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いつか観た映画・山田洋次『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』(1981年)

「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎」のマドンナは、松坂慶子である。
寅次郎は、瀬戸内海の小さな島で出会ったふみ(松坂慶子)という女性と、大阪で再会する。ふみは、大阪で芸者をしていた。
二人は意気投合し、生駒山の宝山寺で初デートと相成るが、そこで寅次郎は、ふみの身の上話を聞いているうちに、彼女に、幼い頃に生き別れた弟がいることを知る。たった一人の肉親である弟とは、小さい頃に別れたっきり、一度も会ったことはないという。「弟は、こんな私に会いたいとは思わないのではないだろうか」と、これまでずっと会うのをためらってきたのだ。
「会ってやれよ。こんな広い世の中に、たった二人っきりの姉弟じゃねえか。会いたくねえわけがねえよ」
今すぐ弟のところに行こう、と、寅次郎はなかば強引に、ふみを連れて、弟の会社にたずねにいく。
「こちらの会社に、ミナカミヒデオという男はおりませんでしょうか」と寅次郎。
「失礼ですが、どういうご関係でしょうか」
「こちらは、ヒデオ君のお姉さんです」寅次郎がふみを指して言う。
「あなたは?ご主人?」
「いや…ちょいとした身内よ」
答えに窮した寅次郎が答える。
もちろん、2人は夫婦でも恋人でもない。かといって、ふみのたった一人の肉親の心配をして、まるで我がことのように一緒についてきた寅次郎にとって、たんなる友人というのも違う気がする。そこで寅次郎は、

「ちょいとした身内よ」

と答えたのである。
この、「ちょいとした身内よ」という言葉のチョイスが、むかしから好きだった。
この言葉の中に、微妙な親密度、というニュアンスが含まれているのだ。
家族でも親戚でも恋人でもない、といって友人という表層的な関係にとどまらない、「ちょいとした身内」というカテゴリー。
この絶妙な言葉のチョイスが、山田洋次監督の真骨頂だと思う。
弟の会社を訪れた2人は、そこで悲しい事実に直面するのだが、それについては、映画を観てほしい。
結局、ふみは寅次郎に、長崎県対馬にいるかねての恋人と結婚することを不意に報告し、寅次郎はお決まりの結果になるのだが、逆にそういうことをわざわざ打ち明けてくれるというのは、「ちょいとした身内」である証拠だ。
それから時が経ち、寅次郎がふみを訪ねてはるばる対馬に渡り再会するラストシーンは、感動的である。

「ちょいとした身内」にふさわしい、再会の仕方である。

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