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思い出の名采配を振り返ろうの会


はじめに

よく「サッカー監督の仕事は試合前が8割」(人は見た目が9割的な)と言われます。試合中のシステム変更、選手交代は実際の勝敗に及ぼす影響は少なく、試合前にほぼ勝負は決まっている、ということを意味する格言的なやつです。
そうは言ってもやはり監督の画期的な選手交代によって流れがガラリと変わるような試合も中にはあるし、サポーターやオタクからしたらそういう試合ほど印象的でよく覚えていたりするものです。というわけで、今回は個人的に采配が印象に残っている試合をいくつか紹介していきたいと思います。

個人的名采配セレクション5選

本稿では、采配という言葉の意味を「試合中の選手交代」のみに限定します。ファーガソンのようにスタメン選びの段階で意表を突いてきたり、ペップのようにスタート4-3-3から3-4-3に変えてきたり、スタメン表見ただけではどのフォーメーションで来るのか読めなくしたりする監督もいますし、勿論それらも采配の一部ではあるんですが、その辺含め出すとキリがありません笑そのため今回はあくまで交代カードにフォーカスします。

① リバプール対ACミラン

もうこれはサッカーファンなら全員知ってると言っても過言ではないですね。04-05のCL決勝、俗に言うイスタンブールの奇跡というやつです。
この試合、前半のうちにミランが3点リードし誰が見てもミランの優勝はほぼ確実、となっていたにもかかわらずなんとリバプールが3-3のイーブンに持ち込むことに成功。その後、PK戦でのデュデクの(ダンスの)活躍もありリバプールが大逆転優勝を果たしました。
このような奇跡が起きた要因はメンタル面も含め色々なものが絡み合っているとは思いますが、その中の1つに当時リバプールの監督だったベニテスによる選手交代&システム変更が挙げられます。
まずは両チームのスタメンから。ミランもリバプールも普段着の4-3-1-2、4-4-2でキックオフ。

ミランのスタメン(4-3-1-2)
リバプールのスタメン(4-4-1-1気味の4-4-2)

試合開始からミランが圧倒し、先述の通り前半のうちに3点もリードします。
理由は2つあって、1つ目はピルロとカカに好き放題されていたからです。そもそも4-4-2だとジェラードとアロンソの2人でミランの中盤のピルロ、セードルフ、カカといったマエストロ達を見なきゃいけないので、そらやられます。
また2つ目の理由としてミランの2トップに対して2CBと同数で対応してるので、抜かれたら一発アウトというリスクも抱えていたから、というのもあります。2つ目に関してはミランも4バックなのでほぼ同じ条件なんですけど、ネスタ&スタムとキャラガー&ヒーピアでは比べ物にならないくらい守備力に差がありますよね。
中盤の密度を高め、DFの枚数を増やす、そして負けているので攻める必要もある…これらの無理難題を実現させるためにベニテスはハーフタイムに修正を施し、後半頭からフィナン、キューウェルに代えてスマチェル、ハマンを投入。フォーメーションは3-4-2-1のような形になりました。

ハーフタイム後の両チームのメンバー
The False 9の「AC MILAN 3-3 LIVERPOOL-2005 CHAMPIONS LEAGUE FINAL:TACTICAL ANALYSIS」より引用

皆さんご存知の通りこの采配がどハマりし、3-0から3-3に追いつきます。
追いついた要因として先ほど書いた修正(中盤の密度、DFの枚数)が上手くいったことに加え、その副産物としてジェラードが1列前でプレーするようになったのがかなり大きかったと思います。実際ジェラードが反撃の狼煙を上げる1点目を決めていますし、3点目もジェラードがPA内で倒されたのがきっかけです。
この試合は采配だけでなく試合内容も純粋に面白く、欧州サッカー史を語る上で外せない一戦だと思っています。自分含めリアタイ視聴できなかったZ世代の若者は、是非一度UEFA.tvやYouTubeを使ってフルで見てください。オススメです。

