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ヴェルディに欠けているもの、それは・・・

ヴェルディに欠けているもの、それはHRM(人的資源管理)の側面からの組織運営だと思っています。

シティグループに代表されるように、サッカー選手は、グローバルなマーケットの中の一つの資源として評価される時期に来ています。
否応なく日本のサッカー市場にも影響を与え、日本育ちの選手も海外マーケットに組み込まれていく時代になりました。ヴェルディももちろんそうなってますよね。青いところにかなり抜かれましたし、アンカズや翔哉もグローバルな移動をしています。

この視点から見ると、単なる監督批判や運営批判ではなく、また違ったヴェルディ像が見えてくるかなと思っています。

結論から言うと以下の通り。

1. 永井監督の手腕は悪くはないが良くもない
2. 目標とすべき数値が間違っている
3. 長期的に見ると今のユースとは違う育成ルートが必要

この三点を説明します!

1.人的資源管理とは?

人的資源管理とは「人的資源を経営目標の達成のために活用すること、また活用するために制度設計・運用すること」を指しています。

(参考)人的資源管理とは? 定義、概念、課題、事例、モチベーション向上について|カオナビ人事用語集

ヒト、モノ、カネ、情報の4つが主要な経営資源(四大経営資源)と言われています。組織運営をするのにまず人がいないことには始まりません。選手がいなければ試合も出来ないですよね。

しかもサッカーの場合、選手の移籍によって発生する分配金により、モノとしての側面からも評価されます。それゆえより重要なリソースと言えるかも知れません。

2.人的資源管理から見たヴェルディ

Jリーグに多くの人財を排出することで知られる我がヴェルディユース・ジュニアですが、現在のヴェルディメンバーの育成出身比率は13/32名で三分の一強となっています(2019年11月4日現在)。
ただ外国籍選手5名を除くと、非育成選手が14名と、ほぼ50/50の数字になっており、永井監督の言う育成50%の目標に近い状況です。

一般的にヒューマンリソースの話をするときに採用戦略から入ることが多いのですが、ヴェルディの場合、資源の獲得的な部分ではまあまあよい方なのかなと思います。

ヴェルディと名の付くスクールに通っている生徒は1000人いるとも言われており、そこからの一定数セレクト出来る、また首都のクラブであるため、スクールに一定数呼び寄せるコストは地方クラブに比べ低いなど、Jリーグの中では若干優位にあると考えられます。

これとは別にJ3のように大卒中心で回す組織もあります。外部からの人材調達と生え抜き育成ではどちらが安いのかという話はあるからだと思います。

個人的には巷で出回っている情報をまとめてみると、以下の感じかなと思っています。獲得までのコストを整理すると以下の感じかなと思います。

外国籍選手>Jリーガー>育成選手>大学生・高校生

育成選手にはやはり何らかのコストが掛かっており、外部から契約だけでとれる大学生・高校生よりも高めであることが想定されるのではないでしょうか。

コストの話から続けるとヴェルディの予算規模はJ2では平均より上、J1の大分とかと比べても遜色はない金額です。
ある程度の余力はあると思われますが、実際のところは不明です。ただ危機的な状況でもないのは事実です。

つまりまとめると、ヒューマンリソースの量としてはヴェルディは比較的恵まれていると言えるのかなと思います。

3.リソースの活用とKPI(鍵となる指標)について

この豊富な人的な資源をいかに投入して目的を達するのかという話にはいるのですが、まず目標を整理しましょう。

大目標:J1に復帰し、強いヴェルディを取り戻す

これは多分皆がそう思っているはず。ここが違うとあれですが、大前提として、この目標は外せないと思っています。

で、この漠然とした目標を実現するために、具体的に落とし込んだのが、永井監督の目標ですよね。

「ボールポゼッション80パーセントを目安とし、エリアでも上回り、圧倒的に勝利する」

この目標に向かってリソースを動員していくわけですが、いくつかの疑問が浮かびます。

①この目標が正しいのか?
②この目標に対して適切なリソース(選手)があるのか?
③何がボトルネックなのか?

