あとで読む・第37回・土門蘭『死ぬまで生きる日記』(生きのびるブックス、2023年)

『戦争と五人の女』(土門蘭著、文鳥社、2019年)を読んだのは、2021年4月に3日ほど入院していたときだった。そもそもこの小説を知ったのは、大川史織編『なぜ戦争を描くのか』(みずき書林、2021年)の中で、大川さんによる土門さんとの対話を読んだことによる。実際に届いた本を手に取ると、真っ赤な表紙が強烈で、しかもそのサイズや質感は、私がふだん仕事で使っている『五體字類』を思わせる。
なかば定期的になってしまった3日間の入院は、治療の時間以外は基本的には何もすることがなく、仕事とは関係のない本を読むことにしている。しかもこの3日間は一人きりである。入院のお供に選んだ本は、『戦争と五人の女』だった。病院の個室のベッドで読んでいると、内容の強烈さと構成の巧みさに、すっかり圧倒されてしまった。物語の終盤は書簡や日記形式になっていて、試みに声を出して読んでみる。夜の静かな病室では、声に出して読まないと自分の中で受け止めきれないと思ったのかもしれない。
この本の感想を、本を紹介してくれた大川さんに伝えると、何日か経って、みずき書林の岡田林太郎さんから、「こんど『戦争と五人の女』の読書会をしますので、三上先生も参加してください」と言われた。コロナ禍の時期だったから、対面ではなくオンラインの読書会ということだった。
私はもともと読書会というのが苦手、というかどんなことを発言したらいいのかがわからないうえに、文学的素養もない。あまりに場違いなのでお断りしようと思っていたのだが、読書会には、その小説を書いた土門さん本人や担当編集者の柳下さん、さらには愛読していた漫画の漫画家の方や個性的な書店主も参加されるということを聞いて、その方たちのお話が聞きたいという誘惑に駆られ、思い切って参加することにした。
読書会に参加するからには、もう一度読み直さなければならない。私は読みながら、複雑に入り組んだ人物相関図をノートに書き、小説の中の出来事を時系列に整理し、印象的な場面や表現のページに付箋を貼ったりした。今でもその付箋は貼ったままである。
読書会は2021年5月の大型連休の1日を使って行われたが、3時間半に及ぶ読書会は実に楽しいものだった。私は自分の貧しい読書体験から、多視点からの独白は福永武彦の『忘却の河』を思わせることや、著者のいう「ファンタジー」小説であると同時に上質な「ミステリー」小説でもある、といったようなことを述べたと記憶する。
私は勝手に想像しているのだが、土門さんはおそらく憑依型の作家なのではないかと思う。作家のカテゴリーに「憑依型」という分類が適切なのかどうかわからないが、書いていくうちに登場人物のひとりひとりに次々と乗りうつり、著者と登場人物が一体化しているような印象を受けるのだ。それは精神的にもものすごい負担なのではなかろうかと推察する。そもそも小説家というのは、みんなそういう思いで小説と向き合っているのだろうか。
標記の本は、昨年11月に地元の独立系書店を訪れたときに見つけて入手した。「生きのびるブックス」の本は『10年目の手記震災 体験を書く、よむ、編みなおす』と『家族と厄災』の2冊を読んだことがあるが、標記の本を含め、読みたくなるラインアップである。

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