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週末の東京駅京葉線入り口で、無言で向き合ってうつむいているカップル達の話。

二十代の頃、東京駅の近くで働いていたのですが、週末になるとかならずといっていいほど見掛ける光景がありました。
それは「東京駅京葉線の入り口で、無言で向き合って険悪なムードでうつむいているカップル」です。マジで毎週末いました。
あっちの柱の前にも、こっちの柱の前にも、そこら中の柱の前にいるのです。彼女は不機嫌な顔でうつむき、彼氏は何を言えばいいのかわからずに困った表情を浮かべている。
京葉線に乗ってカップルが行く場所はひとつしかありません。みんなが大好きなあの「夢の国」です。千葉にあるけどTOKYOと名付けられたあの夢のテーマパークです。昔の僕は向かい合って気まずそうにうつむくカップルを毎週見ながら「今週もやってんな~」ぐらいの感想しか抱きませんでした。
しかし、いまならその原因が完全に理解できます。ここで僕が「カップルで夢の国にデートに行くと高確率で破局する」という都市伝説の秘密を徹底解明します。

まず結論から言います。夢の国デート破局には「生理」が密接に関係しています。デート当日に彼女が生理だったか、もしくは生理前だったか。このどっちかである可能性が非常に高いです。そもそも女性は一ヶ月うち二週間はそのどちらか。50%の確率なんです。こんなことを書けば「そんなの夢の国デートに限らずいつだってそうじゃん!」とツッコまれてしまいますが、そのとおりなんです。
もちろんカップルの間に起こる問題のすべてを、生理のせいにするつもりはありません。単純に彼氏が思いやりに欠ける言動が原因だったかもしれなし、彼女がわがまま言っているだけかもしれません。そういうこともたしかにあります。しかし生理が女性の身体と精神に与える影響を決して見過ごすことはできません。
夢の国は健康な状態で遊びに行けば最高のレジャー施設です。一日じゃ足りないくらいです。いっぱい遊んで、歩いて、食べて、アトラクションの列に並ぶ時間はちょっと長いけど、その間のお話も楽しいですよね。そう、最高のデートスポットなんです。言っておきますけど僕も大好きです。
ただしこれは健康な状態で行った場合の話。もし彼女が生理だったとしたら、これほどキツいレジャー施設はありません。もしかしたら地獄かもしれません!

夢の国デートで一番大切なのは、天気じゃありません。混雑具合でもありません。彼女が生理かどうかが一番大切なんです。スケジュールの時点で勝負は決まっているのです。通常のデートの場合、生理が被ってしまってどうしても体調が優れなかったらキャンセルすればいいと思います。しかし夢の国デートはカップル達にとっては通常のデートとは違う特別なデートです。“特別”という言葉が、キャンセルという選択肢を消してしまいます。彼氏の方もずっと前からデートを楽しみにしているはずです。一週間くらい前から「楽しみだね~」なんてやりとりもしていることでしょう。仮にドタキャンしたら、それがケンカの原因になるかもしれません。
どっちを選択しても気まずくなること間違いなしです。たとえ生理で体調不良だとしても、強行突破するしかないのです。
そして、いざ夢の国に到着すれば、そこには地獄が待っています。そもそも夢の国では、夏は燦燦と照り付ける日差しに焼かれ、冬は遭難するかと思うほどの寒風が海から吹きつけます。地球温暖化もあって最近では春と秋が短くなってしまっているので、健康な状態で行っても体力勝負なデートスポットなのです。

生理だとしてもデート当日はもちろん気合が入っているので、開園と同時に入場するために早起きです。体はめちゃくちゃ眠たがっていますが早起きです。そして開園と同時にアトラクションの優先入場整理券を手に入れるために小走りです。
彼氏はとてもはりきっています。いつものデートならそんな彼氏を可愛くも思えるでしょうが、生理の日に「はやく! はやく!」と手を引っ張られたら「ちょっと勘弁してくれ」と思うはずです。そんな彼氏に手を引かれながら、全力で小走りする生理中の彼女。そしてなんとか整理券を無事に発行完了。
整理券は発行枚数に上限があるので、次は並んでアトラクションを待ちます。この時点でライフゲージはかなり削られていますが、一息つく間もなく「どのアトラクションに乗ろうか!?」と張り切る彼氏。しかし彼女に今一番必要なのはアトラクションではなくベンチだということを、彼は知る余地もありません。

