置き去りにして、ごめんなさい。
空港でガスカートリッチとライターを没収されてしまった。頭からすっかり抜け落ちてしまったいた自分が悪いのだけれど。
ガスは登山用のガスカートリッチで、旅先の離島の灯台で、みんなにコーヒーをいれてあげようと詰めたものだった。ライターはそれに火をつけるために加えていれた父のものだった。
カバンから取り出して空港のスタッフさんに手渡すと、彼らは手荷物預けカウンター横のデスクにポツンと置かれた。搭乗時間まで時間もなく、後ろ髪を引かれる思いでエスカレーターに乗らなくてはいけない。
ちょこんとテーブルに乗ったガスカートリッチとライター。まともに別れの挨拶もできずに、小さくなっていく。 取り残される彼らが哀れで、まだ使えるのに処分される彼らを思うと胸が痛かった。
「ごめんね、、、」と心のなかで呟いて、ちらっと手を振ることしかできなかった。 人命に比べたら確かに彼らの存在など天秤にのせるものですらないのだろうけれど。
それでもとても心が痛かった。
昔からものを捨てることができない性格だった。
本の帯ですら捨てることができなかった。
物にも命や魂があると考えてきたから、ぞんざいに扱うことはできない。
きっとなにかを感じて、思って、
物理的に生きていなくても
どこかに精神はあるのだと感じている。
そんな性格だから、一度所有なんてしてしまった物には、すべからく身内のような親しみを持っている。
お店や通販で不良品の交換をするのが嫌いだ。
見た目が悪いからといって下げられて新しい料理が運ばれてくるレストランが苦手だ。
同じ形をして、同じ機能を持つ、同じ味をしたものじゃ駄目なんだ。
「 それ 」じゃなきゃ駄目なんだよ。違うんだよ。
ただ、みんなまとめて連れて帰りたかったんだ。
旅先で仲間になったバスの整理券たちもポケットに加えて。
どうにもならない。やるせなく、歯痒い気持ちと後悔だけが胸に迫るけれど。
でもどうしようもない。
だからせめてこうして言葉にして残しておく。
こんなことは、処分される彼らにはなんにもならないとわかっているけど。ただの気持ち悪い自己満足だと知っているけど。それでも。
こうして残すことで、
記憶に残り、思い出せるように。
せめてもの謝意を伝えられるようにしておく。
祈れるようにしておく。
物を大切に使いたい。
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