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テレビの特性を活かした聴覚失認者への情報伝達手法

 朝早く、「カンテレ通信」という関西テレビの放送を見ようとテレビを付けたら、津波警報が流れていました。津波警報は前日に南太平洋のトンガ諸島で起こった海底火山の噴火が、岩手県沿岸や奄美群島とトカラ列島に津波がやってくると警報を流していたのです。「カンテレ通信」は、わたしが主催したワークショップ「聴覚失認者に理解しやすい放送⽅法」を短くまとめた番組が流れるはずです。「カンテレ通信」は録画であり、トンガで起こった噴火と津波は、現に今起こっているリアルな災害です。何やらわたしがテレビで訴えたことが、偶然にも、現実に起こったような気がしました。

 わたしが訴えたかったことは、「聴覚失認者という、耳は聞こえているはずだが、脳で理解できない人たちが、それでも理解する方法」をまとめたものです。詳細は前に書いているので省きますが、テレビを見ていて、トンガや奄美やトカラ列島や岩手にも、結構多くの聴覚失認者はいるに違いないが、その人たちは、今、どうしているのだろうかと気になりました。さらに、その他のマイノリティはどうしているのだろうと想像しました。そんな想像をしている内に番組は始まりました。

 番組で流したワークショップは昨年の11月26日に取材したものです。それに12月28日にスタジオで収録した解説を加えて番組は出来ていました。関西地域ではすでに27年も前のことになるのに、人びとの記憶には、今だに阪神・淡路大震災の記憶が生生しく残っています。その時、聴覚失認者はどうしていたのだろうという疑問が浮かんでいたのです。それは、今日の岩手県沿岸や奄美群島とトカラ列島の聴覚失認者が、どうしているのだろうという疑問とぴったり重なります。

 「聴覚失認者はどうしているのだろう」ということが疑問になるということは、「聴覚失認者」は、それほど可視化されていないことを示します。国や地方自治体が挙げる「社会が包摂するべきマイノリティ」には、いつも決まって視覚障害者や聴覚障害者、肢体不自由者、知的障害者、それに精神障害者が上がります。聴覚失認者は高次脳機能障害者ですから、あえて分類をするとしたら精神障害者に当たるのでしょうが、聴覚失認者が多い失語症者は、昔から「身体障害者」に区分されています。そして学校現場で問題になる聴覚失認者が発達障害であり、最近になって、ひょっとしてと疑いだしたのが高齢者の聴覚失認です。高齢者は聴覚失認よりも難聴を疑われるのが常なのです。要は、社会には多くいるにも関わらず、「聴覚失認者」は多数者から見えにくくなっているのです

 テレビという媒体は、当たり前ですが動画が映ります。字幕放送も思いのままだし、デジタル放送になってからは、副音声で、主音声では聞けないような話を放送していたりします。しかし、まだまだテレビの潜在力を使いこなせていません。このことは、単に視聴者がテレビの能力を使いこなせていないというだけではなく、制作者の側のテレビ・マンたちも使いこなせていないのだと思います。

 放送局によってさまざまな方式で字幕放送は試みられています。緊急災害放送のとき、関西テレビでは人間が全文を打ち込んで示しているそうです。しかし、それだと高齢者やさまざまな障害を持った人たちは、読み終える前に次の字幕が始まります。あるいは、文字の打ち込みが遅れて、画面と字幕が同調しません。

 「カンテレ通信」のコメンテーター、わかぎゑふさん(劇作家・演出家)は、全文表記で、大切なところに黄色いハイライトが入ったものが一番見やすいとおっしゃいました。

 もうお一人のコメンテーター、佐藤卓己さん(京都大学大学院教育学研究科教授)は、全文を表記するのではなく、黄色のハイライトの入った大切なところだけを抜き出して表記するのが分かりやすいし、現実的だとおっしゃいました。

 字幕の付け方ひとつとっても、まだまだ工夫しなければいけないようです。

関西テレビ「カンテレ通信」2022年1月16日
https://www.ktv.jp/tsushin/220116.html
「テレビに可能な聴覚失認者などへの情報伝達」
https://researchmap.jp/read0189214/presentations/36219591
https://researchmap.jp/read0189214/presentations/36219591/attachment_file.docx がダウンロード可能。関西テレビ「カンテレ通信」の画面から三谷の言ったことを書き起こしました。

 その他に、ワークショップ「聴覚失認者に 理解しやすい放送⽅法」
https://researchmap.jp/read0189214/presentations/35924160
https://researchmap.jp/read0189214/presentations/35924160/attachment_file.pdf がダウンロード可能。スライドと手持ち原稿を合わせたものです。


ECOMO交通バリアフリー研究・活動助成報告会への報告書「聴覚失認者にとっての緊急災害時のチャイムの意義」
https://researchmap.jp/read0189214/misc/31833012/attachment_file.pdf
があります。いずれもフリーでダウンロード可能です。


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