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Vol.2 常識をやめてみた。NPO法人スウィングの挑戦

京都府京都市北区、上賀茂神社の近くにという何ともユニークな、真面目に「ヘンタイ」を追求し、「ダメさ」をユーモアに変える団体があります。2015年Good Job! Awardでは長いがま口でオーディエンス賞に輝いたNPO法人スウィングです。
人というものに徹底的に向き合い、独創的なアプローチを用いて数多く発信しています。知れば知るほどにオモシロ奥深いスウィングについて、代表の木ノ戸昌幸(きのとまさゆき)さんに伺いました。

Enjoy!Open!Swing!

そもそもスウィングとは何をしている団体なのか。スウィングの公式サイトによると、

この法人は、既存の仕事観や芸術観にとらわれない自由な働きや表現活動を基軸とした事業を行い、「障害」「健常」「大人」「子ども」「男」「女」等あらゆる「枠」を超え、同じ時代、同じ社会に生きる人々が多種多様な価値観のもと、出会い、関わり、支えあうことのできる社会環境づくりに寄与することを目的とする。

とあります。

「楽しむこと」「ひらくこと」「ゆれること」を至上の目的として、ときに「市民活動」、ときに「社会福祉活動」、ときに「ソーシャルアート」等と名を変えながら、さまざまな創造的実践を繰り広げています。

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スウィング代表 木ノ戸さん。

オレたちひょうげん族

アワードを受賞した「長いがま口」は眼鏡ケースにもスマホケースにもなる汎用性のある形と、京都の西陣織メーカー中梅織物株式会社とのコラボによる伝統技術の活用、そしてなんといってもスウィング所属アーティストのグラフィックが目をひきます。

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このグラフィックは「オレたちひょうげん族」という活動から生まれたもの。かつてスウィングがそれまで請け負っていた受託作業がなくなってしまって暇を持て余していた時。だれから指示された訳でもなく、ふと何人かのメンバーが絵を描き出したり、詩をつくり始めたそうです。

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以後、「オレたちひょうげん族」から生まれた作品は多くの展覧会で発表され、様々な企業やデザイナーとコラボしてオリジナルグッズに発展してきました。

大切なのは「隣のおばちゃんに分かる」かどうか

G:Good Job! Awardには最終製品の他、コミュニティ自体だったり、仕事の受注の仕組みだったりと色んな切り口から応募が可能でした。スウィングではたくさんの活動をしている中、なぜ「長いがま口」で応募したのでしょうか?
木:「モノ」が分かり易くていいと思ったんです。色々やってるけど、全部どう分かりやすいものにするか、普遍性をとても真剣に考えている。「となりに住んでるおばちゃんに分かる」ということが大切だと思う。モノがあることで、手に取って、目で見て、そこから話し始められる。一部のマニアックな人にだけ分かるっていうんじゃ違うかなって。がま口って言うのが、わかりやすいからオーディエンス賞をもらえたんじゃないですかね。

G:売れ行きはどうですか?
木:XLさん(スウィングメンバー)の「キノコ」が発売当初から一番売れてます。これまで伝統産業と、福祉施設がコラボしてデザイン性もあって、という商品がなかったので、そういうものを面白がってくれるお店に置かせてもらってます。

G:スウィングの売れ筋商品を他にも教えてください。
木:デコレーション缶バッジ、ポチ袋が売れ筋。手づくりだけど、手づくりに見えない所が気に入ってるんですよ。手づくりだから良いとか、大量生産が絶対にダメとか、そういう事ではないと思う。お客さんに売るときに、「これ実は手づくりなんですよ。」というと「へーっ」となったり。

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”手づくりにみえない”デコレーション缶バッジ

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”手づくりにみえない”ポチ袋

”手づくり”、”クラフト感”に価値がつく傾向がある昨今に、あえて「製品っぽくした」(でも実は手づくり)という、ブームに逆風を吹かすかのようなコンセプト。買い手の意表を突き、笑顔にしてしまうスウィングらしいユーモアです。常識にとらわれず、何を「本当に良いと思うか」を常々考え続けているからこそ生まれるアイディアのように思えます。

木:今つくろうとしているのは、「おまけつき」商品。でも、どっちがおまけか分からないというもの。食玩のおもちゃも、買っている人はおかしが食べたいのか、おもちゃがほしいのか。どっちがおまけか分からない、そんな感じの。スウィングのマーケティングの基本は、「自分たちが欲しいモノをつくる」ということ。あとは他者と一緒になにかやるという事が多いですかね。

