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『深海レストラン』

2023年、中国、ティエン・シャオポン監督、3DCG、112分。
10/26(木)、東京国際映画祭、TOHOシネマズシャンテで鑑賞。
快作『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(2015年)の監督の最新作。

少女シェンシウは父の再婚で疎外感を感じている。自分を置いて去った実母への思慕と複雑な感情。
ある日、シェンシウは家族で大型船のクルーズに出かけるが、海が荒れ、甲板から落ちてしまう。
気がつくと彼女は不思議な深海レストランにいた。シェフは風変わりな青年ナンヘ。レストランは海の客で満員で、ラッコの給仕たち、セイウチの船員や料理人が忙しく立ち働いていた。
シェンシウはここで働くことになるが、彼女は赤い海精霊(レッドファントム)に取り憑かれていた。

近年の中国作品らしい、これでもかという物量攻勢に圧倒される。映像の万漢全席。色彩も極彩色で虹のよう。やり過ぎなほどの色の洪水。
画面を埋め尽くす魚人の客と、ひっきりなしに運ばれる料理のシズル感。ラッコ給仕の右往左往。とにかく画面の密度が凄まじい。
主人公シェンシウはフォトリアルな造形。華奢で影があり、心の内が顔に表れる繊細さがよく表現されている。
ナンヘも基本はフォトリアルだが、輪郭ごと顔が自由自在に動き表情豊かで3DCG離れしたオーバーアクションを見せる。
彼がワンカットで突き進む描写が凄まじい。パッション&エモーションで思わず『虹色ほたる』を連想。

実は物語全体に大きな仕掛けがあり、パワフルな物量攻勢の世界がやがて一人の少女の心の問題というミニマムな物語に収束していく。
映画的なカタルシスもあり、大きな驚きと感銘を受けた。
彼女が抱く心の問題も現代的で普遍的。
深海レストランとナンヘや海精霊の正体をはじめ、登場人物や小物などの伏線もよく利いている。
全体のイメージはパワフルな『千と千尋』。個人的に『どうぶつ宝島』など漫画映画の影響も覚える。
エピローグの光あふれる草原は新海誠風。日本のアニメをよく研究し、敬意を持って接していることを感じる。

この作品は以前から壮大なビジュアルが伝わっていてとても関心を持っていたもの。ここで観られて実に嬉しくありがたい。
大スクリーンで観てこそ、その迫力を味わえる作品。是非とも一般公開されてほしい。或いはせめて電影祭で取り上げてもらえないだろうか。繰り返し観ることで気づくことも多い筈だ。

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