あとで読む・第33回・畠山理仁『黙殺 報じられない無頼系独立候補たちの戦い』(集英社文庫、2019年、初出2017年)

今年(2023年)中に観に行かなければと思っていた映画『NO 選挙、NO LIFE』(監督:前田亜紀)をようやく観に行くことができた。『ヒルカラナンデス』のダースレイダーさん、プチ鹿島さんが「選挙亭漫遊師匠」と尊敬するあの畠山理仁さんである。今年は選挙に関するドキュメンタリー映画が立て続けに公開された(『センキョナンデス』『シン・ちむどんどん』、監督はいずれもダースレイダー、プチ鹿島、など)が、そのトリをつとめるのが真打ちの「選挙亭漫遊師匠」こと畠山理仁さんということか。
2022年の参議院議員選挙の東京選挙区での立候補者は34人を数えるが、そのすべての候補者に接触し、直接取材を敢行する。この中には、かつては「泡沫候補」と揶揄された「無頼系独立候補」がかなりの割合で存在する。畠山さんはその人たちにも平等にカメラを向け、インタビューをし、その内容をノートに書き込んでいく。すべての候補者に対して敬意を表し、平等にまなざしを送るのである。それでいてどの候補者、政党にも肩入れしない。これが畠山さんの選挙取材の特徴である。
「無頼系独立候補者」の声は、選挙期間中に有権者に届くことはほとんどない。だからこれまではまったく気にかけない存在だったのだが、この映画の中の独立候補者たちは、みなまじめに政治のことを考え、自分の主張を誠実に届けようとしていることに気づかされる。私たちはたんに知らなかっただけのだ。でもなかには可笑しい主張もある。それでも畠山さんはその主張を平等に聞き続ける。なぜこのような面倒な取材をするのか。映画の中で畠山さんは「立候補している人と似てると思うんですよ、自分が」という。だれからも相手にされなくても、声が届かなくても、赤字になっても、自分のやりたいことを貫いている。これはまさしく自分ではないか。だから畠山さんのまなざしはどんな候補者に対しても暖かい。この映画は、孤軍奮闘をしながらも声が届かない人への「人間賛歌」なのだ。
畠山さんのまなざしは、候補者だけでなくそれを見守る人に対しても向けられる。宗教団体を母体とする政党の候補者の関係者に対して、その政党の支持者と思われる人がすごい剣幕で叱っている。相手が萎縮するくらいの迫力である。何をそんなに怒っているのだろうと、畠山さんはつい興味を持ち、その人についていって「なぜそんなに怒っているんですか?」と話を聞きに行く。そんなことまでいちいち拾っていったら時間がいくらあっても足りない。でもどうしても聞きたくなるのだ。その気持ちは、私にも少しわかる。そりゃあ聞きたくなるよね。
いつも候補者に対してフラットなテンションで接している畠山さんが、一度だけ激怒する場面がある。それはフリーランスライターの矜持を垣間見た瞬間だった。
映画の感想ばかりになってしまった。これまではインターネットメディアに登場する畠山さんばかりを追いかけてきたが、あとで著作も読んでみよう。手始めに選んだのが、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した標記の本である。

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