三上喜孝

書ける範囲のことを書いていきます。

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マガジン

  • いつか観た映画

    過去の映画をめぐる回想。

  • オトジェニック

    音楽をめぐるあれこれ。

  • 忘れ得ぬ人々

    「ふとしたとき、どうしているのかな?と気になってしまう。自分の中に爪跡を残している。でも、連絡をとったり会おうとは思わない。そんな、あなたの「忘れ得ぬ人」を送ってもらっています」 という、TBSラジオ「東京ポッド許可局」のコーナー「忘れ得ぬ人々」にヒントを得て書いています。

  • あとで読む

    なぜその本を読もうと思ったか。

  • 妄想

    1冊の本から広がる妄想

最近の記事

オトジェニック・小椋佳「想い出してください」(1980年)

昨年(2023年)の春、比較的大きな企画展示を担当した。初めての体験で、準備はかなり大変だったけれど、支えてくれるスタッフをはじめ、人間関係の幸運に恵まれ、それはそれは楽しい時間だった。 企画展示には展示図録というものを作らねばならず、そのためには、展示作品の写真を集めなければならない。もし写真がなければ、先方から展示作品をお借りするよりも前に、あらかじめ写真を撮りに行かなければならない。企画展示の開催初日に展示図録を披露するには、そうしないと間に合わないからである。 企

    • いつか観た映画・『天間荘の三姉妹』(北村龍平監督、2022年)

      当時4歳だった娘と2人で『天間荘の三姉妹』を観に行ったのは、若い友人にのんさん主演の映画『さかなのこ』(2022年)を薦められて、娘と二人で観に行ったことがきっかけである。この映画がきっかけで、娘はのんさんのファンになった。 私はといえば、のんさんのファンであることはもちろんだが、『さかなのこ』が、私が大好きな映画『南極料理人』の沖田修一監督の作品であることで俄然興味を持ち、さらに劇伴音楽がこれまた私の大好きな「パスカルズ」だということで、観ないという選択はあり得なかったわけ

      • 牧野富太郎『なぜ花は匂うか』(平凡社、2016年)

        2018年のこと、ふとしたことが縁で、アジア・太平洋戦争中にマーシャル諸島で亡くなった日本兵の佐藤冨五郎さんが死の直前まで書いた日記を解読するお手伝いをした。鉛筆書きが薄くなり、肉眼では読みにくかったものが、職場の赤外線ビデオカメラによって鮮明に映し出されたときの衝撃はいまも忘れない。そのときの興奮は、大川史織編『マーシャル、父の戦場』(みずき書林、2018年)にエッセイとして書いた。同年、佐藤冨五郎さんの長男である勉さん(宮城県亘理町在住)が父の戦場であるマーシャル諸島を訪

        • オトジェニック・坂田明『ひまわり』(2006年)

          東日本大震災で津波の被害を受けた岩手県陸前高田市に初めて訪れたのは、2012年5月末のことである。 道中、友人のKさんの運転する車の中でかかっていた音楽が、ふいに私の胸を打った。映画「ひまわり」のテーマ曲とか、「見上げてごらん夜の星を」とか、「遠くへ行きたい」とかといった印象的なメロディを、アルトサックスの独特の音色で奏でているCDである。 高校時代に吹奏楽でアルトサックスを吹いていた私は、そのCDのことが気になって仕方がない。 「あのう、聞こうか聞くまいか迷っていたんですが

        オトジェニック・小椋佳「想い出してください」(1980年)

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        • いつか観た映画
          12本
        • オトジェニック
          5本
        • 忘れ得ぬ人々
          13本
        • あとで読む
          44本
        • 妄想
          9本

        記事

          いつか観た映画・『ひまわり』(ヴィットリオ・デ・シーカ監督、ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ主演、1970年)

          いまから2年ほど前(2022年)のこと。 例によって文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」を聴いていると、月曜日のオープニングトークのドあたまは、いつも阿佐ヶ谷姉妹の美しいアカペラコーラスから始まるのだが、今日はそれがない。おかしいな、と思っていると、メインパーソナリティーの大竹まことさんがおもむろに、 「今日はこの曲から聴いていただきましょう」 と、いきなり曲が流れた。オープニングではあまりないパターンである。 流れた曲は、映画「ひまわり」のテーマ曲だった。むかし観た映