しかしここはまだ地獄の一丁目。

これがもし夏だとしたら灼熱地獄の中で一、二時間待つことになります。生理の時に貧血気味になる彼女だとしたら、何度か気を失いかけるかもしれません。しかも暑さで汗まみれ。日本の生理用品が高品質だということは世界でも有名ですが、その高品質のナプキンをもってしても蒸れることは避けられないでしょう。
冬だとしても地獄なのは変わりありません。寒風に吹きつけられて冷えること間違いなし。生理中の女性は冷えやすいものです。あと多分、頭痛にもなると思います。
夏でも冬でも、生理中の女性の体にとって、あの行列はあまりにもハードです。行列に並びながら最初は会話もするでしょうが、イマイチ盛り上がらない。そりゃ盛り上がらないはずですよ。彼女が今並んでいる場所はアトラクションではなくて、地獄の一丁目。それどころではないのですから。
そして行列の最後に待っているのはアトラクションなわけですが、体調不良の時に乗るジェットコースターは果たして楽しいのでしょうか?
……多分なんですけど、ジェットコースターって健康な人が楽しむために設計されていると思うんですよね。僕は以前、体調が悪い時に後楽園遊園地のサンダードルフィンに乗ったことがありますが、普通に体調が悪化して吐きました。そして全然楽しくなかったことを記憶しています。

二人の夢の国のデートを実況するのがだんだんツラくなってきましたが、こんなデートがもう二度と繰り返されないように、歯を食いしばりながら書き続けます。

そして夜を迎えます。何度も挫けそうになりながらデートを遂行した彼女は、身も心もボロボロです。彼女はよく頑張ったと思います。一方彼氏は、彼女が今日一日を通してあまりテンションが上っていないことに気づいています。そしてお互いにだんだんと口数が減り、二人の間には微妙な空気が流れます。

彼女はこう思います。
「せっかくのデート、生理じゃなかったら、もっと楽しかったのに、、、」

彼氏はこう思います。
「せっかくのデートなのになんで不機嫌になってんだろ、もっと楽しそうにしてくれたらよかったのに、、、」

そして京葉線から繋がるあの長い道のりを歩いて、彼女の体力が限界を迎えた時、あの光景が生まれるのです。
壁にもたれ掛かってうつむく彼女と、向かい合って為す術もなく虚無の表情を浮かべている彼氏です。

二人とも同じことを思っています。

「こんなはずじゃなかったのに、、、」

彼女は最悪のタイミングで来た生理を恨んだことでしょう。しかし彼氏はデートが失敗した原因がまさか生理だったとは知るよしもありません。
これが毎週末、東京駅で繰り返されている悲劇の真相です。
この事実を知れば、カップルで行く「夢の国」デートがいかにデンジャラスかがわかりますよね。
僕も過去の苦い思い出のデートの振り返ると「あの時もしかして、彼女は生理だったのかもしれないな」という心当たりがたくさんあります。僕はそんなことも知らずにめちゃくちゃはりきってました。ホントに今更ながらですが、「ごめんなさい」と謝りたいです。

もちろん柱の前で沈黙しているカップルの原因のすべてが生理だとは言いません。ケンカの原因は生理の他にも考えられます。しかし生理or生理前の確率は50%です。このことは念頭に置いておいてください。
この話は僕の経験談でもあります。そして夢の国へデートに行こうとしているすべてのカップルに起こりうる事案です。どうか週末の東京駅京葉線入り口で、無言で向き合ってうつむいているカップルにならないためにも、彼女は「もしかしたら生理かもしれない」という可能性をいつでも忘れずに夏のデートに挑んで欲しいです。

編集 黒川美聡

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