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乳がん再発予防治療:薬物療法編

こんにちは。今回は、乳がん再発予防のための薬物治療についてお話ししようと思います。薬物療法は抗がん剤療法、ホルモン療法、分子標的療法(抗HER2薬)の3つから、乳がんのタイプによって必要な薬物療法を選択することになるのですが、まずは乳がんのサブタイプについてご説明します。

乳がんのサブタイプ

乳がんのサブタイプは、がん細胞の内部に発現する「ホルモン受容体」の有無と、がん細胞の表面に発現する「HER2 タンパク」過剰発現の有無によって、下記の4つのタイプに分類することができます。

①ホルモン受容体「陽性+」×HER2「陰性-」
②ホルモン受容体「陽性+」×HER2「陽性+」
③ホルモン受容体「陰性-」×HER2「陽性+」
④トリプルネガティブ「どちらも陰性-」

わたしの例で説明すると、わたしの乳がんは①のタイプなのですが、HER2は陰性のため、抗HER2薬は必要ありませんが、ホルモン受容体が陽性です。ホルモン受容体 陽性の乳がんは、エストロゲンなどの女性ホルモンをエサに増殖するタイプのがんで、体の中のがん細胞が増殖しないよう、エサとなる女性ホルモンの分泌を抑える作用のある、ホルモン療法が選択されます。ホルモン受容体 陽性の乳がんは、乳がん全体の約70%*を占めることから、乳がんを患った患者さんのほとんどがホルモン治療の対象者になると言えるでしょう。

ホルモン療法について

ホルモン治療に使われる薬剤は大きく2種類あり、一つは月経を止める薬。閉経前の女性の場合、女性ホルモンは主に子宮で作られるため、月経を止めることで、女性ホルモンの分泌を抑制します。そして、二つ目は体内の女性ホルモンががん細胞に取り込まれるのを防ぐ薬。例えエサとなる女性ホルモンが体内にあったとしても、がん細胞が取り込むことができなければ、増殖できません。この二つの薬を併用することで、体内に分泌される女性ホルモンの量を減らし、がん細胞を枯渇させることで増殖を防ぐという訳です。

また、前述した①ホルモン受容体 陽性、HER2 陰性の乳がんは、増殖能力の遅い「ルミナルA」と、増殖能力の速い「ルミナルB」タイプに分類されるのですが、
わたしの乳がんは「ルミナルB」タイプでした。その場合は、抗がん剤療法もホルモン療法と並行して行われたりします。“たり”と言ったのは、抗がん剤治療は必ずしも選択されない場合もあるからです。ホルモン治療に加え、抗がん剤治療も行うかどうかの基準は、その治療がホルモン治療にどれだけ上乗せできる効果があるかどうかなのですが、同じルミナルBタイプの乳がんでも、抗がん剤の効果は人それぞれで、あまり抗がん剤の効果が期待できない場合は、選択肢として選ばれない場合があります。その時はホルモン療法単独で治療することになります。

乳がんの遺伝子検査オンコタイプDX

抗がん剤の効果予測を調べるためには、「オンコタイプDX」という乳がんの遺伝子検査が有効です。これは、手術で摘出したがん検体の遺伝子を解析し、抗がん剤治療を受けた場合と受けなかった場合の再発リスクを点数化したもので、抗がん剤治療を受けるか否かの重大な判断に使われます。が!この検査、数年前まで誰もが簡単に受けられる検査ではありませんでした。なぜなら、物凄く高価だったからです。

オンコタイプDXの結果は1カ月ほどで届く


2021年までオンコタイプDXは保険適応にならない検査で、なんとそのお値段45万円!この価格が大きな壁となり、再発リスクの高いルミナルBタイプの乳がん患者さんは抗がん剤治療の対象とされ、最終的には自身や医師の判断によって抗がん剤治療を始めていたと思われます。ようやく2023年9月から保険適応になり、現在は自己負担13万円ほど(それでも高価ですが💦)で受けられるようになりました。高額療養費制度の適応も可能です。実際、保険適応後どのくらいの乳がん患者さんがこの検査を受けているのかは不明ですが、厚労省の推計によると年2万人弱が受ける見込みとのことでした。

遺伝子検査の結果

実はこの遺伝子検査、わたしは幸運にもタダで受けることができました。わたしが乳がんに罹患した2022年は保険適応が検討されていた時期でしたが、販売製造元の開発が遅れ価格が定まらず、一時的に無料開放されていたためです。検査を受ける前の医師の診断では、わたしの再発リスクは「中間リスク」で、抗がん剤治療が迷われるケースでしたが、オンコタイプDXの結果、抗がん剤を使用しても上乗せ効果が期待できず、抗がん剤治療をしなくてもよいという判断に至りました。オンコタイプDXは、わたしのような中間リスクに該当する乳がん患者さんの抗がん剤治療の判断に最も有効ですが、逆に抗がん剤治療を拒否する患者さんが、抗がん剤治療を考え直すための有効な検査にもなります。わたしは遺伝子検査を受けて本当に良かったと思っている一人です。

この情報が、どなたかのお役に立てれば幸いです。

*Gombos A. Curr Opin Oncol. 2019; 31(5): 424-429.








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