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オトジェニック・スターダスト・レビュー「木蘭の涙」(1993年)

2年ほど前(2022年)、NHK-BSP「The Covers」の「スターダスト☆レビューLIVE」(5月27日放送)を見た。感染対策に配慮しつつ観客を入れたLIVEだったが、客層は明らかに、アラフィフの年代の人ばかりである。
とりあえず、「木蘭の涙」が、世の中を席巻したアコースティックバージョンではなく、オリジナルのバンドバージョンだったのがよかった。
「木蘭の涙」は、何といってもオリジナルのバンドバージョンに限る。村下孝蔵さんの時にも述べたが、情感のこもった歌ほどテンポの速いポップ調のほうがよいのだ。アコースティックバージョンはバラード調になり、感傷的になりすぎるきらいがある。
アコースティックバージョンが歌われ始めた頃、この曲は注目を集め、いろいろなアーティストがカバーをした。そのうち、誰のオリジナル曲なのかわからなくなっちゃって、

「『スタレビさんも、「木蘭の涙」をカバーするんですね』、と言われたんですよ」

と、そのLIVEでボーカルの根本要さんが、本当とも嘘ともつかないMC を炸裂させて、会場を笑わせていた。
あるテレビ番組の受け売りだが、大滝詠一さんが、本当にいい曲というのは、作った人間の手を離れて、いつしか「詠み人知らず」のように歌われるようになることだと語っていたという。「木蘭の涙」も、もはやその域に達しているということなのだろう。
ネット上で読んだ、、根本要さんのインタビューが、とてもよかった。

「僕らが40年続いたいちばんの理由は、売れなかったことかもしれない」
「本当にヒット曲はないんです。でも長いこと歌っていると、世の中の人が勝手にヒット曲のように感じちゃうらしく、実際は『木蘭の涙』だって20位くらいで、『今夜だけきっと』は50位にも入ってない。だから最近は“ヒット曲でもないのに知られてる曲がある”って自虐的に言ってます(笑)。本当にヒット曲のないバンドなんです。でも、世の中の人たちはそこに価値を見出す。ありがたいことに今回こうやってインタビューしてもらっていますが、僕らはただのマニア向けバンドかもしれません。でも音楽は、マニアックに聞いてくれたほうが、それまで知らなかった音に出会えたりするんですよ。僕自身も“もっとマニアックに音楽を聴こう”と思います。時代と共に薄れる曲よりは、“あなたの中でのヒット曲を作ろうよ”と。売れた曲を“ヒット曲”と呼ぶより、心を叩いてくれた曲を“ヒット曲”と呼んでほしいですね」(週刊女性PRIME 、 2022年6月4日)

そういえば、ムーンライダーズも、まったく同じことを言っていた。
ラジオ番組で、「バンドが長続きする秘訣は?」と聞かれて、

「ヒット作(代表作)がないこと」

と答えていた。
そういうふうなスタンスで仕事が続けられたら、どんなにいいだろう、と憧れる。比べるべくもないが、私もこれまで、そういうスタンスで仕事を続けてきたつもりである。
ところで、さきの根本要さんのインタビューでは、こんなことも言っていた。

「『木蘭の涙』はたくさんの方にカバーしていただいていますが、なかには“あれ? オリジナルを聴いたことないのかな?”ってカバーもありますよね。やっぱり原曲へのリスペクトはとても大切だと思います。最初にカバーしてくれたのは佐藤竹善とコブクロ、最近も鈴木雅之さんが歌ってくれていますが、僕よりうまくて困りました(笑)。原曲はバンドでの演奏ですが、アコースティックバージョンがよく歌われます」

いろいろなアーティストが「木蘭の涙」のアコースティックバージョンをカバーすることに対して私が違和感を抱いていたのは、そういうことだったのかと、溜飲が下がった。LIVEでオリジナルのバンドバージョンを演奏したのは、いまいちどオリジナルバージョンのよさを知ってほしいというメッセージだったのかもしれない。

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