覚えれば魚に逃げられなくなる、気配を消すコツ4つ #4
読者様からこんな質問をいただきました。
これ、すっごい分かります。
気づくまではすごく近くにいたのに、
目が合った瞬間逃げられちゃうってやつ。
野生動物の観察って
駆け引きを楽しむのも
醍醐味の一つですよね。
せっかくレアな生物を見つけたのに
逃げられちゃってそれっきり見られなかった
ということはよくありますし、
魚類の繁殖行動を観察していて
長い時間こう着状態が続き、
一瞬気が散った隙をつかれて
産卵されてしまったなんてこともざらにあります。
今回は、私のダイビング人生、
学生時代を含めると
14年間で習得してきた
魚に近づく方法論をお伝えします。
これをすれば絶対に近寄れる
という話ではないですし
私もいまだに失敗を繰り返しながら
試行錯誤を続けているところなので
軽い気持ちで参考にしてください。
もし、他にも「私はこんな方法で魚に近づいているよ」という
コツをお持ちの方がいらっしゃったら、
ぜひ教えてください!
私が考える気配の消し方は、目線・スピード・角度・呼吸の4つです。
慎重に近づいたのに隠れられてしまった、そんな時は待つしかありません。
①目線
冒頭ですでにヒントを書いてしまっているんですが
重要なのは目線です。
弱肉強食の世界で生きている野生の生物にとって、
目が合うというのは一食触発の緊張状態です。
例えば、猫は目を合わせようとしないってご存知ですか。
信頼している飼い主だとその限りではないのかもしれませんが
来訪者などのよそ者や、
外で会う他の猫に対しては目線を外します。
猫たちは目が合うと、すぐにつぶったり
あくびをしたりして目線を逸らし、
無用な衝突を避けているようです。
本能的に互いに目を合わせる行為が
敵意の表れだと分かっているんですね。
私は人の話を聞いているとき
目を見たままほとんど逸らさない癖があるようで
よく人から「ずっと目見てくるよね」って言われます。
決して敵意はないんですけどね、
見つめられるとそらしてしまう気持ちは分かります。
魚も一緒でして、目が合うと緊張します。
ハタやブダイなど、行動範囲が広い魚は
見つめながら近づいていくと絶対逃げます。
これが「気づいてないときは近づけるのに
気づいていると逃げられる」理由です。
つまり、近づく際には
魚を視界の隅に捉えながら
全然違うところを見る、が正解です。
気づいてるんだけど気づいてないフリをしてください。
ふざけてること言ってるようですが、
これ、効果テキメンです。
②スピード
魚はどうやって危険を察知しているかご存知ですか?
魚には側線という感覚器官を持っていて、
流れや水圧などを感知できるといわれます。
こう言われると
なんでも察知できちゃうように思えるんですが、
難しい論文とかをパラパラ読んでみたところ、
要は自分の位置を把握するための器官で
周囲の状況自体はちゃんと自分の目で見て確認しています。
みなさんも、魚を見ていて、
絶対にこっち見てるよなと感じたことはありませんか?
