「宝島」

※『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』(2001年1月5日発行)より再録

放送日時・1978年10月8日~1979年4月1日
毎週日曜日18時30分~19時、全26話
放送局・日本テレビ系列

■作品解説 冒険物語の傑作
一枚の地図を頼りに宝島に眠る財宝を探す船旅。たとえ読んだことがなくても誰もが知っているであろう、世界的に有名な原作をベースに大胆な脚色を加え波乱万丈な冒険物語に仕立てた傑作アニメ。出崎統監督と作画の杉野昭夫の名コンビが極限まで「男の美学」を追求した。

●見どころ シルバー、男の美学
『宝島』と言えば先ず何よりも、一本足の海賊ジョン・シルバーが思い浮かぶ。これ程までにキャラが立ったアニメも少ないだろう。
主人公であり、物語の語り手のジム少年の周囲には冷静沈着なリブシー先生、海の男スモレット船長、ニヒルでストイックなグレイ、ジムの手に宝の地図をもたらし、果たせぬ夢を抱いて死んだ海賊ビリー・ボーンズと、魅力的な男が揃っているのだが、彼ら全てが束になっても太刀打ちできない、男の中の男。それがジョン・シルバー。ガッチリした顎、太い眉にギロリと大きな目、背まである長い髪。これ程アップがサマになる男もないだろう。ドスのきいた声を演ずるは若山弦蔵。正に適役、名優ここに在り。
一本足のシルバーを海賊かと疑いつつも、豪快な海の男そのもののシルバーの言動に、ジムの懐疑は尊敬と信頼へと変わり、航海の中で二人は年齢を越えた男の友情で結ばれていく。『宝島』はジムとシルバーの、出会い、裏切り、別れ、そして再会という大きな流れの中で、ジムのシルバーに対する思いの熱さを軸に展開して行く。10話での夕陽を見つめるシルバーは忘れがたい。「夕陽は裏切りの名人だ」と言うシルバー。物語の今後を示唆するような名場面。画面的にも雄大さと叙情が一体となって印象深い。
宝島上陸を境にシルバーは海賊の本性を表す。11話で自分への裏切りを企てた水夫を松葉杖の一撃で葬り去り、豪快に笑うシルバー。隠し抑えていた悪の魅力が強烈に炸裂する瞬間だ。18話の嵐の船上を舞台に、敵味方に別れたジムとシルバーは再び相まみえる。ジムは叫ぶ「お前はもう、俺のジョン・シルバーじゃない!」。シルバーの裏切りに傷つき、憎もうとして憎み切れず、苦しむジムの心そのままに荒れ狂う海。『宝島』屈指の好編だ。
宝を目指すシルバーの凄まじい執念は誰をもたじろがせる。「男はな、一旦やると決めたことはとことんやる。いいも悪いもねえ。それが俺の流儀さ」。神も悪魔も信じない男、ジョン・シルバー。信じるものはただ己の力のみ。が、遂に財宝が現れた時、シルバーはジムに言う。「俺は俺自身にとって一番大切な物を探す為に宝を追っていたんだ。だが、宝は宝以外の何物でもなかった」。出崎演出独特のまばゆい光に包まれた見つめあう二人。そしてシルバーは姿を消し、ジムたちは帰国の途についた。ジムは思う。「海に出たこと、色んな男達に会ったこと、それが全部俺の宝だった」。
10年が過ぎ、船乗りとなったジムとシルバーの再会の時はやって来た。誰彼なく腕相撲を挑んでは、たった一杯のラム酒をねだる荒んだシルバーがそこにはいた。しかし、彼との死力を尽くした勝負の後でジムが見たものは、町角で老い衰えたオウムのフリントに語りかけるシルバーの姿だった。「どこへ行ったって、どんなことに出くわしたって、その気になりゃあ俺達はまだまだ飛べるんだ」。最終回、スタッフがシルバーに用意したのは永遠に闘志を燃やし続ける男の姿だった。
海が名実共に男の世界だった時代を背景に、ジョン・シルバーに捧げられた物語、そして出崎・杉野コンビが極限までに男の美学を追求した物語『宝島』はこうして幕を閉じる。昔のままに不敵なジョン・シルバーのアップでもって。ジムの声が響く。「いたんだよ、やっぱり。俺の…俺のシルバーが」。

▲周辺情報
後年、特典映像として、その後のシルバーを描いた『夕凪と呼ばれた男』が作られている。鯨を追う片足の男。出崎監督のシルバーへの愛着と『白鯨』への執着が見てとれる。

※初出:電撃ムックシリーズ『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』メディアワークス発行(2001年1月5日)、構成・編集=島谷光弘
※内容は執筆当時のものです。

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