あとで読んだ・第11回(後編)・和田靜香『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』(左右社、2023年)

軽妙な文章で、軽快な音楽を聴くように読める。さすが音楽ライターだった和田さんらしい、――と言っても面識がないのでそんな知ったふうな口で書くのはおこがましい。ただ、メディアで見かける和田さんの風貌と語り口を思い浮かべると、思わず和田さんらしいと言ってしまいたくなるのである。私の中で和田さんは、完全に阿佐ヶ谷姉妹のミホさんと重なっている。
軽妙な語り口だが、それでいて情報量が多い本でもある。「個人的なことは政治的なこと」と言われるように、自分の生きづらさの原因は政治にあるのではないだろうか、それを解決する方策はないかと考えたあげく、神奈川県大磯町の町議会がパリテを実践している事実を知る。「地方自治は民主主義の最良の学校であり、その成功の最高の保証人である」(イギリスの政治学者、ジェームス・ブライスの言葉)との言葉の通り、答えはそこにあるのではないかと、鼻息荒く大磯町に乗り込む。
そこでの出会いがまたいいんだ。まったく縁もゆかりもなかった大磯町で、たまたま入ったギャラリーの女性店主と意気投合する。そこから始まり、さらに町でがんばっている女性たちと次々にめぐり会っていく。会うたびにいろいろなことに気づかされ、自分自身を見つめ直していく。もちろんパリテをめぐる政治についての本なのだが、50歳を過ぎての和田さんの「成長物語」にもなっている。
本屋B&Bでの小泉今日子さんと和田靜香さんのトークイベントで「この本、ドラマになりそうだよね」と小泉今日子さんが言っていた。私もそのつもりで読んでいくと、たしかにその通りだと思った。
それで思い出したのが、私が子どもの頃に映画館で観た映画『茗荷村見聞記』である。1979年公開というから、私が11歳のときに映画館で観たことになる。
知的障害者教育の第一人者、田村一二さん原作の同名小説を映画化したものである。ごく普通の老若男女と心や身体に障害をもつ人たちが、一緒になってその村に住み、それぞれに適した仕事につきながら、その日その日を明るく生きる、ユートピア「茗荷村」の生活を描いていた。
「茗荷村」はもちろん実在しない村である。あくまでも理想郷として描かれるのだが、その村を訪れた主人公の田村さん(長門裕之が演じていた)の数々の出会いが、大磯町を訪れた和田さんの数々の出会いと重なって見えたのである。実際にはさまざまな問題を抱えているとしても、大磯町は和田さんにとってのユートピアだったのではないだろうか。その出会いと気づき、そして和田さんにとってのユートピアを描くことは、ドラマとして十分に成立する、などと素人の私は勝手に夢想する。主演はもちろん、阿佐ヶ谷姉妹のミホさんである。

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