「母をたずねて三千里」

※『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』(2001年1月5日発行)より再録

放送日時●1976年1月4日~1976年12月26日
毎週日曜日19時30分~20時、全52話
放送局●フジテレビ系列

■作品解説 短編から連続ドラマへ
父の事業を助ける為、イタリアから南米アルゼンチンへ出稼ぎに渡ったまま音信の絶えた母を捜しに旅立ったマルコ。『三千里』は少年の成長ドラマであると共に群像ドラマでもあり、苦難の旅の中でマルコが出会う人々の人間模様が胸を打つ。
原作は『クオレ』の中の短編に過ぎず、それを全52話に渡る殆どオリジナルと言っていい連続ドラマに仕立て、高い質を保ち続けたスタッフの努力は称賛に値する。人形芝居のペッピーノ一座の人々、インディオの兄妹パブロとフアナをはじめ数多くのアニメオリジナルの人物がまるで実在するかのごとき存在感で描かれる。マルコの旅の友である白い小ザル、アマディオも忘れ難い。

●見どころ マルコの旅を彩る様々な人々
マルコの母の旅立ちは1話。2話からはジェノバでの日常生活が当時の社会状況を交えて描かれる。母が出稼ぎに行かざるを得ない事情、父の事業である無料診療所の運営が抱える問題、家族で最年少のマルコが旅立たねばならなかった理由がじっくりと語られる。マルコの旅立ちは15話。貨物船での楽しい旅、嵐の移民船を経て22話でブエノスアイレスへ到着。以後51話で母と再会するまでマルコの果てしない苦難の旅が続く。
ジェノバ編では、実写さながらのカメラアングルで捉えた港町の佇まいとマルコの活気ある日常描写が光る2話、影のある美少女フィオリーナとの触れ合いを描く7話等が見所。ここではペッピーノ一座の愉快な人形芝居も見られる。宮崎駿趣味満開の12話「ひこう船のとぶ日」も見落とせない。
渡航後は、ドラマらしいドラマは無いのに静かに心に残る高畑演出の真骨頂である29話「雪が降る」、マルコが絶望の余り「ぼくは悪魔に呪われているんだ!」と叫ぶ画面もシュールな33話、マルコの母から託された給金を着服し全ての原因を作った張本人である叔父メレッリを巡り人間ドラマの深みを見せる35、36話。途方に暮れるマルコを移民が集う店「イタリアの星」の皆が励ます感動の40話等見所多し。脚本の深沢一夫が是非入れたかったという42~45話のインディオの兄妹との触れ合いも忘れられない。大国の移民差別、少数民族差別の問題も容赦なく取り入れられ、社会派的色彩も色濃い。『三千里』には正に人生の縮図としか言いようのない人間模様が描かれていた。そんな過酷な旅にも関わらず視聴者に見ることを放棄させなかったのは、悪も善も引っくるめて人間であるという確固たる視点が全編を通してあったからだろう。旅を通して世の中を知って行くマルコ。
最終52話、母国へ帰り着いたマルコが父に言う「素晴らしかったんだ、ぼくの旅」の一言が全編を引き締める。将来医師になることを誓うマルコ。父の事業の設定が全編を貫き、母との邂逅が新たな自立の第一歩となる鮮やかさ。ラストに漂う充足感。骨太な人間ドラマの完結をじっくりと噛み締めてほしい。

▲周辺情報
マルコの苦難の旅にはフィオリーナ、フアナと、共に「花」の意を持つ二人の少女が添えられた。スタッフのせめてもの労いである。
オープニングの歌詞にはロケハン隊を絶句させたというほど何も無いアルゼンチンの荒野の風景が反映されている。作詞は脚本の深沢一夫。なおマルコのポンチョは編中で貰ったもの、着用は47話から。アメディオは実は兄の飼っていたサル。
母と二人の帰り道、それまで関わった人々と次々に出会って行くシーンは高畑の愛するロシアアニメ『雪の女王』のそれへのオマージュだ。
マルコの母の声は二階堂有希子。実は初代『ルパン三世』の峰不二子役だった。音楽はフォルクローレを取り入れた透明感あるメロディが印象的な坂田晃一だが、NHKの国民的ドラマ『おしん』も担当、苦難の旅路にはよく似合う?

※初出:電撃ムックシリーズ『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』メディアワークス発行(2001年1月5日)、構成・編集=島谷光弘
※内容は執筆当時のものです。

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