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『ロボット・ドリームズ』

2023年、スペイン・フランス、パブロ・ベルヘル監督、2D作画、101分
10/29(日)、東京国際映画祭、角川シネマ有楽町にて。

原作(グラフィック・ノベル)あり。監督はスペイン出身。
登場キャラは全て擬人化動物(とロボ)。

マンハッタンのアパートで孤独な生活を送るドッグ(犬)は、ある日、通販で買った等身大ロボットを組み立て、一緒に生活を始める。
友情を深める2人。
夏の日、2人はビーチで楽しく過ごすが帰り際にロボットは体が錆びついて浜辺に寝そべったまま動けなくなってしまう。ドッグは助けようとするが、どうにもならない。
やがて季節は過ぎてビーチはロボを残したまま来年まで閉鎖されてしまう。
一日たりとも互いのことを忘れないドッグとロボだったが、ビーチの再開までの間、2人には様々な出来事と新たな出会いが訪れる──。

101分の間、セリフもモノローグもナレーションも全く無いにも関わらず、ドッグとロボはおろか周囲のちょっと出のキャラに至るまで全ての感情や思考、状況、行動、性格といったあらゆることが完璧に観客に伝わる、その巧みさ。
ロボ以外の登場キャラは全て動物だが、そのデザインが上手い。
『オッドタクシー』の動物化には明確な意味(理由)があり、ディズニーの『ズートピア』には多様性の表現という目的があった。
この『ロボット・ドリームズ』の擬人化動物にはそうした理由や目的よりも、その世界そのものの存在感が確かにある。
動物ごとのデザインの基本は原作からのものだが、主人公のドッグをはじめ、アニメのキャラクターへの落とし込みに全く無理が無く上手い。
絵は基本的に輪郭ありの平面的なスタイルで影色は無し。
実にシンプルだがそれぞれの特徴をよく掴み、動きも的確。良いスタッフが揃っているのだろう。
背景を含む色彩感覚も落ち着いている。
青春を過ごしたニューヨークに愛着を抱くという監督だけに、表裏ある街の多面的な描写が見事だ。住宅地、公園、治安に問題がある地域、等々が、その佇まいと、そこにいる動物たちによって的確に伝わる。
キャラと背景のマッチングも良くて、ちょっとフランスアニメ的なセンスを感じる。
折々に流れる80年代ミュージック。様々に引用される映画的記憶(ロボの顔は『アイアン・ジャイアント』ではとの説もあり)。隅々までも味わえる作品だ。

浜辺のロボは金属回収業者に運び出され、ドッグは冬の間に彼が消えてしまったと思い込み、やがて2人は異なる人生を歩み始める。
いっとき、彼らの新たな人生は交錯しそうになるのだが・・・。
孤独と友情と喪失。大切な存在を巡っての人生の分岐点。
年齢を重ねて、もしもあの時…と思わない人間はいないのではないか。
人生のほろ苦さに深く心を衝かれ、落涙する。

終映後、若き日にニューヨークで孤独な学生時代を送った監督は自分はドッグだったと語り、苦い失恋を経て結婚、今では日本にファミリーがいると語る。
虚実合わせた人生の不思議さに、しみじみと心を打たれる。
普段は実写映画を撮っているという監督はこれは題材的にアニメにするのが最適と思い、作ったそう。世の中にはまだ見ぬ強豪がいるのだ。

テーマ、ストーリー、モチーフ、ルック、アニメーションとしての作りの全てに感銘を受ける稀有な作品。可愛らしい絵柄の、大人の映画だ。
本作はクロックワークス配給で日本公開が決まっている。嬉しい。

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