偉大なるえのき茸
10代の頃、自分のホームページを持っていた。HTMLタグを手打ちした手作りのものだ。私はそのホームページで自作の絵や小説、エッセイなどを公開していた。
非常にどうでもいいことを書いていた気がするし、その頃のデータはとうに手元にないので事細かに何を書いたかを確認するすべはもうない。
その中でひとつだけ覚えているテーマがある。そう、「えのき茸」についてだ。
当時の私はたしか、えのき茸についてこんなことを書いていたと思う。
「地味なきのこだ」
「見た目にも味にも華がない」
「母は頻繁に食卓に出すが私はしめじの方が好きだ」
「ハニーえのきの意味がまずわからない」
「honeyははちみつだろ? hunnyははちみちだろ?」
30を過ぎた今だからこそ、当時の自分の肩を叩いて言いたい。
バカ言っちゃいけねえ。
あの頃の私の代わりに謝ろう。えのき茸様、大変失礼なことを申しましたことをお許しください。あなたはたいへん素晴らしく、優秀なきのこであります。
あの細いボディに秘められた旨味。水の入った鍋にえのき茸をひと株放り込み、そのまま火にかけてみそを溶けば立派なみそ汁の出来上がりだ。他に出汁を入れる必要はない。
10代の私はその旨味を感じることのできない残念な舌を持っていたとしか言いようがない。若さゆえにえのき茸をディスっていた。恥ずべき日々である。
えのき茸の魅力はその旨味だけに留まらない。私はえのき茸の食感も推す。
想像してほしい。汁物の中から箸で持ち上げ、少ししなったえのきの束を口に放り込むのを。
じゃく、じゃく、じゃく、じゃく。
束になったえのき茸の軸を噛みしめるのを。
じゃく、じゃく、じゃく、じゃく。
くったりとはしているが決して歯応えのないヤワな奴らではない。えのき茸をひとりぼっちにさせてはいけない。彼らは束になってこそ、その力を大いに発揮するのだ。エノキ、ドント、アローン。
それから、ご存知なめたけ。3日もあればひと瓶まるっとなくなる。
見た目だってまるでカスミソウのように可憐ではないか。
今とても残念なのは、15年前の私がこのえのき茸激推し記事を見れないということだ。
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