授乳室2

Vol.3 市職員、こども、お年寄り。みんなが「森のキッチン」に集まるワケ

世の中で生まれているあたらしい働き方、"Good Job!"を見つけ出す取り組み、Good Job! project。2017年までのアワードで受賞した団体の今を取材しています。

Vol.3となる今回の団体は、大阪府堺市にある「森のキッチン」です。堺市役所の地下で社員食堂として運営されています。コンセプトは”地域にひらく”というもの。

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運営母体は社会福祉法人コスモス。森のキッチンの運営のほかには障害福祉事業、高齢福祉事業などを行っている法人です。森のキッチンは”障害者就労継続支援施設”として運営されています。食堂の仕事を通して、障害のある人が一般の職場で働けるよう訓練する場でもあるのです。

障害者就労継続支援施設:企業などへの一般的な就労が難しい障害のある人に対して就労に関する継続的な支援を行う場。最終的に一般企業・団体への就職を目標として訓練などを行います。

コスモス施設長の杉村節子さんにお話を伺いました。

Good Job! スタッフ(以下 G):設立当初からの「地域にひらく」というコンセプトは、現在どのように実行されていますか?

杉村さん(以下 杉):幅広いお客さまとのつながりを大切にしてきています。通常の営業時間は17時までですが、森のキッチンの立ち上げ当初、関わっていただいた方を中心に、森のキッチンでの宴会等もさせて頂いていました。市役所の地下にあるという立地上、今では特に堺市の職員さんに使っていただくことが多く、地域の社会福祉協議会の方や、民生委員の方たちなどの集まりや宴会も受けさせて頂いています。

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G:行政関係の方以外にはどんなお客様がいらっしゃいますか?

杉:森のキッチンの宴会利用をききつけた常連のお客さま(昭和初期の生まれの方!)から、「ここで同窓会をしたい」ということで使って頂いたり。はたまた小学生くらいの子どもさんが「お弁当を、ここで食べていいですか?」と来られたこともありました。お弁当を持っていたものの、食べるところがなくて困っていて「森のキッチンに行けば何とかなる?」と思って来てくれたそうです。

杉:ほぼ毎日、たくさんの荷物を抱えて午後の時間に訪れて、のんびり過ごすお客さまがいらっしゃったりもします。みなさんそれぞれに自分の場所として、リラックスされてますね。

G:普通の飲食店であれば、ともすれば断られてしまうかもしれない過ごし方も、受け入れてくれる場所なんですね。

独りぼっちの人をつくらない

杉:森のキッチンの母体である社会福祉法人コスモスは、子どもからお年寄りまでの幅広い年代の人たちが利用する法人です。コスモスは、”独りぼっちの人をつくらない”という理念をもっています。色んな理由で社会的に弱い立場の人がほっとできる場、次の意欲を培うことの出来る場になればと思っています。

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森のキッチンでも、様々な背景を持った人たちが働いています。だからこそ、来る人が思い思いにくつろぐことのできる雰囲気が生まれているのかもしれません。

杉:障害のあるなしに関わらず、どこかしら日々生きにくさを感じている人にとって、森のキッチンは”ほっ”と息をつける場所なのではないでしょうか。

森のキッチンが伝えること

G: 森のキッチンがあることで、社会にとってどんな働きかけができていると思いますか?

杉:いろんな障害ある人が、堺市の役所本庁で、その人らしく活き活きと働いている。その姿は、たくさんの市民の方にとって気持ちを前向きにし、自分も頑張ってみようと元気づけるパワーを持っていると思います。今年お客様に向けてアンケートをとったんですが、「ここ(森のキッチン)は元気の出る場所」と答えてくださった方が大勢いらっしゃって。森のキッチンに来て、誰もが自分らしく生活できると感じてもらえたらと思っています。

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堺市の中核を担う、本庁で働く

スタッフのチャレンジを応援する体制

森のキッチンのスタッフは、加齢などの理由以外はほとんどの方が出勤率100%(!)となっているそうです。これは就労支援事業所としてはとても高い数字。スタッフが働きたい!と思ってくる現場にはどんな秘密があるのでしょうか。

G:スタッフの皆さんはゆくゆくは森のキッチンを卒業し、一般就労を目指しますよね。一般就労へ繋げるために気を付けているポイントや、難しいポイントを教えてください。

杉:本人の気持ちとご家族の気持ちですね。すれ違っていることがよくあって。本人が「就職したい」と思っていても、家族は支援のあるところで安心して生活させたいと思っていたり、本人がまだ就職に対して不安感を持っているけれど、ご家族はうちの子は大丈夫、なんでもできると思っていることもあります。本人の気持ちを大切にして、関係する家族や医療機関などと連携しながら就職に向け支援しています。

G: 苦手なことへのチャレンジをどのようにサポートしていますか?

