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2021年2月24日木造構法小委員会 小見山陽介氏レクチャー

本稿は、2021年2月24日に開催された日本建築学会木造構法小委員会公開委員会における新任の小見山陽介委員による講演(研究・活動紹介)の内容を要約したものになります。

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私はこれまで西洋建築史研究と建築設計との間を行き来してきましたが、構法への興味はずっと持ち続けてきました。そうした背景もあり、現在では建築構法史の研究と、構法的な視点からの設計活動の両輪で活動をしています。

構法的な視点からの設計活動としては、イギリスの設計事務所で勤務していた際にCLT建築の設計に関わったこともあり、帰国後もCLT建築の設計に関わってきました。京都大学に籍を移してからも、産学連携でCLT建築に関わる研究開発などに取り組んでいます。

建築構法史の研究としては、三次元空間上にクリスタルパレスを復元するプロジェクトに取り組んでいます。文献調査に加えて、同時期の同種の建物やクリスタルパレスの設計建設に関わった人が作った別の建物の実測調査をして、構法的に正しい三次元復元を目指しています。

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また、研究室の活動としては、京都大学で工学部以外に所属されている先生を取材し、その研究内容を社会に実装する場合に建築として何ができるかをテーマに設計課題として取り組んでいます。

木造建築のサークル・オブセッションズ

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今私が興味を持っているのは、木造プロジェクトのダイアグラムです。CLTという材料を入り口にして木造建築に関わる中で、自分の設計活動が社会とどう繋がっているかを自覚する必要性を感じました。そこで、世界ではどんなことが考えられているのかを知るために、木造プロジェクトで使われているダイアグラムの調査を始めました。

木造プロジェクトにおけるプレゼンテーションでは、円環状のダイアグラムが頻繁に用いられています。それらは循環型経済や循環型建設と呼ばれるものに、そのプロジェクトがどう寄与しているのかを示していると言われていますが、果たしてそれらは実際に起こっている関係性を正確に描けているのでしょうか。

実際に世界中で用いられた円環状ダイアグラムを集めてみると、いくつかの型に分類できるどころか、ことによると表現のテイストを変えただけで内容としては全く同じダイアグラムが溢れています。

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オランダには、"Building as Material Bank"と呼ばれている研究があります。そこでは、建築(必ずしも木造には限らない)は循環する材料が一瞬固定されたものに過ぎないという考えが前提になっています。建築という単位ではなく、建築を構成する材料一つ一つが世の中をどう回っているのかに焦点が当てられているのです。

このような立場に立った時、円環状ダイアグラムを成立させるためには、整備されるべき技術が複数あることに気づきます。世界で進められている研究を取り上げますと、例えば、木材の切り出しから建設までを考えた時、OSM(Offsite Manufactured)と呼ばれるようなプレファブリケーションの技術は更なる研究が進められていますし、あるいは解体から再利用までを考えた時、分解再利用することを予め考慮したデザイン(Designed for Deconstruction)も考えられています。

さらには、最終的な廃棄の後までを考えたシナリオ(End of Life Scenario)を作るような研究も進められています。こうした研究を総合していくことで、ただの円ではなく、実際の関係性を反映した複雑なネットワークが描けるのではないかと考えています。

海外の木造建築事情

もう一つ、イギリスの木造建築事情について話題提供させていただきます。私はイギリスの設計事務所を離れた後も、イギリスの木造建築の状況をずっと追い続けてきました。ここ数年で大きな変化を経験していますので、それについてご紹介します。

イギリスでは、性能規定に基づいた柔軟な法体系も後押しとなり、2000年頃から木造建築が急速に広まり、「木は新しいコンクリート」、"Green is the New Black"などと表現されるほどに注目を集めていました。

しかし2017年、集合住宅グレンフェルタワーの火災を契機に、建築物(特に住居系)における可燃材料の使用が厳しく制限されるようになりました。それまでのコンクリートから木へという動きから一変して、現在は木造建築に逆風が吹いている状況にあります。

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そんな中、イギリスやフランスが現在向かっている方向はハイブリッドです。フランスはパリ五輪に向けて50%の木造化を掲げています。材料使用量ベースなので、鉄骨の柱梁に木のスラブをかけたり、RCのオフィスの共用空間を木造で整備したりといった、構法的、平面計画的なハイブリッド化が進むのではないかと予想されます。木の温かみを定量化したり、木に囲まれていることの心地よさを科学的に解明したりといった試みもなされており、逆風の中だからこそ、なぜ木を使うのかという根本の部分の整理はむしろ進んでいるように感じます。(了)

執筆:櫻川 廉(さくらがわ・れん)
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻権藤研究室修士課程/東京大学工学部建築学科卒業後、同大学院修士課程に進学。現在、権藤研究室に所属し、住宅構法の研究を行っている。