ということを順に整理したいと思います。

①目標についての評価

まず冒頭に竹本一彦GMの2019新体制発表時のコメントを引用します。

「昨年のサッカーは私の口から言いますと、ポゼッションはするけど、相手のゴールに迫る攻撃ではなかなか慎重なところがありました。守備においては抜かれないディフェンスでできるだけ相手のチャンスを増やさないことには成功していましたが、積極的な守備という部分は少なかったと思います。それがこの2年間のロティーナ体制の良いところでもあり、また変えていかなければならない部分だと判断していました。」

ということでホワイト監督を選んだ訳ですが、その後任の永井さんの目標はポゼッション80パーセント。相手のゴールへの強いアプローチも積極的な守備も放棄して、ポゼッションに回帰することになりました。(そもそもロティーナが植え付けたのはポゼッションではなく、positionalなサッカーだったはずですが・・・。ロティーナ体制についてはここを参照してください。)

竹本GMの言葉を引くまでもなく、ポゼッション重視のサッカーは攻撃的ではありません。

ポゼッション率の高さとゲームの勝率には正の相関があるとは言われています。ただし、因果関係は証明できていません。
ボールを長い時間保有することで、相手の攻撃回数を減らし、失点が減ることで勝利に貢献するでしょうが、必ずしもボールを保持しているから得点力が上がるという訳ではないのはみなさん理解できますよね。

つぎは②について。
この目標を達成するのに必要な人材がいるかということについてですが、ロティーナ体制を一度破壊しているので、永井体制スタート時には明らかに不足していました。
なのでユースからの内部昇格と外国籍の選手を次々補充しました。

後半戦になってから補充されたこともあり、人的に完全に満たされたとは言えないかもしれませんが、ユースから5人、外国籍選手3名は決して少なくない補強だと思います。ポジション的にも片寄りなく補強されています。量的には満たされたと言ってよいかと思います。

ただこのリソースが目標を達成するのに適正な人材なのかどうかは外部からは判断できません。

そこで類推をしてみます。実際の数値から、永井監督の目指すサッカーが達成されているのかどうか確認するのです。もし達成できていたら、適正な人材だと言うことはできるかなと思います。

ここでデータを当たってみます。

参考にしたのはFootballLAB

ここから2019のヴェルディのデータの中で関連しそうな指標を引用します。

□ポゼッション
ボール支配率は56.4パーセントとJ2で3位。これは目標とする80パーセントには及びませんでしたが、なかなかの数値です。昨年度よりも2パーセント向上しています。ホワイト体制のポゼッション率はやや低かったと思われるので、数字的には永井監督がかなり向上させたと言えるでしょう。

敵陣において20秒以上ボールを保持した攻撃である 敵陣ポゼッションでは、京都に次ぐ2位。 自陣において20秒以上ボールを保持した攻撃である自陣ポゼッションでも4位と健闘しています。よってボール保持をするという点では、ほぼ及第点を与えてよいのではないでしょうか?

つまり永井監督の目指すサッカーが出来ている=行うに足るリソースがあるなではないかぐらいは言えると思います。

③何がボトルネックなのか?

ではなぜ成績が向上しなかったのでしょうか?
ポゼッションは高いのに、攻撃的じゃなかったからでしょうか?

そんなことはありません。攻撃的なチームかどうかという指標ではヴェルディは京都に次ぐ2位。柏は3位です。

ではなぜこんなに攻撃的なのに、順位が低迷しているのでしょうか?

ある指標が明確に理由を語ってくれます。

攻撃の際にどれだけ相手ゴールに近づけたかという指標では最下位。守備の際にどれだけ相手を前進させなかったか、相手を自陣ゴールに近づけなかったかという指標でも下から2番目の順位でした。
J2で首位を走る柏は共に良い数値を出しています。

つまりわれわれヴェルディは、敵陣では相手のゴールから遠い位置でボールを持ち、相手ボールの時は、簡単に前進させてしまい、ゴール前に入られているのです。上福元の守備の数値が高いのもおそらくこれが原因でしょう。

この指標が成績低迷の理由を物語ってくれているような気がします。

この点でも①のところで書いたポゼッションが得点力とは無関係なことがわかりますよね。

また永井監督が良くポジションについて不満を言っているかと思います。特にワイドストライカーについて。

サリーダ・デ・バロンという、相手の1列目の守備ラインを越えるまでのアクションを学ぶ練習があるそうです。

偽9を使う場合、両サイドの選手がCBとSBの間に入り込むなどして、守備ラインをピン止めする必要があります。

永井監督はこのポジショニングに不満があると漏らしている試合がいくつかありました。

(大外で持つことが多く、人数もかけすぎていることもあったりして、狙ったプレーが出来ていないという評価でしょうか?)