          いつか観た映画・『ひまわり』(ヴィットリオ・デ・シーカ監督、ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ主演、1970年)

          忘れ得ぬ人々・第9回「ミーハー講師控室」(後編)

          午後3時半になり、講義を開始した。5時半までの2時間、ノンストップで講義をして、あっという間に終わった。 受講生のみなさんが教室を出たあと、私が教室を出ると、廊下に人びとが列を作って並んでいた。並んでいる人の先を見ると、篠井さんがサイン会をしている。並んでいるのは全員女性で、どうやら篠井さんの講座を聴きに来た受講生の方々のようである。 担当のMさんが私に言う。 「よかった。まだ篠井先生、いらっしゃいましたね。少しお待ちいただければ、あとでご紹介いたしますよ」 その言葉に、ふた

          忘れ得ぬ人々・第9回「ミーハー講師控室」(後編)

          忘れ得ぬ人々・第9回「ミーハー講師控室」(前編)

          2012年のことだからいまから12年ほど前のこと、東京の大手カルチャースクールの講師を1回だけつとめることになった。都内の超高層ビル街の一角にある教室でである。 午後3時半から開始だが、少し早めに会場に着いた。担当のMさんにご挨拶して、講師控室に入る。都内でもいちばんの集客数をほこる教室だが、講師控室は意外と狭かった。講義の前の予習をしていると、おそらく私と同じ時間に講義をされる先生方が、その狭い控室に次々とやってくる。なかには、テレビによく出る「有名教授」もいた。 (さすが

          忘れ得ぬ人々・第9回「ミーハー講師控室」(前編)

          木皿泉『すいか』(河出文庫、2013年)

          『すいか』(日本テレビ、2003年、毎週土曜日夜9時、全10回)は、木皿泉脚本、小林聡美主演のドラマ。2003年放送だから、もう20年以上も経つのか。 東京の三軒茶屋の下宿「ハピネス三茶」を舞台に、30代半ばで独身の銀行員(小林聡美)、ちっとも売れない漫画家(ともさかりえ)、風変わりな大学教授(浅丘ルリ子)、といった女性たちが、それぞれにさまざまな「過去」や「事情」や「悩み」をかかえながら、些細なことに生きる価値を見いだし、少しずつ前に進み、自分らしさを取り戻していく、とい

          木皿泉『すいか』(河出文庫、2013年)

          忘れ得ぬ人々・第8回「集団下校」

          「ふとしたとき、どうしているのかな?と気になってしまう。自分の中に爪跡を残している。でも、連絡をとったり会おうとは思わない。そんな、あなたの「忘れ得ぬ人」を送ってもらっています」 という、TBSラジオ「東京ポッド許可局」のコーナー「忘れ得ぬ人々」にヒントを得て書いています。 娘が小学校に上がり、登下校に気を揉む毎日である。小学校の後は学童保育に通っているので、朝はちゃんと学校に行けたかな?夕方はちゃんと学童から帰ってこれるかな?と心配するのだが、先日娘は、同じ学童で友だちに

          忘れ得ぬ人々・第8回「集団下校」

          小林聡美『茶柱の立つところ』(文藝春秋、2024年)

          いろいろな世代の人のエッセイを読むのが好きだ。でも一番落ち着くのは、自分と同じ世代の人が書いたエッセイである。同じような年齢のときに同じような時代を体験をしているからなのかもしれないが、もう一つ、自分と同じように年齢を重ねて、エッセイの書きぶりが年齢とともに研ぎ澄まされていく感じが心地よい。若い人(ここでいう「若い人」というのは、アラサーくらいを想定)の書くエッセイは、たしかに面白いし、センスもあるし、学びも多くて刺激的なのだが、ときおり胃にもたれることもある。 10代の頃か

          小林聡美『茶柱の立つところ』(文藝春秋、2024年)