スウィングでは何でも”仕事”

木ノ戸さんは今年の1月にスウィングの活動、考え方を記した著書『まともがゆれるー常識をやめる「スウィング」の実験』(朝日出版社)を出版しました。

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G:Good Job! Awardもそうですし、世の中では”あたらしい働き方”の注目が集まっていますが、スウィングでは”仕事”をどのようにとらえているのでしょうか。
木:スウィングでは「なんでも仕事」です。「昼寝」「休む」も仕事だからOK。眠くてうとうとしてるのに、「仕事中だから寝ちゃだめだ!」と頑張る人がいる。でも、どうせ眠くて他の事ができないんだったら、寝てしまったほうがいい。最近では「体の声をきこう」と言ってる。「呼吸をすること」「生きている事」が最大の仕事。生きてないと何もできないから。

G:そう言うと皆さんどんな反応なんですか?
木:「たしかにー」って。
G:(笑)
木:我慢の状態を解くんです。寝ても良いって言われてもできない人もいますね。でもこれは仕事なんだって思っちゃえばできる。

一般的に、福祉作業所ではお金が発生する「仕事」の時間とそれ以外の「余暇」の時間を分けていますが、スウィングには「余暇」という概念がありません。

木:お金が発生しているか、していないかで仕事を分けてないです。むしろ、お金が発生しないモノの方が多いですね・・・。その中でも誰も人の仕事を疑っていないですよ。その人がやることがその人の仕事であるってみんなちゃんと思ってる。経験として、そういう仕事が尊重されてるから「なんでも仕事だ」っていうのが納得できてるんだと思います。

木:この間もメンバーと一緒に福井まで眼鏡を届けに行ってきました。僕の買った眼鏡がツルのところが合わなくて、だれかいりませんかとFacebookで呟いたら福井の人が欲しいと言ったから、車で行って、途中お土産買ったり。お金は出ていく一方なんですけども、届けたら相手は喜んでくれるから、それが”仕事”です。

『まともがゆれる』の中には、実に様々な取り組みが登場します。戦隊モノのマスクを被ってゴミ拾いをする清掃活動「ゴミコロリ」や、やたらと複雑な京都のバス路線図を驚異的なまでに覚えているという特技生かし、交通案内をする、京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」、そして「オレたちひょうげん族」。詳しくは本を読んでいただくとして、すごいのはこれらの仕事は誰から強制されたわけでもないのに、年間を通して暑い日も寒い日も皆自ら取り組むということ。

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「ゴミブルー」しかいない「ゴミコロリ」

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京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」

木:仕事ですからね。自分の。この日はこれをやると決まってるから。ただしやりたくない人はやらないという自由もあります。
G:強制しなかったら、ただひたすらさぼるみたいな人はいないんでしょうか。。
木:人間何もしないという事の方が難しくって、みんな何かしらやりだすんじゃないかな。ずっと寝てるだけの人がいたらそれはそれで面白いですけどね。逆にすごい。ベーシックインカムとかもらって、あとはひたすら寝てるみたいな。まあ、ほぼ一日寝てるに近い人もいますけど。それはその人の仕事。

※ベーシックインカム  最低限所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を定期的に支給するという政策のこと

最近の新しい”仕事”

G:最近できた新しい仕事があったら教えてください。

木:「Gうはうは舞妓プロジェクト」って言うのが始動しました。スウィングの最高齢で81歳のGさんという人がいるんですけど。認知症も始まっていて、入院したり、以前ほどのキレがなくなってきているけど、みんなスウィングにいるのが一番本人のためだと言っているし、本人も働きたいと言っている。忘れてしまうから何回も80歳のお祝いをしたり、鯖寿司が好きだからお昼ご飯に鯖寿司をだしたり・・・。そういう事を毎日の中でやる流れで、Gさん憧れの舞妓遊びをスウィングに登場させましょということになりました。本物は呼べないから、女優さんに舞妓の恰好に扮してもらって、お膳を用意して、お座敷遊びをしてもらう。今度Gさんが退院してくるから、本番なんですよね。楽しみ。

