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静寂の国

何も答えられないという苦痛 何も知り得ないという空虚 掴めぬ光 幽き闇の 静寂に暮れる

    • 青い純白

      原っぱに寝転んだ 君と私で 青々とした 柔らかな芝生の上は ひいらり ひらりと 桜の花びらが 宙を舞う 夢みたいに あどけなく 私たちは 微笑った そよ風の 贈り物だねと 空に向かって 微笑った 芝だらけの背中 放心した心に ただ花びらの 純白が通る

      • トリコと僕

        弛まぬ歩みを見せる二つの孤独 手を取り合うと生命の灯は宿り 斯くして二つは道を共にした 先々に敵は現れ 行く手に視線は立ちはだかった しがみついた体 生きることを選んだ先に 解り合えぬ孤独を 兵どもが引き裂こうとする すると一つは果敢に飛び掛かった 歩み留めぬ二つの孤独は 己自身に打ち勝ったのだ

        • 青い炎

          裡側に灯る 揺らめく 青い炎 どんな言葉も 灼き尽くし 胸の中で 静かに燃える 裡側に閃く 青い炎 焚べるのは 新しい言葉 冷たく 時には熱く 幽遠に 燃え続ける 其れは 微かな光 深淵なる美 この心 とこしえに 立ち出でぬ 青い炎

        静寂の国

          紅い露

          足下に咲く露草の 薄っすら紅が差してあり 細やかな葉に隠れてる 其の愛らしさが心惹く 露を吸わない露草の 露は僕が持ちこもう 川に手浸して露草に 雨降る如く振り掛ける 足下に在る露草の 薄紅清き露に咲く 此の手に掛かる露にさえ 溢れんばかりの紅が咲く

          陰ありや

          噫、陰を纏わせてくれ 十二分に頼む 陰だけに、浸りたい 誰にも知られず、悟られずに ただ陰だけに、塗れたい 頭の先から足の先まで 陰の余すこと、この上なく 陰の陰に、狂気なる陰の、とこしへに

          陰ありや

          黝き夢

          なすやなさぬのただそれのみよ 花と生きしも、いひけたれども 売れざる花なば、野に咲きやいいさ 咲くや咲かなのただそれのみよ 咲きぬる花のあるがままにし ただごとならず、なぞも生きぬれ 普遍と風の流るるごとに、時にこそ従順であらましや こやこそが老いを養ふとふものなり 然らば棚引きゆ三昧の煙も、郷愁のごと  風に吹きぬれ、 見や清閑なり、空へと融くらむ 花吹雪く世に点く鴉の雅なり 闇直中にある方の、いと幸ひなるかなあはれなり 口遊びらるや、光知るべき方なりなむや、と または

          花烏

          穏やかな春の午后 桜の星が散らばる中を 颯爽と横切る烏が居た 路行く人を意にも介さず 彼は枝から枝へ飛び移る 隣の桜に居る烏に 控えめな聲を一啼き二啼き 何かを報せつ呼び合っていた 春吹く風に其の歌を乗せ 二羽は示し合わせたかの様に 星が生まれた其の枝を折って行った

          芒の夜

          さやかにそよぐ眼前の 芒野原の夜は更ける 連綿と続く畑は限りなく 提灯のみが畦道を照らす 文明の影は此処に及ばず 顕になるのは此の常世 しめやかに身を寄せる夜の 忘れられない或る日の追憶

          逢瀬の夢

          夢の中で戯れていた 君の手を取って 何処までも歩いていた 帰りたくないと言う君 ならば僕が守ってあげる 此処での僕は青年の姿 夢の中で戯れていた 海岸やゲーセンで遊んだ リボンを着けてと言う君 君の首にそっと手を回し 大切そうに取り付けた 此処での君は女の子の姿

          逢瀬の夢

          紺碧に帰す

          庭に出でたる竜胆(りんどう)は 空の如くに青黒し 赫々と照る道標 虚げなるがいとをかし 人に踏まれき在りし日の されど鳴いてる鳥の子の 紺碧色やいとをかし 吸いぬる蜜の染み入れば 口に含んで呑み込めば そこはかとなく戀の味 標を欠いた竜胆の 虚げなるも庭に咲く 月影いたく古びゐぬ 庭戸に人は寄り付かず ただ一人居ぬ鳥の子の 紺碧有りや空の中

          紺碧に帰す

          朝の歌

          朝焼けが花々を揺り動かす 光の絨毯は大海の様に広がり 梢は懇ろに手を差し伸べる 花、光、木の葉、風… 流れる旋律は僕を纏い 其の輪郭さえ朧気にした 嗚呼、朝が始まる 心にも、朝が来る

          春、花巡り

          足柄山を逍遥す 桜風に吹かれ辿りし路の果て 地蔵堂の傍で はらりはらりと 吾にうららに降り掛かる花びらありや 山々に白々と霞たる桜のいと美しき 生垣には椿が落ちぬ 未だ蕾の菫も咲き匂ふ 哀しくも、儚くも、花々の命巡りけり

          春、花巡り

          飽く事なく銀河を見つめる黒猫

          飽く事なく銀河を見つめる黒猫

          天気雨

          青空を雲が流れている 堰を切った様に心早まる 秋告げしはじめの空は 今日読んだ言葉の景色にも似て 晩夏の蝶が吾の顎上げて 途切れし雲から出でる 玻璃の如き雨の降りしきる 蝶は雨粒を其の身に受ける 虹の架からない其の路で 起きた奇跡を辿り ひとり夢見て狼狽えて 視線は忽ち上を視る 歩み早める吾が脚よ 蝶の火よりも真っ直ぐに 雨の止む頃背後では 啄木鳥がたたと鳴いていた