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私は「コレ」で整備工場を続けてきました

小規模自動車整備工場を営んでいるセキと申します
車を通じて「人」に焦点を当てます


Aさんは個人事業主として長らく整備工場を営んでいたが、高齢になり数年前廃業した。世代的にも機械整備全盛期の人であり、電装系、制御系がちんぷんかんぷんで、やれと言われた作業は出来るが不具合原因を特定する故障探求が出来ない人だった。
だがAさんには多くの顧客がついていて、皆から頼りにされていた。

覚醒準備

さて現役当時、Aさんは自分が出来ない整備、分からない整備は外注に出していた。時にディーラー、時に他の整備工場、私も何度か受けたことがある。
一方、自動車整備業では「外注に出す行為」を「いい加減な行為」と捉える人が一定数居るため、Aさんは予め顧客に伝えていた。

覚醒直前

私がAさんから受けた車を直し、そしてAさんと共にその顧客宅に納車同行したことがある。ただ、顧客に説明するのはAさんの役目だ。私は「ちゃんと説明できるかなあ」と不安に思った。

呼び鈴を鳴らし、そして顧客と話すAさん。
私はその後ろで何気に会話を聞こうとした。Aさんがやらかしたら助け舟をださねばならんのだ。

覚醒

ところがどうだ、もーの凄く流暢に説明している!
顧客は「さすが!」と言わんばかりに「うんうん!」と頷いている!えー?
「特性ズレでこのセンサーを交換しましたよ、云々」と、何がどうなってこの部品を交換せねばならないのか、話している当人が絶対理解できていないはずなのに!!

調子がいい人、と言えばそれまでだ。いやしかし・・・

余韻

そしてお代をいただいたのち、5分ほどは玄関先で立ち話
最後は「わははは!じゃあまたお願いします」とお互い笑顔だった。

帰りの車中「お客さん、なんだかニコニコしてたな」と話しかけた。
「そうじゃ、そのニコニコが大切じゃ」とAさん。
・・・車の事は何もわからないのに、なんでこんなにグッとくるような事を言ってくるのだ、この人は。

整備技術の無さを補ってなお余りある接客技術か・・もともと好かれる人当たりをしているしな、良いも悪いも自分自身をよく知っている人だ。
自覚しながら最後までその手法を貫いて、めでたく廃業届を出した。

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