”一人のたのしみ”に徹底的にフォーカスすると、みんな楽しくなってくる、と木ノ戸さんは言います。

スウィング公共図書館構想

冒頭にも登場した、”Enjoy!Open!Swing!”という理念。この通り、スウィングはどんどん外に広がりながら、いっそ剥き出しとも言えるような活動を展開しています。
現在進行中のプロジェクトがスウィングの近所にある古い町家を改装してオープン予定の「ものづくりアトリエ」、そして「スウィング公共図書館(仮)」です。

G:スウィング公共図書館(仮)とは、ずばり何でしょうか。
木:北欧の方に、何でもかんでも北欧というと胡散臭いんですけど、ジェネラルウェルフェアという考え方があります。万人に対する福祉ってこと。僕は昔から本来「福祉」とは人類全部のためのものという考えをもっていて。障がいがある人や高齢者だけのもんじゃない。でもみんな、自分に関係あると思ってないでしょ。政治とか文化とか芸術とかと一緒で、関わるキッカケがなくてピンとこないんでしょうね。

木:そういう事を考えていつつも、制度をつかって事業をしていると枠組みが決まってきてしまって、気づいたら”障がい者”福祉って言う、狭いことになってくる。自分たちでやらなあかん。で、誰でも入れるところと言えば公共施設だろうと思って何かしらの公共施設と呼べるモノをつくろうとなった。スウィングはゴミコロリなんかで(外部に)開いてはいても、日々のスウィングではやっぱり仕事をしているから、誰でもは来にくい。でも、事務室が空いてたんです。職員10人分のスペースがあるけど、日中は現場に出ているから使っていなくて、デッドスペースになっている。そこを使って図書館をつくろうということに。

G:なぜ”図書館”なんですか
木:図書館には”大義名分”がある。「誰でもお気軽にお入り下さい」は、実は一番ハードルが高い。

G:何をさせられるか分からない、とか得体のしれない恐怖がありますね。
木:でも”図書館”だったら、みんな分かる。「ああ、図書館か」って。本を読んでもいいし、読まなくてもいい。寝ていてもいい。何か描いていてもいい。今までも、平日のスウィングには学校にいけない子とか、いわゆる”一般的な”社会の時間割に沿って生きられない人が集まった。この図書館は、特に来る人を特定はしないので、前提としてこの空間を大切にしてくれる人なら誰でもどうぞ。どういう人が来るかは、開けてみないとわからない。極論来なくてもいい。ただ開けていて、そういう場所があるということが第一。

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「やってみたいけどやらない。」ことをしたい。

G:これから新しくやってみたいことはありますか?
木:「やってみたいけどやらない。」ことをしたいですね。どんどん大きくしたり、増やしたり、が良しとされるけれども、減らす、やめる、逃げるっていうのが一番難しいんじゃないかと。だから、「やってみたいけどやりません」って言う。図書館も自分たちが何もしないっていうことが大切なんですよね。だからカフェとかはしない。


『まともがゆれる』の中に、スウィングメンバーの書いたこんな詩があります。

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作:向井久夫

ついつい期待されると、その先も頑張ってみたくなってしまうもの。特に現代人は「頑張ること」には慣れています。でも、そんな「こうあるべき」から解放されて、「てれーと」できる人はどれ位いるでしょう。

スウィングの活動や商品を見ていても、どれも考え込まれたアウトプットであることが分かります。お金を稼ぐことも大切、お金が発生しないけどやりたい事も大切。
忘れてしまった真ん中を、ちょうど良く、歩く。スウィングの挑戦です。

さて、いかがでしたでしょうか。
スウィングのこと、少しはお伝えできたでしょうか?まだうまく呑み込めない人、モヤモヤとしている人もいるかもしれません。そのモヤモヤをどうぞ大切に、いつか直接京都に行って、スウィングのメンバーに会いに行ってみて下さい。きっと日常がひっくり返るような出会いができることでしょう。


写真提供:NPO法人スウィング/成田舞(Neki.inc)

(ライター:佐藤 秋佳)


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NPO法人スウィング
【所在地】603-8074 京都府京都市北区上賀茂南大路町19番地
【TEL/FAX】075-712-7930
【MAIL】swing.npo@gaia.eonet.ne.jp
HP: http://www.swing-npo.com/index.html
FB: https://www.facebook.com/NpoSwing
ブログ: http://garden.swing-npo.com/

●木ノ戸さんの著書スウィングの商品はこちらでも購入できます

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