道端に「ア」が落ちていた。

どこかの店から外れてしまったのだろう。普段ならなんてことなくスルーであるが、その日はなぜかやけに気になった。

この「ア」一体なんの「ア」なのか？

こちとらいい大人なのでこれくらいの謎解きはして当たり前、解いて男前である。

早速探偵は推理に入る。まず何の店から外れたものなのか。コンビニ、飲食店、美容室、歯医者、整体、介護施設etc…。
しかし美容室であればもう少し色味や字体にこだわるだろうし、飲食店にしてはサイズがデカイ気がする。歯医者のPOPなどはほとんど見かけない。ということでコンビニ、整体、介護施設あたりだと睨んだ。

次に肝心のワード。まず浮かんだのがアルバイトである。人手不足の昨今、アルバイト募集中！！の「ア」の字がポロリ落ちたと想像するに易い。他候補としては、アイテム、アドレス、アクセス、アリます、といったところか。

さて、答え合わせを…。

と思ったが回りにそれらしき店が見当たらない。国道に面した歩道で、目の前にでかい病院がある以外店という店はないのだった。

ここで病院内の掲示板などに貼られるPOPの可能性が急浮上してくる。高齢者などに見やすいよう字は大きめに、字体が質素なのも頷けてくる。一気にホシの大本命となった。

しかし困ったことに、それだと答え合わせができない。用もないのに病院など入れるはずがないし、受付でこれ落ちてましたよ(ｷﾘｯ)。としたものの全然違ってて、は？なにこの変人と思われるのは名探偵の名に恥じるからだ。

事件は難航を極める。だが絶対に解いてみせる。じっちゃんの名に懸けて。

～CM～

しかしなんといっても手がかりが無さすぎる。なんとか情報はないものかと足を使う。青島警部(織田裕二)の顔で。ひとまず周辺を探ってみる。交差点が近いので対岸もくまなく調べあげる。すると近くに、めちゃくちゃ可能性のありそうなスポーツ専門学校があった。

工藤、完全にここや。と平次の声が耳の奥でコダマした。案の定エントランスに入るまでもなく、外のガラスにはPOPがベタベタと貼られ、活動報告や新入生の案内などで埋め尽くされていた。

あとはアの字を探すだけ。一文字一文字入念にチェックをする。ダイビング…ストレッチング…シナプソロジー…モチベーションマネージャー…今は色んな資格があるんだなぁと感心する。するのだが、一向に剥がれた形跡がない。

まさか、ここじゃない…？

本命と思われたホシのあても外れ、かなり入念に学校案内を見ただけの不審者となり、事件はまた振り出しに戻ってしまった。

ここまでくると「ア」の正体が俄然気になってくる。…アメリカ…アイドル…アスタリスク…などと呟きながら歩くヤバい男。まさかこの答えを知ることなく日常を過ごすのかという焦燥感。答えのない謎解きゲームは迷宮入りとなった。

…しかしその後ニ週間が過ぎ、「ア」のことが気にならなくなってきたある日、この事件はひょんなことから結末を迎える。

再びこの街に降り立った私は、お茶を買うためコンビニに立ち寄ろうとしていた。

その時である。

プリでお得ってなんだよ。…プリて笑

…

プリ？

あーッッッ！！！！！！

脳汁ブッシャー！！と同時に声が出てしまったため、すれ違うわんこがビクッとなった。なんと「ア」発見現場から実に500メートルはあろうかという位置にあったコンビニの駐車場に、最後のピースははめ込まれた。

普段こんなにも身近なアプリの存在が「ア」のワードを羅列する時に出てこないとは。
そしてこの通いなれたコンビニが候補に上がらないとは。

まるでこの抜け落ちた「ア」のようではないか。

私の負けだ明智くん。