『トゥルーノース』

WOWOWの「世界の秀作アニメーション」のラインナップから視聴。
今も続くという北朝鮮の強制収容所の実態を3DCGアニメーションで訴える。
日系の清水ハン栄治監督が脱北者たちの証言を元に映画化。
清水氏は映像・出版・教育事業等に携わる人物で、これが初の監督作。
94分、制作は日本・インドネシア。

北朝鮮の都市部で暮らすパク一家だが、ある日突然、父親が政治犯の疑いで連行されてしまう。少年ヨハン、妹ミヒ、母ユリの家族もトラックで北方の強制収容所に連れて行かれ、想像を絶する過酷な強制労働に従事させられる。そこは寒さと飢え、暴力と侮蔑が支配する地獄さながらの場所だった。従わない者、脱走を企てる者は容赦なく処刑され拷問を受ける。
十年近い歳月が流れ、青年に成長したヨハンは一時は収容者を取り締まる階級に加わるが、逆恨みによって母を失い、残った妹と、収容所で得た友インスを守ろうと力を尽くす。

言葉を失う程の衝撃作。あまりの内容に、暖かい部屋でぬくぬくと観るのが申し訳ない思いがする。
3DCGだがカクカクとしたポリゴン風の画面。それが却って異様な迫力を生んでおり、またリアル過ぎないおかげでかろうじて映画として観ていられる。
もしも、これが実写やフォトリアルな3DCGだったら到底耐えられないだろう。
そこに描かれる強制収容所の実態の数々は決して想像の出来事ではない迫真性を持っている。
証言を元にした「物語」ではあるが、アニメーション・ドキュメンタリーの範疇。
悲惨なだけでなくユーモアもあるとの触れ込みだったが、無きに等しく厳しい。
収容所には日本人拉致被害者もいて、日本人と分かる顔立ちをしている。
もしも拉致被害者の関係者の方が観たなら胸が潰れる思いをするだろう。
観ていて、やり切れない思いが募り、つらい。
日本人自体も北朝鮮では日本豚と罵られている。

しかし、極限状況の中でも他者への思いやりを忘れない母や、毅然として兵士に対峙する妹など、高潔な魂は失われずに光り、心を打たれる。
人間の尊厳について深く考えさせられる。

映画の最後、エンドロールと共に、現在も残る現実の強制収容所の衛星写真が証拠として何枚も映し出される。北朝鮮はその存在を認めていない。

題名の『トゥルーノース』(True North)は「真実の北朝鮮」の意味であると共に英語の慣用句で「絶対的な羅針盤」を意味するという。
映画は脱北者の一人であるインスが国際舞台でその実態を訴える形を取っている。
清水監督はアニメーションの持つ訴求力を信じてこれをアニメーション映画として世に問うたという。
アニメーションの持つ力を信じる監督の求めに応えたい。
この心底からの訴えに世界は、私は何が出来るだろう。

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