魚たちは目の前に現れた巨大な生物が
一体何者なのか気になって仕方がありません。
捕食者かもしれないわけですから、
危険を察知したらすぐさま逃げなくてはいけないのです。
捕食者は、ちんたらしたら
獲物に逃げられてしまうので
一瞬のチャンスをものにしようと飛び掛かるはず。
つまり、素早く動くものは危険な捕食者なんです。
カエルアンコウになったつもりで
ゆっくりゆっくり近づいていき
獲物がエスカに気を取られているうちに
パクッといってみてください。
③角度
次は泳いでいる魚に有効な方法です。
これ、八丈島時代に親方から教わったことなんですが、
真っ直ぐ近づくと相手からしたら急に距離が縮まって怖いんです。
少し角度をつけながら近づいていくと
真っ直ぐの時と比べて見た感じ緩やかに距離が縮まるので
気づいたら近くにいたという錯覚を与えます。
しかも①目線は外れているから
まさか自分に向かって泳いできていると
思ってもおらず無警戒なんです。
撮りたいベラがいたら
進行方向の少し先を目がけて泳いでみてください。
お客様から「昇太さんってなんであんなにカメに寄れるんですか」
とよく聞かれるんですが、角度が違うんです。
④呼吸
海洋生物にとって最も異質なもの、それは人間です。
スキューバダイバーが出す呼吸音はその最たるもので、
魚が逃げるとき、
そのほとんどが音に驚いたことが原因です。
おじさんダイバーに多いんですが
息を吐くときに「あ゛」っていう音が漏れてないですか。
ひどい人だと「ヴォッ!」って言いながら吐く人がいて、
側線のない私にも振動が感じ取れるレベルです。
なるべく音が出ない呼吸をしたいので
オープンウォーターの教科書に書いてあった
「深呼吸をしましょう」を今一度真剣に心がけてみてください。
長く細い呼吸です。
吸うことはほとんどの人ができるんですが
吐く時にどうしても勢いがついてしまいがちです。
ストローに通すくらいのつもりで息を吐いてください。
細く長い呼吸は
吐く時の衝撃音を抑制するだけでなく、
次のような場合にも役に立ちます。
例えば、オキナワベニハゼなどをターゲットに
根の亀裂に頭を突っ込んで撮影をしなくてはいけない時です。
穴の中では、息を吐いたら天井に泡がぶつかってしまいます。
音が出るだけでなく、
泡で舞い上がった砂やらなんやらがいっぱい降ってきます。
ちょっと難しいんですが、
実際に私がオキナワベニハゼを撮る時にやっていることを
書き起こしてみるので想像しながら読んでみてください。
まず、息を吐きながらゆっくり近づいていって、
ハゼがいる穴に入る直前で息を吐き切る。
穴の中に入ったらしばらく息を止めて、
苦しくなったら細く息を吸い始める。
ちゅーーーーっと細く吸い続けて、
吐きたくなったらゆっくりと穴から顔だけを出して
ぴゅーーーーっと吐く、
この時ハゼの目の前にあるカメラは動かしません。
被写体に近いものの動きほど②スピードはゆっくりです。
吐き切ったらまた顔を穴の中に入れて撮影を続ける。
おそらくハゼの撮影に慣れた方は
皆さんこれに近いことを意識して撮影されていると思います。
ここまで神経をすり減らしたとしても
絶対に引っ込まないという保証はありません。
もし引っ込んでしまったらあとはとにかく、ひたすら待つ、です。
⑤最終奥義、待つ
冒頭の読者様から寄せられた質問にある
ドリー君(ナンヨウハギ)の撮影について最後に解説しておきましょう。
ハナヤサイサンゴにはドリー君以外にも
フタスジリュウキュウスズメダイやミツボシクロスズメダイなど
多くの魚が暮らしています。
ダイバーがゆっくり近づいてくると
周囲を自由に泳いでいたスズメダイたちが
警戒してサンゴに集まってきます。
いつでも隠れられるようにしてるんですね。
臆病なドリー君は、緊急待避線が遠くにあるので
この時点で一度サンゴの隙間に隠れます。
もし、先ほどの「ヴァッ!」おじさんがこの場にいたとしたら
息を吐いた瞬間に全スズメダイがサンゴの中に隠れてしまい
ドリー君はもう2度と外には出てきません。
衝撃波を発生させないように細く息を吐くことができれば
そのうちスズメダイたちは警戒をゆるめ、
また自由に泳ぎ始めるようになるでしょう。
その後でようやくドリー君がおそるおそる外に出てくるわけです。
出てくるといってもこちらのことは常に警戒しているので
ハナヤサイサンゴの向こう側にちらほら姿が見られるだけです。
完全に警戒が解けてフラフラと泳ぎだすのを待つには
かなり忍耐力が必要になります。
近すぎると一生出てこないので少し離れてみてもいいかもしれないですね。
noteに一番初めに書いた#1テリトリーの話を思い出しながら魚との距離感を掴んでみてください。
目線を外し、進行方向もずらし、ゆっくりと近づき、音を出さないように息をする。
以上、気配を消す4つのコツでした。
魚の警戒心をどうしたら解くことができるかを
常に気にしながら撮影に臨むことが最も大切なことです。
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