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レジェンドとの別れ 〜愛と契約と緑の血〜

2023年12月2日(土)に行われたJ1昇格プレーオフ決勝、J2リーグ3位の東京VがJ2リーグ4位の清水と1-1で引き分け、J1復帰が決定。
最終戦、国立競技場では、選手、スタッフ、サポーターが文字通り、一つとなり、昇格を掴み取った。
その団結は、正しく今季のスローガン
UNITE AS 1 Time to Goを実現したかのようだった。

2024年のヴェルディは、15年間の長きに渡るJ2生活に終わりを告げ、ついにJ1へとステージを移す。ただすべてが薔薇色に包まれているわけではない。掴み取るものもあれば失うものもあった。

1.レジェンドになりたかった

12月7日、突如、昇格の甘美なムードに酔うサポーターに冷水がぶちまけられた。コイカジとの別れである。
「ヴェルディのレジェンドになりたかった」と語る梶川。昇格プレーオフの原動力であった「カジと共にJ1へ」というサポーターの夢は不完全なままとなった。

永井ヴェルディの最大の発見であったストライカー小池純輝。彼がJ1で緑のユニフォームを着て戦う姿を見ることも叶わなくなった。今季、構想外だったとは言え、最後までチームに貢献しつづけた小池には称賛の声が止まなかった。

この二人との別れはサポーターの心をかき乱した。

こんなに愛し合っているのに、なぜ別れなければいけないのか。サポーターは涙にくれる。J1復帰の代わりに手に入れたものは、あまりに切なく苦い別れだった。

振り返るとヴェルディに別れはつきものであった。
これまでも経営難の名のもと、小さな頃から虎の子のように育てた育成選手を、幾ばくかのお金と引き換えてきた。
もっとも有名で悲劇的な別れは、河野との別れだ。

もちろん河野のヴェルディ愛は冷めることはなかった。2019年再びヴェルディに戻った河野だが、翌年には南葛へと再び旅立っていかなければならなかった。その時の最後の言葉も「ヴェルディ愛してる」その狂おしいまでの愛情に我々は涙した。

2.チーム愛とレジェンド

愛だけでは人は生きてはいけない。悲しい現実である。しかしそれはきっとヴェルディだけのものでもない。
もっと直接的な言われ方をされるケースもある。

『君がパルマへ行かなければクラブは破たんする。そうなったら君のせいだ』と言われた。それで移籍を決断した。故郷のクラブでプレーし、優勝することは選手全員にとって夢だ。』

ナポリの下部組織で育ったカンナヴァーロも泣く泣くパルマへと移籍したと言う。
そのカンナヴァーロが下部組織の頃、眼の前には伝説のプレーヤーがいた。クラブ史上初のスクデットをもたらした今は亡きレジェンド、ディエゴ・マラドーナだ。

若いサッカーファンには「神の手」のマラドーナかもしれないが、オールドファンにはやはり「ナポリの傭兵隊長」としてのマラドーナも印象深い。ナポリを愛し、愛されたマラドーナ。

なぜマラドーナはナポリに愛されたのか?

「世界的スターは誰一人、ナポリになんか来ようともしなかったんです。それなのにディエゴは来てくれたんだ。そして俺たちに2つのスクデットとUEFAカップをもたらしてくれた。こればっかりは絶対忘れられないですよ。」

レジェンドになるのは、生まれ育ちよりも「自分たちのためにいかに戦ってくれたのか?」なのかもしれない。

マラドーナは北部に虐げられるナポリの人たちの希望の星だった。

その点では小池も梶川も負けてはいない。この数年間は間違いなく緑の希望の星は彼ら二人だった。

J2という理不尽な環境下で、臨時駐車場にされてしまうグラウンド、予算も少なくスタッフも足りない、毎年有力な新人が引き抜かれていくという不遇な境遇に負けることなく、戦い続けてくれた二人は、間違いなく緑の傭兵隊長だった。
この数年間、たくさんのサポーターに誰よりも愛された二人。生え抜きの誰もが、なかなかなし得なかったJ1復帰を果たしてくれたレジェンド。結果だけを見比べれば、マラドーナの放った輝きとはほど遠いのは分かっている。ただコロナ禍の不安な日々を過ごす我々を照らすには充分な輝きだったことは間違いない。

3.レジェンドとの別れ

サッカー史に残るレジェンドに対しても、現実は厳しく、過酷な別れを用意する。
1990年7月3日、ナポリのスタディオ・サン・パオロ。ワールド杯イタリア大会準決勝でマラドーナ率いるアルゼンチンはホーム・イタリアを破り、イタリア国民すべてを敵に回してしまう。直後には弟のラウルが無免許運転で捕まる不運もあった。これまでの乱れた私生活への批判もあり、地元紙は一斉にマラドーナを攻撃した。