ポゼッション率という数字上の目的は達成しても、毎試合後のコメントやこういった不満が漏れていることからも、永井監督の目指すサッカーがまだ出来ていないこともわかります。

しかし、おそらく50パーセント台の数字が80パーセントに近づいても同じ課題は残るのではないでしょうか。

サイドでひたすらボールをキープすれば数値は更に向上しますから。そして、その数字のトリックは勝敗に直結する重要な指標の一つ、得点力とは全く無関係です。つまりポゼッションが上がっても勝ちにはあまり影響はないのです。

最近は永井監督でさえ、次のような言い換えをしだしました。「ポゼッションサッカーではなく、前に進むプログレッションサッカー」をしたいのに、まだポゼッションサッカーに留まっている状況だと。

エリア志向に変わったのでしょうか?

やはり鍵となる数字が間違っていると断言するしかないと思います。

だから、永井監督の指導力も、選手の能力も、前提とする目標が間違っているので、本当の評価は出来ないかなと私は思っています。

試合の結果を左右しない数値にこだわっても、結果はついてこないし、人の能力も評価できません。ポゼッションの幻想については、この記事を読んでください。四年も前の話です。むしろ最近発言しているようにエリアにこだわった方が結果は見えやすいかもしれません。

4.リソースを活用するために制度設計・運用する

そうは言ってもこのままで良い訳ではありません。私たちはJ1に帰らないと行けないのですから。

ここで一つ見方を変えてみます。なぜ永井監督はポゼッションサッカーを打ち出したのでしょうか?

ヴェルディらしいサッカーをして勝つ!

これはみんなが言ってることだし、永井監督もそう言っています。このためにポゼッションサッカーを打ち出したような気さえします。でもヴェルディらしいサッカーってなんですかね?

「ポゼッションサッカーではなく、前に進むプログレッションサッカー」でしょうか?

「『常に数的優位を維持し、全員攻撃、全員守備。90分間、ボールを持ち続けて、相手を圧倒して勝つ』という、トータフルットボール」でしょうか?

それとも「ボールポゼッション80パーセントを目安とし、エリアでも上回り、圧倒的に勝利する」サッカーでしょうか?

面白い記事を発掘したので読んでください。
10年前の記事です。

なんかどこかで見たような試合内容ですよね。

おそらくこれがヴェルディらしいサッカーの正体なのかもしれません。そしてそれはひょっとしたらJapan's Wayとも同じものなのかもしれません。

JFAによると「体格やパワーで勝るわけではないですが、技術力(足首の柔軟性等)、俊敏性、組織力、勤勉性、粘り強さ等、またフェアであること」が日本人の特徴だとされています。

永井監督も似たようなことを言っていましたね。

「『もっと普通にやればいいのに』と言われたりもする。でも、体格や体力に勝る相手と同じ戦い方をして勝てるのか。それが普通なのか。何を持って普通なのか。自分は、いま普通と思われているような考え方を変えたい。」Sportiva

では体格や体力で劣る場合の戦い方が、ヴェルディらしいサッカーなのでしょうか?

永井監督はこんなことも言っています。

「『ヴェルディらしいサッカー』ってマスコミは言うけれど、結局、当時のメンバーでなければ、あのサッカーはできない。Jリーグが開幕して何年間かだけだよ、いわゆる『ヴェルディらしいサッカー』ができたのは。だから強かったし、チャンピオンチームにもなれた。
それ以降は、メンバーも変わってしまった。ユニフォームはヴェルディかもしれないけれど、中身は全然違った。『ヴェルディらしいサッカー』なんてない。それを(誰もが)わからないといけない」Sportiva

全くわからなくなりました。ほんとに「ヴェルディらしいサッカー」というものは存在するのでしょうか?

懐かしい動画を見てみましょう。Jリーグ開幕戦

普通に前に当てて落としてみたいな意外と普通なサッカーでした。記憶って曖昧なものですね。ヴェルディらしいサッカーって、これなのかな?と更に混乱してきました。

私的にはむしろ永井さんが目指してるのは、2019のレスターみたいなサッカーかなと思うのですが。これはヴェルディらしい?

そもそもフィジカルってなんですかね?体格や体力に勝るものに勝つために、身体を鍛えたらどうなんですかね?技術だけで勝てるんですかね?

さっきグレミオとフラメンゴの試合見たのですが、みんなでかくて強いですよね。ブラジルと言えばテクニックというイメージしかなかったですが、だいぶ厚みのある選手が増えました。

プレーもプレミア同様大きくて速いサイドチェンジなどでワイドに展開し、ポストやフリックプレーなどでゴール前に入っていくのが多い。昔のブラジルサッカーイメージはもはやないぐらいです。

これは、もはやブラジルらしいサッカーじゃないのですかね?それともこれがブラジルらしいサッカーなのでしょうか?

