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2023白露日記

文学フリマ大阪11が終わった。

(↓文フリについてはこちらにまとめました)

文フリが終わったら、ようやく涼しくなり始めていることに気づいた。イベント翌日は健康診断の予約を午後に入れることでなんとか有給を取っていた。会社の健康診断が場所も日程も社員の自由だから、適当に選んでのこのこ行ってみたら豪華なスパみたいなクリニックでおもしろかった。待合に本やスマホを持ち込んでよくて、さっそく文学フリマで買った『カム』を読む。来年もここにしようと思う。
これはアトピー体質の人しかわからないと思うけれど、採血が苦手。しかし親切で巧い看護師さんにあたる。今まで何十回と採血してきたと思うけれど、「真ん中にまっすぐ太い血管が通ってますから、次の時には、前回そう言われたと伝えられるといいですよ。たぶんそうかな?というのがわかると思うので」などと言われたのは初めて。次回の採血者への引き継ぎ事項として、ぜひ覚えておかなければ。

健診が終わったら自由。雨が降りだしていたけれど、本業のほうもひとつ校了したばかりだし、イベントは終わったしで、肩に何も乗っていない状態を確かめるように歩き出す。豊かに過ごそうと思って、初めてウサギノネドコカフェに行ってみた。デザートに抗えず宝石パフェを食べた、メニューの落とし込み方へのクオリティが高い。ショップを覗くと天体フェアをやっていて、珍しい品ものを眺めているうちに手持ちの便箋がもう少ないことを思い出した。一昨日書き終わった手紙がかなり長くなってしまったのだ。こういうところで何か珍しいものを買いたいとき、今一番よい買い物ができて満足する。

雨がやんだこともあり、考え事がしたかったので歩いていると、いつものカフェ(その2)に足が向く。頭を悩ませていることはあるが、それでもようやく訪れた自由時間。気持ちを切り替えるために『カム』の続きを読んで少し泣く。

本業の方はすでに次の本が動き出していて、ちょっとがんばって一気にボールを投げ返したので、平日の仕事終わりにみなみ会館へ『ひなぎく』を観に行った。DVDも持っているし、何度も見ていることもあり、気を抜くと余計な思考が鑑賞の邪魔をしてきたが、マリエ1とマリエ2を眺めているうちに冷静になってくるようなのが不思議だ。鑑賞後は不思議と気分がすっきりし、いくぶんか強気になっていた。

暗喩……みんな暗喩のことをどう思っている?『ひなぎく』の暗喩はわかりやすい。ああ…と思うところは随所に散りばめられている。わたしが嫌っているのは暗喩そのものではない。監督や作者が込めた暗喩に対し、批評家があれこれと解説するのはいいとして、その批評家の言葉を復唱しただけの、批評家でもなんでもない一般人の言説を耳にすることが不快なのだ。そこまで掘り下げることで気持ちが落ち着いてきた。
『ひなぎく』なんてまさに、初見では何を見せられているのかわからず、ただマリエ1とマリエ2の奔放な言動に魅せられる。そしてサラダのくだりになって初めて、(ああ、これは…)という気持ちになる。

サラダのくだりと言えば、誤訳で有名だが、上映直後からあれと思うところがあって、どうやら全体的に改訳されていたよう。初見で見たときは「踏みにじられたサラダだけを可哀相と思わない人々に捧げる」(「可哀想と思う」が正しい)だったのが、「サラダを踏みつけられただけで気分を害する人にこの映画を捧げる」となっていてわかりやすかった(うろ覚えなのでてにをはが違うかもしれない)。ただ、以前の翻訳に親しんでいるから、情緒としては以前のほうが好きだけれど(「通り過ぎる人生のにおい」)。

劇場を出たあと、これを勧めたい友人の顔が浮かんで連絡したら快諾してくれた。三連休はつくりたいものもあるしのんびりしたかったけれど、一日くらい人に会えると思うと心が浮き立つ。
最近は特に仕事と制作に追われて人に会っていなかったから、繁忙期や文学フリマから開放されてようやく親しい人たちの顔が浮かんでくる。誘われれば基本的には断らないが、忙しかったり余裕がなかったりすると自分からは声をかけられないという期間が長かったので、次は自分から連絡をつけていく番。声をかけていただいた読書会もあることだし、うまい具合に予定が組めたので、手帳を眺めてみるとそれぞれがオアシスみたいな楽しみが点点と増えていく。毎週別コミュニティの友人たちにそれぞれ会えるなんて充実だ。冬に向かうとまた本業が忙しくなってしまうので、今のうちに交友を深め心の栄養を蓄えておきたい。
プライベートでストレスを溜めるなんてナンセンスすぎる。忙しくて余裕が持てなかったのが原因の一つだと今になって思う。もう少し日々に余白を持ちたいところ。

文学フリマでこの半年間自分が取り組んだ成果を確認できるのは大きな意義になっているが、しかしイベントが終わってぼーっとしているとだんだん不安になってきて、「自分はこれからどうしたいのだろうか?」と懊悩しはじめてしまう。書いたり作ったりしている人にとってはよくある発作かもしれない。季節の変わり目で気分が冴えないようでもあり、それも関係ありそう。もしくは、俗に言う「燃え尽きた」状態なのだろうか…。自由になったらインプットに力を入れるのだ、と気負ってきたけれど、うまく空っぽにしておかないと入ってくるものも入ってこない。ままならない。

そういうわけで、できるだけ空っぽになってMOVIXで『パーフェクト・ブルー』を観たら案の定怖かった。『アステロイド・シティ』も見たが、ウェス・アンダーソンの作品は十秒間の情報量が他の比ではないため、一回観たくらいでは置いてけぼりを食らってしまう。笑うための教養という考え方、教養を強要するような言説ははっきり言って嫌いだが、初見で爆笑できる人がいたとしたらその人はかなり頭の回転が早いと思う。劇場の椅子の上でぼんやりと(難解だなあ)と思い、翌日ネットで手頃な解説を読んで初めて(これは難解なはずだ)と理解し直した。50年代のアメリカとテレビ業界について心得があるかと突きつけられると、なかなかハードルが高く感じる。

映画の前後はできるだけ店に入って本を読む時間をつくっている。劇場という非日常にクッションを置くようなイメージで。

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