伝説の選手の放つ光は強く、すべてのものを輝かせるが、その分、影も深く濃い。ナポリの傭兵隊長は失意の中イタリアを去ることになる。

そもそも傭兵隊長=コンドッティエーリ(condottieri)とは契約を指し示すcondottaに由来する。契約によって都市国家の市民に代わって戦うリーダーこそが傭兵隊長であり、別離は当然だったとも言える。

*ナポリ頃のマラドーナを王様と称する記事は多いが、やはりここは当時呼ばれていたように傭兵隊長と呼ぶことにしたい

契約によって導かれたナポリという街と、王様になぞらえられる程、特別な絆を築いたマラドーナですら、別れとは無縁でいることはできなかった。

たからコイカジとの別れは、仕方ない。
そう仕方ないのだ。

フットボーラーの人生に別れはつきもの。お互いに永遠の愛を叫ぶけれど、いつまでも同じ場所に居続けることはできない定め。そこには契約という無情な鎖が存在する。
それを知っているからこそサポーターはみな選手のプレーに熱狂し、狂おしいまでの愛を叫び返す。

ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ

4.愛と契約と緑の血

そもそもなんでみんな愛なんて叫ぶんだろうか。
1年か2年、その場所でサッカーをするだけなのに。

カンナヴァーロは次のように言う。
「私はナポリから遠く離れていたが、私のルーツはここにある。常にこの街との強い絆を持ち続けた。ナポリっ子以外に、この絆について説明するのは難しいが、この街は人の心をつかむと、決して離れないんだ」
そこには見えない何かがあるとカンナヴァーロは言う。ナポリは街自体が不思議な力を持っているのかもしれない。

小池は語る。
「2012年からの2年を含め合計7年いさせてもらい、自然と緑を選ぶようになるというか、緑を好むようになるというか、ヴェルディが本当に身近な存在となり、当たり前のように(よみうり)ランドに通っていたので、僕自身7クラブでプレーさせてもらいましたが、やっぱりヴェルディというクラブへの愛着は強いものがあります。本当に良い7年間でした」

そこには契約を超えるものが存在するのだろう。
それを愛と呼ぶかは別として。

梶川は次のように語る。

「(ヴェルディ愛の理由は?)本当に何が理由ですかね。それは選手同士の雰囲気を含めて入ってもらわないと分からないという感じです。これがというものというよりも、雰囲気というかヴェルディは本当に選手同士の仲が良いです。もちろん、他のクラブも経験して仲が良いことに間違いはないですが、ここは独特な雰囲気があります。ユースの子たちが練習参加に来てもすんなりと入ってこれます。それはしっかりとアカデミーの教育というか、やり方がしっかりしているからこそだと思います。とにかくなんとも言えない心地よい雰囲気があります」

既に緑の血が流れているとまでいう梶川。

ヴェルディ愛を叫ぶものは必ず緑の血の話をするのだが、そもそも緑の血とは何なのだろうか。

ヴェルディ30年の生き証人・竹中百合に語ってもらう。

「我々がヴェルディである限り、そのとき、最も新しいこと、過去に例がないものをやろう。常に先駆者であろう」——と。

「自分自身に強くあれと言われてきたので、それは今の選手たちにも伝えています。あとは新しいことを追い求めろというのと同じように、個性を大切にしなさいとも言われてきました。だから、私自身も何でもかんでも、品行方正が正しいとは思っていなくて、それが認められる、認めてくれるのもこのクラブの魅力だと思っています」

おそらくこれこそが居心地の良さ、そして緑の血の正体なのだろう。

パイオニア・スピリット
プロとしての自立心
個性・ユニークさの追求

そしてそれを守る心理的安全性の担保こそが、緑のDNAが守られてきた理由なのだと思う。スタッフにも強い愛があるのだ。

「その選手が活躍するためにできることは、できるだけ叶えてあげてほしい。でも、そこにはわがままと正しい要求がある。わがままは絶対に許してはいけない。でも、それが正しい要求であると思ったのであれば、クラブは全力を尽くしてあげるべきだ」

5.終わりに

われわれサポーターのヴェルディ愛は変わることはないが、時としてチーム、選手との関わりに陰りが差すこともある。
ただ忘れてはいけないのは、そこには必ずヴェルディとの切れない絆があるということ。
喧嘩をすることはあっても、みんな緑のファミリーの一員。

例えチームが不調で勝てない日々が続いたとしても信じることをやめてはいけない。

その時はこのエーコの言葉を思い出そう。

「自分は一選手ですが、ヴェルディというクラブの価値は本当に高いと思っているので、そういうものを次はJ1の舞台でみんなは示せると思うので、僕はチームを離れますが、僕らが持っていた愛情を同じようにみんなが持ってヴェルディの価値を高めてくれれば嬉しいです」

小池のこの言葉を胸にしまって、竹中さんのような大きな心で、来季は一年、ヴェルディを支えていこう。

きっと最も緑の血が濃いと言われるキャプテンが、しっかりとやってくれるはずだから。

ありがとう、コイカジ。
そしてこれからもサポートよろしくお願いします!

感情ダダ漏れのまとまりのない文章失礼しました。


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