アダチさんの時間軸
うちのマンションには、高齢の女性たちが一人で生活している方が多くいらっしゃる。
夫に先立たれ、ひとりぽっちになった女性たちは
どんな風に寂しい時間を乗り越えてきたんだろう。
いまでは、もうみなさん生き生きとしている。
というか、元気そのものだ。
やっぱり女という生きものは強い。
もう逞しいとしか言いようがない。
諦めではなく、覚悟だ。
そんな女性たちの中に、アダチさんがいる。
元々お一人だったのかは知らない。
少し痴呆があり、毎朝ディサービスの方が迎えに来られてエレベーターで一緒になることがある。
その時のアダチさんは、つまらなさそうに俯きかげんだ。
かわいいワンピース、胸にはブローチをつけ毎朝お洒落をしてディサービスへと出かけていく。
たぶん夕方には戻ってきているのだろう。
そこからだ、本来のアダチさんが爆発する。
朝のつまらなさそうな顔とは別もので、生き生きとシャンとしている。
だいたいは、マンションの庭で草花を摘みまくっている。
花がだいすきなんだろう。
「あ、また摘んでる。」
みんな了承済みだ。
手にいっぱいの草花を部屋に持ち帰っている。
いったい部屋の中はどうなってるんだろう。
つい先日、たまたま夜中24:00過ぎにマンションに帰ってきたわたし。
エレベーターホールからガラス越しに、アダチさんの姿が見えた。
エメラルドグリーンのワンピースを身に纏い、
手にはたくさんの草花が、、
「アダチさん、、、。」
ガラス越しから手を招いた。
「アダチさん、もう遅い時間やでーー。」
「もう帰ろ、寝るじかん。」
にこにこしながら、片手いっぱいの花をわたしに見せてくれた。
「きれいでしょーあげる、白と、赤もあげる。」
「ありがとう、寒ないの?帰ろ。」
にこにこしながら「かえる。」
マンションの周りだけで終わってるからいいものの、遠くまで行かないか心配になる。
エレベーターを降りる時、アダチさんは大きな声で言いました。
「さよならさんかく、またきてしかくー!」
ありがとう、アダチさん
なんだか夜か朝かわからなくなったょ。
決してばらまいてはいない。
それはない。
そう信じたい。花は飾られてる。
ひとりの時間は大切だ。
好きなものに囲まれ、いつもにこにこと自分軸で生きる先輩たちを見習うことにする。
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