見出し画像

欠席裁判

欠席裁判という言葉がある。文字通り、裁判を欠席し当事者が不在のまま行われること。転じて本人の意見が述べられずに物事が決定したり、不利な状況になることである。

大学の頃、同じクラスの友人とよく行動を共にした。酒を飲まないのに居酒屋で働く友人にはそこで出会った年下の彼女がいた。彼女はよく話に出てきたのでどんな人なのか大体想像できたし、エピソードをおかしく話すので仲良くやってるんだなと思っていた。当然彼女の方にも自分の話はしているはず。大学でどんなことが起きて、放課後どこに行って、何を食べたか、おおよそ話はしているだろう。

ある日友人と彼女と三人で遊ぼうということになった。友人は積極的に引き合わせたりする性格ではないため、おそらく彼女が言ったのだろう。相方がいつも世話になってます、と伝えるには良い機会だと思い楽しみにしていた。

ここまでは良い。

当日、待ち合わせに現れた二人。楽しそうに話をしているのが遠巻きに見える。小柄でポニーテールの優しそうな顔つきで柔和な印象。だが近づくにつれて彼女の顔はだんだん険しくなっていき、到着する頃には睨みつけるようにこちらを見ていた。

どうも、という呼び掛けにもほぼ無反応。明らかに機嫌が悪い。なんなん?と思ったが、友人は慣れた感じで接している。感情の起伏が激しい人なのかな、と推察したがその後も彼女の機嫌は一向に直らなかった。

とうとうその日は夜までその調子で貫き通し、解散した。何だったんだ?と思い帰りの電車で考えてみるものの、特に思い当たるふしはなかった。しかししばらくして、おそらくこれか?ということが思い浮かんだ。

要するに、妬いているのである。独占したい私だけの彼と毎日のように居やがってこのやろう。コイツか!!なのである。

いやいやいやおれ男だから。しかも学校なんだから毎日会うでしょ。むしろ、変なのが寄ってきた時に冷や水を浴びせられるポジションなんだから仲良くしといてや。と言いたいところだが、もはや法廷にいないので弁論ができない。あとのカーニバル。

ちなみに日常の行動はほぼヤツが決めていたので、振り回した覚えはまるでない。むしろ振り回されたことの方が多いのではないか。でもこの声は彼女に届かない。欠席裁判なのだ。

半同棲していて帰りが遅くなればアイツがさ、と言ってただろうし、知らない予定でさえ居たことになっていたかもしれない。怖すぎる。

今でも時々会うがそれを問い詰めたとて、もう時効だろと言ってくるに違いない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?