エッセイ「東映動画の長編アニメの流れを概観する」

※『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』(2001年1月5日発行)より再録

 1956年(昭和31年)、「東洋のディズニー」を合言葉に掲げる大川博社長の下、東映動画(現東映アニメーション)が誕生した。それまで家内制手工業の感のあったアニメ製作を産業として軌道に乗せた東映動画の功績は実に大きく、ここに現在の隆盛へと続く礎が築かれたのだった。以来半世紀近い歴史の中で、その代表と言えば「東映まんがまつり」の名で長年親しまれて来た劇場用長編アニメが上げられる。ここではそれらを中心に紹介してみよう。ビデオ等で発売されている作品も多いので興味を持たれた方は是非見てほしい。
 長編アニメの第一作と言えば58年の『白蛇伝』。海外への輸出を見込み、ディズニーに対抗し得る独自の魅力として東洋ムードの強調を選び、中国民話を題材とした。子供の目をとらえる為にパンダ等の動物を登場させているが、内容は男女の恋物語とれっきとした一般向けの映画である。現在でこそアニメの市民権は確立されたかの感があるが東映長編アニメは誕生した時から広く一般人の見るものだったのであり、新聞雑誌等でもごく普通に紹介され論評されていた。アニメが子供のもの、そしてマニアのものになっていくのはその後の歴史の流れの中においてであり、言ってみれば半世紀を経てようやくアニメはスタート地点に戻ったのかも知れない。それはさておき『白蛇伝』は当初の目算通り海外でも好評を得た。ヒロイン白娘(パイニャン)を見た宮崎駿がアニメーターを志した作品としても有名だ。
 初期の長編は手塚治虫のマンガを原作にした『西遊記』以外は『少年猿飛佐助』『安寿と厨子王丸』『シンドバッドの冒険』と劇映画調の物が続くが、ここでの見所は、大工原章と共に当時の東映動画を代表するアニメーター森康二の作画。女性キャラや小動物を担当することが多い森の絵は美しく上品で、細やかな動きによる芝居は見事の一語。その絵の特徴は小田部羊一、宮崎駿、更にその下の世代に受け継がれ、日本のアニメの基礎となっている。
 東映長編初期の傑作は63年の『わんぱく王子の大蛇退治』。勇壮流麗な伊福部メロディが鳴り響く中、八岐の大蛇に空中戦を挑む等アニメ的な見せ場だらけの日本神話アニメ。是非ボリュームを最高にして浸り切ってほしい。
 66年の『サイボーグ009』、67年の『同・怪獣戦争』の2作で長編アニメにTVを源とする新しい流れが生まれた。演出の芹川有吾が情感たっぷりに描き出した『怪獣戦争』のヘレナはいわゆる「悲劇のヒロイン」の元祖と言える。
 68年の『太陽の王子ホルスの大冒険』、69年の『長靴をはいた猫』と東映動画生え抜きのスタッフの手で同社を代表する作品がたて続けに生まれた。『ホルス』は現在のアニメ界を牽引する高畑・宮崎両監督の記念すべき原点であり、アニメで初めて人間ドラマと心理描写に挑んだ野心作。『長靴をはいた猫』はアニメならではのギャグとアイディアにあふれた楽しきマンガ映画の金字塔。
 69年の『空飛ぶゆうれい船』は編中のボアジュースのCMと、原画の宮崎駿の兵器趣味が横溢する戦車シーンでカルトな人気を誇る。ボア缶は後に一世を風靡する『新世紀エヴァンゲリオン』にも登場、商品化もされた程。
 71年の『どうぶつ宝島』は明るく楽しい冒険マンガ映画。宮崎駿がアイディア構成を担当、小田部羊一と共に作画面でも精力的に活躍した。いわゆる長編らしい長編がコンスタントに作られていた時代の最後の華である。
 73年の『マジンガーZ対デビルマン』、74年の『マジンガーZ対暗黒大将軍』の2作に始まるTVヒーロー対決シリーズはある世代にとって忘れられない作品。前者では空飛ぶ翼ジェットスクランダーが、後者では次シリーズの主役グレートマジンガーがTVに先駆けて登場。とりわけ後者は究極のロボットアニメとして語り継がれており、今もその影響を見ることがある。
 79年の『龍の子太郎』は小田部羊一が古巣東映動画で作画監督を務め、久々に長編の本領を見せた佳作。名匠浦山桐郎が監督にあたり、主人公の母を吉永小百合が演じているのも特筆される。本来の長編のラインからは外れるが79年の『銀河鉄道999』、81年の『さよなら銀河鉄道999』はTVで育ったスタッフがメインとなり、様々に培った技術の集大成を見せた記念碑的な作品。そのクオリティは非常に高い。
 しかし以後の東映長編は往年の活気とオリジナリティを取り戻すことが出来ず、スタジオジブリの台頭や劇場版『ドラえもん』の長寿シリーズ化等とは裏腹に、まんがまつりもアニメフェアと名を変えながら、その時々の人気TV作品の劇場アニメ化を中心に数本を抱き合わせて続いて行くという形になったのはいささか寂しいが、長編よりもむしろ併映の『デジモン』等の短編にスタッフの才気を見ることが出来る。この芽がやがて大きく育つことを願ってやまない。

※初出:電撃ムックシリーズ『電撃TV&ビデオ攻略ガイド』メディアワークス発行(2001年1月5日)、構成・編集=島谷光弘
※内容は執筆当時のものです。

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