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シナリオ課題作 #3

現在、シナリオセンターでライティングを学んでおります。
毎週課題が出され必要枚数分書いて提出しているのですが、せっかく課題でも書いているので載せていきたいと思います。

掲載シナリオについて

提出済みのシナリオです。
・添削内容は掲載しません。
・内容を修正はしておりませんが、書き方的な修正はしております。

課題 『風』/おわかれのうた(400字詰め

人物

黒名(24) 軍人。田鶴の元護衛
田鶴(27) 故人。黒名の想い人。お嬢様

本文

〇神奈川県箱根町・仙石原 すすき野原(夕)

誰もいないすすき野原に黒名(24)がぽつんと立っている。空を見上げると雲の流れが速く、天候も次第に陰っていく。目線の先を変えるとすすきが強くしなりざわざわと音を立てている。その時背後から黒名を呼ぶ声がする。
田鶴「黒名」
故人の田鶴(27)が赤い着物を着て立っている。黒名は驚いた表情で、
黒名「田鶴様…ここは地獄か何かですか」
田鶴「いや、その手前。なに勝手に死のうとしてるのお前は」
黒名「あなたが亡くなった後、日本は欧米諸国と戦争を始めたのです。私は 
 徴兵を受けて…」
それを聞いた田鶴、少し寂しそうな顔をして黒名に背を向ける。
黒名「田鶴様」
田鶴に近づく黒名。
田鶴「近付くな」
黒名と距離を取るように田鶴が歩き出す。それに合わせて黒名も歩く。
田鶴「まさか死んでから最初に会うのが父でも母でもなくお前だなんて」
黒名「申し訳ございません」
すすきをかき分け田鶴は進む。黒名も点いて歩くが脚がもたついて上手く進めない。
田鶴「本当に。それでも私の護衛?」
田鶴、振り返り黒名を見る。先程の表情とは違い無表情で黒名の背後の方を指さす。
田鶴「来た道をお戻り。お前はまだこちらに来るにはちいと早い」
黒名「嫌です。やっと会えたのに。ずっとあなたをお慕いしておりました。
 両親を亡くし途方に暮れていた私に生きる理由を与えてくれた…私はあな
 たが」
黒名は胸元を握りしめ、まっすぐ田鶴を見つめる。
その顔を見た田鶴は一瞬固まったあと呆れたような表情を物言いで、
田鶴「その犬みたいな顔やめて頂戴よ。私がいじわるしているみたいじゃな
 い」
黒名「犬…? それでも構わない。あなたのお側にいられるなら」
田鶴、少し冷めた表情で黒名に近付く。
田鶴「かわいそうに。私なんかに縛られて」
田鶴、黒名の頬に触れる。そこには大きな傷跡が残っている。
田鶴「私を庇わなきゃこんな傷だって」
黒名、その手を取る。
黒名「名誉な傷だ。あなたを守れたから」
田鶴「美丈夫がもったいない」
黒名「私にはあなた以外必要ない」
それを聞いた田鶴、ハッと息を飲み少しだけ微笑む。
田鶴「ますますだめだね。黒名、私に背を向け歩きなさい。この野原を抜けるまで振り返ってはいけないよ」
黒名「それは…」
田鶴「ここから出られる。目が覚めたらきっと病院だろう」
黒名「田鶴様!」
田鶴「命令だよ、お前は生きて。私の分まで」
黒名、ぎゅっと唇を噛みしめ、田鶴から一歩離れる。そこで一礼し背を向け歩き 始める。振り返らない。背後の田鶴の姿 が段々と小さくなる。
黒名「田鶴様…」
小さく呟きながら涙を流す。
田鶴「黒名!精一杯生きて、やりきったらこちらで待っているよ!」
遠くで田鶴の声が聴こえる。歩みを進めるうち段々と視界がぼやけていき、意識も朦朧としていく。

〇都内・軍事病院・病室
黒名、ゆっくりと目を開けて目線で周囲を見渡す。そこは病院で忙しそうに看護婦や医師が動き回っている。
黒名の目線は次に自分の身体へ。両腕に包帯が巻かれている。指を動かそうとすると、ゆっくりだが動く。
黒名「…ふう」
一旦目線を天井に移し、深呼吸。それから小さく嗚咽を漏らしながら涙  を流し始める。
黒名「田鶴様……っ、うう……ッ」
次第に嗚咽は大きくなり、涙もぼろぼろと零れだす。上手く動かない腕を動かし涙を拭くものの、間に合わないくらい涙は溢れ続ける。それに気が付くものは誰もいない。看護婦も医師も気に留める者いないままバタバタと動き回る周りの喧噪に黒名の泣き声は紛れている。それでも涙を流す黒名。周りの雑音しか聞こえない。


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