② ウィガン対チェルシー

ジャ◯キリみたいなサッカー漫画の世界だと「主人公サイドの監督がこういう手を打った」「それに対して相手の監督は…」「その相手監督に対してこっちが…」という采配の応酬が見られる(単行本19〜22巻のETU対山形は必見)のですが、現実だとまずそんなことはありません。大体「相手がこうやってきたけど対応できずに負けた」か「相手に対してこう対応して勝った」で終わります。
しかし現実世界でもごく稀にお互いの監督が選手交代思う存分使ってバチバチにやり合った試合があります。それが11-12のウィガン対チェルシーです。
まず最初に手を打ってきたのはヴィラスボアス率いるチェルシー。後半頭からアンカーのロメウに代えてカルーを投入し、フォーメーションを4-3-3から4-2-3-1にします。

スタメン
後半〜

この采配が功を奏したのかスターリッジが先制ゴール。このまま逃げ切ろうとしたAVBは66分にマタに代えてアンカーのミケルを入れ、また4-3-3に戻します(フースコは4-2-3-1のままだけどランパードがトップ下になってるところで察してください)。

66分〜

対するウィガンのロベルト・マルティネスは73分にFWのディサント、ロダジェガを投入。フォーメーションを5-3-2から4-3-3に変更して点を取りに行く姿勢を見せます。

73分〜

80分には舐めプなのか体力の問題なのかゴールを決めたスターリッジを下げ、マルーダを投入。両サイドが順足(利き足と同じサイドの)WGになり、ドログバにクロスを放るだけの単調な攻めしかできなくなりました。

80分〜

結局この試合は88分に途中出場のディサントがゴールを決めて1-1のドロー。強気のマルティネスの采配が当たった一方で、細かな調整を何度も行なったAVBの采配が裏目に出ました。何事もやりすぎは良くないということでしょうか。

③ ユベントス対インテル

最近のコンテのイメージと言うと「頑固」「3バックにこだわる」「やたら補強にうるさくフロントと揉める」などが挙げられると思いますが、ユベントス初年度は全然そんなことはなく、対戦相手や試合状況に応じて柔軟にやり方を変える采配の上手い監督、という印象でした。そんな一昔前のコンテの代表的な試合が11-12セリエAのイタリアデルビーことインテル戦。
まずはスタメンから。当時のユーベはアンカーにイタリア最高のレジスタ、ピルロを据えた4-3-3(4-1-4-1)を軸にしていました。対するラニエリ率いるインテルは普段使いの4-4-2を少し弄ってポーリにピルロ番をさせる4-3-1-2で対抗。ピルロを好きにさせない!という意思が見られますね。
(下の画像は4-4-2になってますが実際ほぼ4-3-1-2でした)

スタメン
ピルロ番をするポーリ①
ピルロ番をするポーリ②

ラニエリの策が上手くいったのか、前半はスコアレスで終了。そこで53分、コンテが動きます。
ペペに代えてボヌッチ、マトリに代えてデルピエロ投入。そしてフォーメーションを4-3-3から3-5-2に変更します。

53分〜

これによって中央の密度が高まり、HBのバルザーリとキエッリーニがボールを持ちやすくなりました。これで困ったのがインテルの両IHであるサネッティ&オビとピルロ番をしていたトップ下のポーリです。4バックはユーベの2トップ&WBにピン留めされてる、自分は対面の相手をマークする必要がある、でもHBを野放しにしておくと好き勝手にボール蹴られる、HBにプレスにいくとピルロにボールが入って更に危険な状態になる…という風に完全にがんじがらめ状態笑

どフリーでボールを持てるHBのバルザーリ

結局試合はカセレスとデルピエロがゴールを決めて2-0、ユーベの完勝で幕を閉じました。
実はコンテが3-5-2を使ったのはこれが初めてというわけではありません。ウディネーゼやナポリといった3バックを十八番とするチームの対策としてミラーゲームをやるためだけに使っていました。しかしこのデルビーでの成功体験をきっかけにコンテは3バックをどんどん洗練させていき、このシーズンのセリエA無敗優勝という偉業につながるわけです。

④ ニューカッスル対マンチェスターシティ

現在イタリア代表(※だいぶ前に書き始めたものだったので完全に見落としてました、失礼しました。今はサウジアラビア代表ですよね…)を率いているマンチーニですが、2012年頃はマンチェスターシティを率いていました。その頃のマンチーニのイメージといえばとにかく守備的、悪く言えばチキン。本職SBのコラロフを左SHに置くことなんてザラでしたし、リードしている状況での守備固めとして、DFの選手やオランダの潰し屋ナイジェル・デヨングが投入されている光景を何度も目にしました。
そんなマンチーニの弱腰の姿勢はリードしているときだけでなく膠着したドローの状況でも見られました。11-12プレミアリーグ第37節ニューカッスル戦の62分、ナスリに代えてデヨングを投入。ユナイテッドとの優勝争いを制するために意地でも勝たなければいけない、点を取らなければいけない状況でのバランス重視の安全策。これには思わずため息を漏らしたシティサポの方も多かったのではないでしょうか。

