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レイコの自分⇔自分 お悩み相談室   1969年5歳「先生に『お口の色はピンクじゃないでしょ』と言われました」

幼稚園で、自分の顔を描いて壁に貼ることになりました。
「見たままを描いて」というキーワードが、5歳のわたしを迷路に連れていきました。
 
 
今のレイコ(以降「レ」):鏡を見ながら自分の顔を描いて、って言われたんだね。
5歳のレイコ(以降「5」):うん。見たままをかいて、って。
:だから、先生の言う通り、ちゃんと鏡を見て一所懸命描いた。
:うん。
:でも、描き終わって先生に見せたら…。
:「お口のいろはピンクじゃないでしょ。でしょ」っていわれた。
:えー? って感じだよね。
:うん。だって、見たままかいたんだよ。かがみにうつってたわたしの口は、赤のクレヨンより、ピンクのクレヨンのいろが、見たままだ、っておもったの。
:でも、違うでしょ、って言われちゃったんだね。

:口のいろは、赤ってきまってるの?
:いや、そんなことはないね。多分、先生はね「ピンクは口紅を塗った色」って思ったんじゃないかな。唇は、血の色が透けていて、「血の色=赤」って表現されることが多いから。でもさ、よく見ると唇は、リンゴやポストみたいな鮮やかな赤色ではないよね。だから、赤いクレヨンは選ばなかった。
:うん。
赤に見えない、とは言えなかったね。大人の言うことの方が正しいって思ってたもんね。
:わかんないけど。いわれたら、そうなのかなっておもっちゃう。だから、赤くした。

:その自分の顔は、壁の模造紙に大きな木の絵が描いてあって、そこに貼るから首から上を描いてってことだったんだよね。
:うん。なんか、見たままちゃんとかこうとしたんだけど、うまくかけなかった。
:髪の毛伸ばしてて、後ろでまとめて縛ってたよね。ポニーテールって感じではないけど。
:うん。くびから上だけになったら、しばってるかみの毛は、かおの下から見えるようになる、っておもったの。だから、そのとおりにかいたら、あごヒゲみたいになっちゃって。まわりの子から、「ヒゲはえてる」って笑われた。
赤い唇に髭の自画像って、めちゃくちゃシュールだよね。そのまんま、壁に貼られちゃったよね。

:リアルを追求したのに、いろいろダメダメになったねえ。
:なんでかな。見たまま、おもったままじゃ、ダメなの?
:ダメじゃないよ。むしろ、大事なことだよ。大人になっていくほど、そのままの自分を表現できなくなることがどうしても増えてくるんだ。だから、見たまま、思ったままを伝えようとする気持ちはとても大事なんだよ。
:でも、ダメだったじゃん。おこられたし、笑われたじゃん。みんなはちゃんとかわいくかけたのに。わたしはみんなみたいにできなかった。
:怒られたり、笑われたりするくらいなら、何もしない方がいい?
5:うん。
:それも、自分の心を守る方法かもしれないね。傷つくのはイヤだし、つらいから。
:なんでうまくできなかったんだろ。うまくできないなら、もうやりたくない。
:まあ、そうだよね。でも、失敗って本当にいけないことなのかな。
:しっぱいはやだよ。おこられるのも、笑われるのも。
:でも、自分はこうだ、って思ったから描いたんでしょ。その気持ちに嘘はないよね。それに対してダメ出しするかしないかは、その人の感じ方や考え方によるから、そこにも嘘はないんだよ。
:そしたら、やっぱり、しっぱいしたわたしがわるいのかな。
:そうじゃないよ。自分がやったことで、相手の反応がよくなかったら、「なぜそう思うのか」って聞いていいんだよ。怒ったり、笑ったり、人の表現には必ず、そうする理由があるから。そして、「自分はこう思ったんだ」って話していいんだよ。話さないと、伝わらないから。まあ、大人になってからのわたしもそれはなかなかできなかったから、5歳のわたしにも難しいのはわかる。それでもね、少なくとも、自分はダメだ、って思う必要はないよ。真剣に見たまま考えたままを描いたんだから。

 


【落ち武者の唇は赤かった?】


今回のタイトルの絵は、この当時を思い出しながらわたしが描きました。
5歳の自分が、後ろで縛った髪の毛は背中の方まで届いているから、頭だけになったら顔の下から見えるはず、とは、我ながらよく気づいたものだと思います。その通りに描いたら、戦国時代の晒し首になった武士状態になってしまいました。隣で描いていた子に笑われて、気分はまるで敗残の落ち武者です。

さらに、鏡に映った自分の顔をじっと観察して、唇は赤じゃない、ピンクの方が近いと気づいてその通りに描いたら、「赤でしょ」と先生に言われてしまい、落ち武者はそこでトドメを刺されてしまいます。
「見たまま」を描いたのに、それを否定されてしまったことはショックで、だからこそよく憶えているのでしょう。

これは今のわたしが考える推測に過ぎませんが、あの時の先生は、「ピンクの唇は化粧をした時の色」だと思ったのではないかと。今から半世紀以上も前の時代です。もっと言ってしまうと、「化粧は自分のためにするものではなく、異性にアピールするためにするものだから、幼稚園児が化粧に興味を持つなんて早すぎる」という思いが、強い決めつけとも言える表現になったのかもしれません。

化粧をしていない状態の唇の色は、人それぞれです。「わたしは赤に見えなかった」と言えればよかったのかもしれませんが、「大人の言うことの方が正しい」と思っていた子供の自分には無理でした。
大人だって、間違ってばかりなのにね。
 


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