見出し画像

月餅

中学の時、私には「親友」と呼べるひとはいなかった。意地悪な子はいなくて。今思い出してみるとやさしい子ばかり。だけど、小学校の時のいくちゃんみたいに気が合うなって子はいなかった。いつも親友を熱望していた。転校生の情報にワクワクしたけれど、ワクワクして終わった。

ひとりでいる勇気がなくて、同じようにひとりでいた あっちゃんと休み時間に話した。よく一緒にいた。帰る方向は一緒だけど、帰る時はそれぞれ別な子と帰る。あっちゃんは保育園からの付き合いだと言う別なクラスの友だちと、いつも一緒に帰る。その時の顔が本当に嬉しそうだった。楽しそうだった。ふたりは親友だった。

ひとりでいる子がもうひとりクラスにいた。
彼女はどんな気持ちだったのだろう。
彼女はいつもひとりだった。

この前、彼女のことをすごく思い出した。

日曜に見た サザエさん に「月餅」が出てきたからか、スーパーで月餅を見るたび気になっていたからか。最近、月餅が気になっている。彼女のお父さんは中国の方で、中華街でお菓子を作っていると聞いた。「えー!すごいね!」って、たしか彼女に伝えたことがある。はにかむ彼女。

中華菓子を食べる機会が、何度か小さい頃にあった。誰かが送ってくれたんだと思う。中華街に行って、時々お菓子を買うこともあった。当時、お店によっては試食がすごかった。そんなことをふと思い出す。彼女のお父さんに会ったこともないけれど、手先を器用に動かしお菓子を何個も何個も作っている姿を想像する。

ずらりと並んだ中華菓子を見に行きたい。もう何年も食べてない。10年以上、いや15年以上たべてない。月餅が食べたい。あのずっしりしたものを。中華街で見た月餅ってとてつもなく大きいものもあったなあ。

今日のおやつは月餅にしようと思う。
月の餅だなんて。いい名前だ。
どんな味だったかな。
正直忘れている。

ちゃんとした、
彼女のお父さんが作るような
そんな月餅のほうがいいけれど。
この辺にはそんなお店はないから。
スーパーで売られている月餅を
食べようと思う。

それを自分との約束として、
今日をがんばるとする。