「タイガーマスク」

※『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』(2001年1月5日発行)より再録

放送日時●1969年10月2日~1971年9月30日
毎週木曜日19時~19時30分、全105話
放送局●読売テレビ系列

■作品解説 プロレスアニメの頂点
悪役養成機関「虎の穴」出身の覆面レスラー、タイガーマスクは幼時を過ごした孤児院ちびっこハウスの経営危機を知り、虎の穴本部に上納すべきファイトマネーを援助に使ってしまい、更に悪役に憧れる子らを見かねたハウスの保母、若月ルリ子の願いに応え、悪役にあるまじきフェアプレーの試合を行ってしまう。その行為を裏切りと見た虎の穴は彼を抹殺すべく、ミスターXに率いられる悪役レスラーを次々とリングに送り込む。
『タイガーマスク』は原作に大幅な脚色を加えつつアニメ化され、丸2年の長寿番組となった。

●見どころ 作画と人間ドラマ
アニメ版『タイガーマスク』の魅力。それはあの荒々しくかすれた線で描かれた劇画調の絵と、シャープな動き。キャラデザインは劇場版『サイボーグ009』等を手掛けた木村圭市郎。その手腕は毎回のオープニングで見ることが出来る。
悪役として登場したタイガーが正統派レスラーとして戦うことを決意するまでに7話を費やす等、人物の性格や心理がじっくりと描き抜かれ、また、虎の穴出身の大門大吾、ケン高岡らタイガーを巡る男達の友情と確執の物語も折々に織り込まれるなど『タイガーマスク』は人間ドラマとしての側面も強い。また、交通遺児の問題等、様々な社会への問いかけも含まれていた。55話「煤煙の中の太陽」では、タイガー一人の力では一つの施設は救えても公害そのものを無くすことは出来ないという現実が突き付けられる。当時のTVアニメは娯楽の枠を超えて社会への目を促す作品が幾つも作られていた。そこには親と子に見せて恥じない作品を作るという、製作者達の社会的立場を踏まえた大人としての熱意と誇りが満ち満ちていたのだ。
あらゆるパートの技量が著しく向上した『タイガー』は77話「死闘のタッグ」で第一のクライマックスを迎える。度重なるタイガー抹殺計画の失地に業を煮やした虎の穴は遂に3人の支配者自らが幻のレスラーとして挑戦して来る。嵐の中で繰り広げられる死闘の息詰まる緊迫感はさすがだ。
3人を失った虎の穴のボスは遂に自らリングに上る。帝王タイガー・ザ・グレートとタイガーが互いの存亡を賭けて激突する104、105話のデスマッチの凄まじさは筆舌に尽くし難い。最後の決意を固めたタイガーは破れたマスクをかなぐり捨て、反則技の猛ラッシュで遂にグレートをリングに沈める。勝間田具治の演出の力感、小松原一男率いるOHプロダクションの渾身の作画が見事だ。
原作では見ず知らずの少年を救う為トラックにはねられた直人が、正体を隠す為虎のマスクをドブ川に投じて命尽きるという終わり方で、梶原一騎の男の哲学はうかがえるものの何ともやり切れない。その点アニメ版のタイガーのマスクは若きケン高岡の元へ届けられ、その魂が引き継がれることを示している。直人は何処とも知れずジェット機で去って行くのだが、彼の心の声が響く。「子供達は俺の命がけのファイトを、悪に立ち向かう人間の勇気をきっとわかってくれたと思う」。この感動においてアニメは原作を越えた。

▲周辺情報
タイガーが所属するのは日本プロレス。馬場と猪木が共にいた頃で吉村ら実在のレスラーも登場する。初期の大イベント、覆面ワールドリーグ戦ではジャイアント馬場が縞模様の全身タイツのマスクマン、ザ・グレートゼブラと名乗ってタイガーを援護する話もある。
『タイガー』の絵作りを担ったのがゼロファックスの導入。動画の線をそのままセルに転写することで省力化と迫力という二つの効果を同時に果たした訳だ。鉛筆の濃さ等も色々と試みられている。歴史を作った人々の努力は偉大なのだ。カメラワークの工夫や背景の色使いの冒険等もなされ、背景は畳二枚程のものを描いたこともあるとか。
丸2年の長丁場には、直人の声の富山敬が病気の為、森功至が31~39話の代役を務めた他、ルリ子役の山口奈々が出産の為、78話以降を野村道子に交代等の事態もあった。

※初出:電撃ムックシリーズ『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』メディアワークス発行(2001年1月5日)、構成・編集=島谷光弘
※内容は執筆当時のものです。

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