ただヴェルディの選手との違いも良くわかりました。ワイドストライカーの位置の選手にも、突破役だけでなくポストプレーヤーとしての役割が求められていました。だから、サイドの選手でも、ターンして戻ったり、深さを使うのも上手でした。

らしいサッカーって、なんですかね。ヴェルディだけでなく、ブラジルらしいサッカーも、完全にわからなくなりました。

らしいサッカーって意味ありますか?

脱線しました。こういう抽象的な言葉を目標にするのは良くないですよね。哲学まで深めることには意味があると思うのですが、そのまま使うのは意味がないですよね。

でも、ヴェルディのやり方というのを決めるのは良いですよね。スクール行くとコーチが言ってるのを見かけます。「ヴェルディの鳥かごは~」とか、「ヴェルディの1対1で大事なことは~」とか、ちゃんと落としてこんでいます。

今年の昇格組もきっとそうやって育ったのでしょうから。きちんと足元でボールを扱う基礎は、未来にしっかりと繋がっていると思います。

ただ気になっていることもあります。

育成されているのが圧倒的に中盤の選手が多いということ。ユースに上がる基準みたいなものが、やはり足元の巧さにあるからでしょうか?

プロで求められる巧さ←育生←巧さを持つ選手

ここから漏れた選手、当てはまらない選手はどうなるんでしょうか?

ヴェルディのセレクション受けに来る選手が200人のうち1人か2人、育生で選ばれるのが1000人のうち十数名程度。選ばれなかった選手の中にも素晴らしい選手になれたかも知れない可能性を持つ選手はいますよね。

と、書いていたら、ちょうどこんな記事が上がりました。

強くて下手な子を巧くするのもいいのではないでしょうか?

楔のプレーや大きいサイドチェンジが苦手なプレーヤーが多いのも、巧い選手が多いからかもしれません。
縦のプレーがドリブル頼みになり勝ちなのも、ポストプレーやフリックパスでダイレクトに入っていくプレー等を元々やりなれていないからかもしれません。

巧さを求めることで、強さは評価されなくなり、巧いプレーヤーが出来上がる。強さがないので、より巧さに頼る。

私たちはいつの間にか縮小するループに入り込んでしまっているのかもしれません。

先ほども言いましたが、サイドのプレーの仕方も変わって来ています。ドリブルは大事ですが、逆サイドのボールをしっかりと収めたり、あるいは後ろからのボールをフリックして中のプレーヤーに当てていく能力が必要とされている時代に、このような技術がない選手を育てていても、未来は明るくないのかもしれません。

卵が先か鶏が先かみたいな話ですが、新しい流れを生み出して欲しいです。森本貴幸や平本一樹と言った大きなストライカーを育てた実績はありますし、中澤や畠中慎之介と言った日本代表になるCBも生み出したチームなので、必ずできるはずです。

そもそも都並さんや小見さんや藤川さんの話を聞くと、下手くそだけどガッツがあってハングリーな選手が必死で食らいついて残っていったのが、ヴェルディの始まりの頃だったようです。むしろ下手くそでガツガツしてるのがヴェルディらしい選手なのかもしれません。

この新しい流れを作ることで、今とは違う未来も見えてくると思います。

まとめ

何度となく書きますが、私は永井さんの手腕は否定しません。ロティーナからのスペイン路線が切れたと嘆く声がありますが、永井さんはちゃんとその延長線の上にいると思っているからです。

先ほどから見ているデータサイトによると、ヴェルディが今年唯一1位を取っている数値があります。

https://www.football-lab.jp/tk-v/season/

シュート決定率です。

シュート本数は最下位。でも、決定率はナンバーワン。つまりやたらめったらに打って偶然入るシュートでなく、完全に崩すように意図的にプレーしているからシュート本数が少ないということになります。

そして、しっかりと崩してシュートを打つようになったのはロティーナ時代からです。

シュートがしっかりと入るシチュエーション=フィニッシュは明確に見えているが、そこに至るプロセスが上手くいかなかったのが今期かなと思います。

新人監督なのでその辺は少し大目に見て、来期こそきちんとした目標を定めて、シュートシチュエーションを増やして欲しいものです。

そして、その数値を満たすことができる選手を育てて欲しいと思います。

以上、クレージーなぐらい長いですが、読んでいただいてありがとうございました。

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