スタメン
62分〜

しかしこれには、ちゃんと意図があったと思います。それは、チームの心臓とも言えるヤヤトゥーレを1列前で使うことでチャンスメイクに専念させるということ。実際この狙いはピッタリ当たり、70分にヤヤトゥーレが先制。最終的に2-0で勝利を収めています。
試合終盤にはシルバに代えてリチャーズを投入し、逃げ切り目的の守備固めもバッチリ。この辺は流石イタリア人という采配でした。

86分〜

⑤ イタリア対イングランド

なんと2連続でマンチーニです。皆さんご存知の通りEURO2020ではイタリア代表が優勝しましたが、その決勝戦でマンチーニはCFのインモービレを下げてWGのベラルディを入れるという選択をしました。左WGのインシーニェが偽9番、キエーザが右WGから左WGに移ったというわけです。

スタメン
54〜55分の交代後

これによってインシーニェが自由に動き回るようになったのに加えて、キエーザが逆足(右利きで左サイド、左利きで右サイド)WGになり、ドリブルからのカットインでチャンスを作る機会が増えました。この采配で息を吹き返したアズーリはボヌッチのゴールで同点に追いつき、最後はPK戦でイングランドを破りました。
このように采配というのはFWを増やしたから攻撃的、DFを増やしたから守備的という単純なものではなく、様々な要因が複雑に絡み合ってチームに影響を及ぼすものだということが分かります。

番外編 「動かない」という選択肢

実はこの記事を書こうと思ったのは昨季のCL決勝、シティ対インテルがきっかけです。(ダラダラ放置してたら半年以上経ちました)というのも、あの決勝戦を見て「采配って交代カードを切ることばっかりフォーカスされるけど"切らない"というのも立派な采配の1つではないか」と思わされたからです。
あの試合ペップは選手交代をほとんど行わず、怪我を抱えていたデブライネと本職CBなのに中盤で動き回ってバッテバテだったストーンズしか代えませんでした。5人交代制がスタンダードになった今、2人だけ代えるというのはかなり珍しいですよね。しかしこれは「落ち着いて自分たちのやってきたことを信じてやれば勝てる」という、ペップなりのメッセージでもあるのでしょう。実際それでシティは念願の初ビッグイヤーを獲得しましたし、結果論ではありますがペップの選択が正しかったと言えます。
似たようなケースが13年前に1つあって、それは2011年のコパデルレイ決勝で実現したエル・クラシコ、バルサ対マドリーの一戦です。この試合で「動かなかった」のはペップではなくモウリーニョ。試合はスコアレスドローの時間が長く120分の死闘になったんですが、彼は70分にエジルに代えてアデバヨールを入れただけで、それ以外はほとんど動きませんでした(延長戦でロナウドが決勝ゴールを決めてからは2人交代してる)。これも「世界(何なら史上)最強のバルサを倒すためのプランを遂行できる選手はこいつらしかいない」というメッセージかもしれません。
バテてる選手がいたり流れを変えたいときにパッと見で分かりやすい選手交代に走るのも1つの手ですが、決勝という大舞台では案外「選手を信じて動かない」方がいいのかもしれませんね。

おわりに

如何だったでしょうか?上で挙げた試合はあくまでほんの一部ですし、自分でも見てはいるけど忘れてた試合もたくさんあると思います。個人的な傾向として「単にFWの枚数を増やす」より「攻守のバランスを保ちつつシステム変更で若干攻撃的に振る舞えるようにする」采配が好きだなと振り返って思いました笑
皆さんも好きな采配、思い出の采配があればコメントやTwitterのリプ、引用RTなどで教えてもらえると嬉しいです。

参考文献

基本的にほとんどの画像はWhoScored.comから拝借しました。ありがとうフースコ。
04-05CL決勝のところで参考にした記事はコチラ↓

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