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Vol.5 一人一人、ひとつひとつを大切に。 シンプルだけど丁寧に作られた、たまごとパッケージの話。 (ふく福たまご)

世の中で生まれているあたらしい働き方、"Good Job!"を見つけ出す取り組み、Good Job! project。2017年までのアワードで受賞した団体の今を取材しています。
Vol.5となる今回の団体は、山形県の養鶏場「ふくふくファーム」です。NPO法人障害者の地域生活を支援する会「ふくふくファーム」が生産しているのは、自然養鶏の卵「ふく福たまご」。地元・山形を中心に販売されているたまごはファンも多く、入荷後すぐに売り切れてしまうこともあるそうです。

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この「ふく福たまご」、パッケージもなんとも魅力的なんです。

Instagramをのぞいてみると、こんな「たまごのジャケ買いをした」という投稿も!

そんなたまごが生まれる場所とは、どんなところなのでしょうか?
始まりから現在に至るまでの道のりについて、そして、デザインの関わりについて、「ふくふくファーム」を立ち上げた鈴木学さんにじっくりお話を伺いました。

場所探しに奔走。山辺町大蕨(おおわらび)にファームを構えるまで。

——「ふくふくファーム」を始めたきっかけについて教えてください。

鈴木:以前働いていた事業所での経験が動機となっています。そこで初めて、ニワトリと障害者の方と関わったんですね。障害者の方と一緒に働くなかで、できるところを一生懸命する姿や、できなかったことができるようになる姿などに触れ、今まであまり感じることがなかった感動のような、心の芯から震えるような経験をしたことが契機になりました。たまごの可能性、活動の幅広さ、面白さがありイメージが膨らみました。自分でやってみたい!と思い、やることにしました。

―いつ頃のことですか?

鈴木:それが2011年のことです。やろう、と思った後、場所を決めるのが一番大変でした。

―場所?

鈴木:はい。ニワトリを始めるということはそれだけでアウェイといった感じです。最初の場所で半年が過ぎた頃に、知り合いから、“昔ニワトリを飼っていた立派な建物が使えるよ”と話をもらい、そこに移動しようと決めました。準備をして、移動する数日前に地域の集会に挨拶にいきました。それまでも地域の区長さんに話をしながら進めていましたが、その集会で住民の方に反対され断念。帰りの車で、しばらく涙がとまらず目が開かなくなった事を思い出します。もとの土地も次に使う予定が決まっていて戻れず、困っていたところに、たまごのお客さんだった焼き鳥屋さんが、“自分家の庭で次の場所が決まるまでやれ”と言ってくれたんです。それで、急いでニワトリ小屋を作って引っ越しました。

ニワトリ達も大変だったと思います。その後も場所を探しながら活動しましたが、よい場所がみつからず、資金的にも苦しくなってきて・・・八方塞がりになり、これまでかな・・・と思っていたときに、今の法人の理事長に声をかけてもらって、そこでやらせてもらえることになったんです。

―そうだったんですね。

鈴木:それで、現在の山辺町大蕨(おおわらび)という自然の美しさと厳しさがある素敵な場所にファームを構えることができ、2019年で7年目に突入しました。その間、沢山の人にお世話になりました。現在、無事に出来ていることに感謝の気持ちが湧いてきます。障害者の方たちもそれぞれの仕事、役割を頑張ってやっていて、よい場所になったと実感しています。

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日山形県山辺町大蕨の大自然のなかにある、ふくふくファーム。ニワトリたちはここでのびのびと育っている。

一人一人のペースを大事にする、仕事の仕組み。

―障害のある方の仕事、役割について教えてください。

鈴木:仕事の内容は、まずはニワトリの世話、餌になる材料集め、餌づくり、たまごの販売、配達、たまごパックづくり、ヤギの世話、農場の環境整備などに分けられます。具体的にどんな仕事をするかは、一人一人、その人の動きや表情を見て、決めています。そのため一人一人が違う仕事をしています。

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―一言で養鶏といっても、いろんなお仕事があるんですね。

鈴木:はい。たとえばニワトリの餌を作る仕事の中でも、材料を入れる人。材料を細かくする人。混ぜる人。発酵させるためのふくろ詰めをする人。ニワトリの飼育(世話)だと、ニワトリが食べる野菜や葉っぱを運ぶ人。水を運ぶ人。そのような働き方です。

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ふくふくファームでは、ニワトリたちが健康に過ごせるよう、餌にもこだわっている。自家配合飼料は、野菜やお米(古米、玄米、米ぬかなど)、麦、そばの実、おからなど、穀物を中心とした植物性のものだ。

鈴木:楽しそうに取り組む人もいれば。静かにじっくり取り組む人もいます。細かい行程に分け、力を合わせて仕上げます。日々、自然のなかで暑い日も雨の日も、吹雪の日もその人のペースで行います。雪が多いところですので、雪はきも重要な仕事になってきます。

みんな、一個のたまごを作るために欠くことができない役割を担っています。たまに、“たまごを食べて感動した”と手紙やハガキが来ることがあります。それもしっかり伝えます。
「ふく福たまご」を待っている人がいることが、私たちみんなの喜びです。
こうして「ふくふくファーム」の仕事が成り立っています。

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魅力を伝える、デザインの力。

「ふく福たまご」のパッケージや、ウェブサイトなどのデザインを手掛けているのは「アカオニ」。
https://www.akaoni.org/
山形県山形市に拠点をおき、グラフィックデザインからWeb、写真、動画、コピーワークなどを展開するデザインチームです。そこには、どのような出会いがあったのでしょうか?