          ハンドサイン

          この4月の娘の小学生の入学式のとき、クラスごとに、児童に加えて保護者もまじえて集合写真を撮ることになった。 最初は、かしこまった感じの写真を撮ったのだが、カメラマンがくだけた感じの写真を最後に撮りたかったらしく、 「じゃあみなさんでピースサインをしましょう!」 と声をかけた。ま、写真のポーズといえば、人差し指と中指を立ててVの字のようにかたどったピースサインがおなじみである。 そのとき、私はあることを思い出した。私が尊敬する映画作家の大林宣彦監督の写真のことである。 大林宣

          ハンドサイン

          楳図かずおの『ウルトラマン』

          ほとんど漫画は読まない。だが子どもの頃、いちばん好きだった漫画家は楳図かずおだった。いまでもそうかもしれない。とくにあの怪奇漫画は、私の心をとらえてはなさなかった。 いちばん好きな楳図漫画はどれか、といわれたら、迷うことなく『おろち』と答える。なかでもいちばん好きなエピソードは、「ステージ」である。「ステージ」は、いわゆるホラー要素がまったくないのだが、人間の憎しみや復讐をテーマにした人間ドラマと言うべき文学的傑作で、何度も読み返した。『おろち』については、別の機会に書くか

          楳図かずおの『ウルトラマン』

          忘れ得ぬ人々・第7回「鍋を囲んだ夜」

          「ふとしたとき、どうしているのかな?と気になってしまう。自分の中に爪跡を残している。でも、連絡をとったり会おうとは思わない。そんな、あなたの「忘れ得ぬ人」を送ってもらっています」 という、TBSラジオ「東京ポッド許可局」のコーナー「忘れ得ぬ人々」にヒントを得て書いています。 前の職場(大学)に勤めているときの話。 同僚との宴会で隣にいた、私より10歳ほど年上の同僚が言った。 「若いってのはいいですねえ。学生との距離も近いし。僕なんか、年々学生との距離が離れていくばっかりで…

          忘れ得ぬ人々・第7回「鍋を囲んだ夜」

          妄想8・手塚治虫『ロストワールド』(1948年)

          3年ほど前(2021年)の話。 視覚障害者向けに本を音読する奉仕団の方が、うちの職場で作った企画展示の図録の音読をすることになった。私もその本に少しだけ書いているのだが、私の書いたコラムの中で、読めない名前があるので、読み方を教えてほしいという問い合わせが来た。 私はそのコラムの中で、「モンゴル風の名前」として、「伯顔帖木兒」と「都兒赤」という名前を紹介したのだが、この二つは何と読むのか、という問い合わせである。 自分で書いておいて、この二つの名前が何と読むのか、まったくわ

          妄想8・手塚治虫『ロストワールド』(1948年)

          あとで読む・第44回・古賀及子『おくれ毛で風を切れ』(素粒社、2024年)ほか

          三鷹の独立系書店UNITEでおこなわれた藤岡みなみさん(文筆家・ラジオパーソナリティー・タイムトラベラー)と古賀及子さん(ライター・エッセイスト)のトークイベントに来店参加した。 古賀及子さんのお名前は、藤岡みなみさんが編集したZINE『超個人的時間旅行』で初めて知ったが、このトークイベントは、古賀さんの最新刊『おくれ毛で風を切れ』と『気づいたこと、気づかないままのこと』(シカク出版、2024年)の刊行を記念してのものである。 お二人の話は楽しく、多くのパワーワードをもら

          あとで読む・第44回・古賀及子『おくれ毛で風を切れ』(素粒社、2024年)ほか

          読書と回想・大平しおり『大江戸ぱん屋事始』(角川文庫、2024年)

          この文章を公開するのは、2024年4月12日、「パンの日」である。日本で初めてパンが本格的に製造されたのが天保13年(1843)4月12日だったことに由来するという。 以前、私が大学に勤務していたときの教え子が小説家として活躍しているという文章を書いた。大平しおりさんである。 あとで読む・第41回・大平しおり『土方美月の館内日誌~失せ物捜しは博物館で~』(メディアワークス文庫、2014年)|三上喜孝 (note.com) 2月初旬に岩手県奥州市で再会した折に、「3月に新

          読書と回想・大平しおり『大江戸ぱん屋事始』(角川文庫、2024年)