。でも、取った理由は、私が気にするようになったからで。男子が(と言ってもひとりかふたり)「ねー、なんでここにウ○コついてんのー」とか、からかってくるようになった。私のきれいな楕円のほくろを。同じ団地の同級生の女の子からも、なんでほくろがあるのか、とか、おかしい、とか言われるようになって。言われるたびに、このほくろがなければいいのに、と思うようになってきた。母とスーパーで買い物しながら、一度だけ左目を隠して歩いたことを憶えている。男子からこう言われた、○ちゃんにこう言われた、どうやったら取れるのか、と母にいちいち言った。母も心を痛めたことだろう。それで市立病院で取ることになった。

手術着は寒くて、手術台の丸いライトがピカッピカッと光って、その後はあんまり覚えてないけれど、男の先生はとてもきれいに取ってくれた。確か4針縫った。その後、自販機でパックのリンゴジュースを母が買ってくれて、ああ、おいしいと思ったことをよく憶えている。もうほくろはいなくなった。

ある日の大学で、隣に座った女の子が目の下にあの頃の私のようなほくろがあった。『あ!かわいい!』と思った。あのままでも良かったのかもしれないなあ、とも思ってしまうほどに。私のほくろを懐かしく思った。あの女の子にまた会いたいと思ったけれど、それ以降見かけることはなかった。もしかしたら、彼女も取ったのだろうか。

アルバムをひらくと、
私の目の下にほくろがある。
8年一緒にいたほくろ。

今でも時々思い出すよ。
私のほくろちゃん。