―アカオニとの出会いについてお聞かせください。

鈴木:アカオニとの出会いは、中村清さんという方がいなければありませんでした。たまごを作り始めてしばらくした頃、山形新規就農支援ネットワークの仲間に、“たまごを求めてる人がいる”と紹介されました。それが中村さんでした。中村さんはスーパーの食品包装会社を経営されてましたが、同時に病気と戦っていました。たまごのお客さんになってくれて、よく励ましをいただきました。

パッケージがなかった「ふく福たまご」に‘’人から認識してもらえるパッケージを作れ‘’と支援をいただきました。それが2014年の春の終わり頃です。それからパッケージを作ることにしました。

―パッケージを作る、ということ自体が、お客さんの言葉から始まったんですね。

鈴木:山形県内の産地直売所などを見てまわり、素敵だなと思ったものは、すべてアカオニがやっているものでした。そのような話を以前の仲間にしたら、偶然、アカオニの代表が大学の同級生だったということで、会う機会ができたんです。

―偶然!

鈴木:はい。そして、自分の思いを伝え、現場を見てもらい、何度も話をして、現在の形となりました。
中村さんもとても喜んでくれました。

―そうだったんですね。鈴木さんは、提案されたパッケージを見たとき、どう思われましたか?

鈴木:デザインは、初めて見たとき、素直にびっくりしました。ある程度想像したりするのですが、完全に想像を超えるものでした。シンプルでインパクトがありました。そして、しっくりきました。あとは障害者の方の仕事になるようにとハンコの形にしてくれました。それにはみんなで感動しました。現在も、正確に綺麗にハンコを押してパッケージを作ってくれる人がいて、大事な仕事となっています。

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パッケージは、紙製。一つ一つハンコを押して制作している。

鈴木:ウェブサイトの写真も文章も、自然の中にある農場の空気を切り取ってくれたという印象です。

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みんなで写真撮るときに、ニワトリを頭にのせたり、顔にくっつけたりしたのですが、ニワトリに歯をつつかれて痛かったのを思い出します(笑)。ニワトリは歯をつつくんだなということを学びました(笑)。
写真に関しては、わたわたわたわたとなり、毎秒だいじょぶかな、だいじょぶかなといった心理状態だったと思います・・・前もって言ってくれたら、もっと綺麗に映るように色々準備できたのにな・・・と。でも、そういう準備がなく、かえってよかったんだと思います。働く仲間がよく映っていて「ふくふくファーム」そのものです。

― その後、2015年にGoodJobAward2015に応募いただき、入選されました。そのデザインのコラボレーションが注目されていましたね。

鈴木:デザイナーは、生産者とお客さまの間に入って、生産したものを伝えてくれる。人を動かしてくれる。デザインをしていただいて本当に感謝しています。

―入選後、何か変わったことなどはありますか?

鈴木:パッケージができて、お客様に認知されることが増えましたので、しっかり質の高いものを作っていかなければという思いもあり、養鶏の技術も向上しました。
あとは、ヤギと猫がふくふくファームの仲間入りしたことでしょうか。現在はヤギ2頭に、広い農場の草を食べてもらっています。猫はみんなの癒しになっています。

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ヤギの親子

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 猫は、わさびという名前。

畑で野菜作りも始めました。
また、ここで養鶏を始めてから年月が経って村の人達との交流も生まれ、ファームのみんなも充実して働けていると思います。

働く人にとって、“よい1日だったな”と思える場所でありたい。

―いま、一番大事にしていることは何ですか?

鈴木:一緒に働いている障害者の方に、“よい1日だったな”と思ってもらえること、ここで働けて良かったなと思ってもらえること、そのようなスタッフ、場所であるようにすることです。それが強く一番大事にしていることです。
あとは、できることはそれぞれ違いますが、力を合わせてニワトリ達にも力を貸してもらって。人に喜んでもらえるようなたまごを作ることです。

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―今後チャレンジしたいことは?
鈴木:障害者の方のなかでも、なかなか行き場が見つからない方が多くいます。そのような人達が穏やかにいられる、良い生活リズムを構築できる、働ける、そのような場所を作ることです。

シンプルですが長年現場を経験するととても難しく、意義深いチャレンジです。今すぐできるものでもありませんが、そういう思いがあります。いつか実現すると思います。

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働く人も、ニワトリも、のびのびと過ごせる場所。
一人一人、ひとつひとつを大切にしている、ふくふくファームの取り組み。
そこで、障害のある人の丁寧な手仕事が生み出す「ふく福たまご」。
惜しみなく時間と手間をかけ、愛情を込めて育てられたニワトリたちのたまごは、今日もどこかの食卓で、誰かを笑顔にしているはず。
あなたも、そのパッケージを見かけたら、ぜひ手にとってみてくださいね。

(構成、text:井尻貴子)

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ふくふくファーム
HP:http://www.fukufukufarm.com/

●『Good Job! Award受賞団体のその後』バックナンバー

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