杉:苦手なこと、できない部分に着目するのではなく、出来ていることをきちんと評価し、そこに自信が持てるように働きかけています。自信が持てると、苦手なことにも挑戦してみようと感じられる。このプロセスを大切にしています。

G:まずは自信を取り戻すことからなんですね。

杉:また、堺市の他の作業所で働く方が、森のキッチンに実習に来られるようにしています。そうした方たちにとって、森のキッチンは今、憧れの職場のひとつ。そうして外から実習に来てもらうことで、また森のキッチンのスタッフたちの自信につながっていくという循環が生まれています。

G:たしかに・・憧れられる仕事をするってモチベーションになりますよね。

杉:森のキッチンのスタッフがいろんな企業に実習に行くこともありますよ。加えて、月曜から金曜日まで、清掃・販売・製造業・リサイクル分別など日替わりで経験のメニューが用意されています。

スタッフの状態に合わせて、取り組み方が綿密に設計されています。「自分にはできるんだ」と認められることから「次はこんなことをやってみたい」へと、ジャンプアップするモチベーションへつながって行くというのは、多くの人にとって共通のことではないでしょうか。そこに丁寧に取り組むこと、普段私たちも忘れがちかも知れません。

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スタッフは色々な場所へ研修へ

G:森のキッチンからの卒業生はどんなところで活躍しているんでしょうか

杉:キッチンの仕事を担当されていた方が、保育所の厨房に就職されました。その方はここで働く前から別の場所でやっぱり厨房での作業していたんですが、なかなか外に気持ちが向かなかったらしいんですね。森のキッチンで働くようになってから、厨房の仕事にやりがいを見出すようになって、自分の仕事、社会の中で働くということに自信がつき、就職したい!という気持ちになって、飛び立っていきました。

杉:それから、元飲食店の店長で、長年活躍していたところに脳梗塞で倒れてしまい、社会復帰でこちらで働くことになった方。この方は自分が福祉分野で働くことに意義を感じて、当法人の試験を受け、今は正職員で働いていますね。一度くじけてしまったことがあったとしても、もう一度頑張ってみよう、頑張りたいと自分を確認できる場。人として、これでないといけないということでなく、いろんな自分があっていいんだということ。それと、そこを認め合う集団であることが大切なのだと思います。

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忙しいランチ時も、チームワークで乗り切ります

G:今後も森のキッチンを継続していくために、大切なことは何だと思いますか?

杉:福祉を理解してくれる、様々な場所とつながっていきたいです。今、日本社会全体が貧困になってきているということなのでしょうか、障害者福祉が優遇されているという意見に遭遇するような場面もあるんです。どんな人も当たり前に生活できる社会が必要なのですが、障害のある人が、支援を受けて健常者と同じ生活ができるようになるということが、当たり前のこととしては捉えてもらえない。障害のある人が贔屓されているのでなく、人として普通に生活できるために必要なこととして、当たり前のことと捉らえてほしいです。森のキッチンを知って、実際にそこにいる人たちを見ることで、福祉の現状理解につながればなと思います。

これから挑戦したいこと

G:障害のある人が、次への意欲を培う場所になるために、どんなことをしていきますか?

杉:一口に障害といっても、それぞれ特性が違う人が集まる場所。お互いにそこを認め合う集団力が必要なんだと思います。森のキッチンは誰がいなくなっても、成り立たないんだということを日々の中で感じられるように、仕事内容を分担してお互いを認め合い、尊重できるような環境づくりを心掛けています。

杉: また、森のキッチンのお客さまは、7割の人が堺市職員さんです。職員さんの、働くを応援できる場所になりたいと思っています。特に、子育て中の働く女性が多いので、お惣菜を販売して少しでも子育てに余裕できるようにしたり、私たちができることをお客さまと一緒に考えながら提案させてもらいたいです。

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元は働くことに困難を抱える人たちが集まる場所。でも、焦らず、じっくりと自分の”はたらく”と向き合うプロセスによって、だんだんとパワーを取り戻し、更には多くの人の”はたらく”を応援する立場に。

働くことで自信を得たり、生きる活力になったりもすれば、悩んだり、大変だったりすることもある。それは障害のあるなしに関わらず、多くの人にある経験ではないでしょうか。だからこそ、みんなここに惹きつけられるんでしょうね。
ちょっと疲れたな、と感じたらどうぞ「森のキッチン」に足を運んでみて下さい。美味しいごはんと愉快なスタッフが待っていますよ。


(ライター:佐藤 秋佳)

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森のキッチン
所在地 590-0078 
    大阪府堺市堺区南瓦町3番1号 堺市役所本館地下1階
営業時間 10:00〜17:00(土曜日・日曜日・祝日 定休)
TEL  072-228-3939 
FB: https://www.facebook.com/sakaicosmos.morinokitchen/


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