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ストーンズを聴こう!その10 “Satisfaction”

ストーンズを聴き始めた70年代初頭、FMのストーンズ特集やらリクエストでこの曲がかかると「古臭いなぁ!」「なんかGSぽいなぁ!」と感じていたものだ。イントロのあのリフと音色、それに続く押せ押せのリズム・・・。”Brown Sugar”とか”Tumbling Dice”、さらにはカセットにエアチェックした「メインストリートのならず者」を聴きながら「ストーンズ、いいじゃんねぇ…」といい気になりかけていた僕にとって、”Satisfaction”は60年代の代表曲、すなわち過去のヒット曲だったのだ。今のように、すべてがWEBにあり(もちろん「すべて」ではないが便宜上)、現在も過去もない状況とは違い、自分の気持ちも含め、「あるのはリアルタイムのみ」という感じだったのだろう。

その頃の僕はブライアンがいた頃のストーンズに「なんかGSぽい」というイメージ付けをしていたのだが、それもそのはずで、60年代のストーンズはGSバンドが演奏するカバーから知ったような気もする。まぁ、どっちにしろ洋楽に目覚める小学校から中学1、2年のことだからいい加減なものであるのだが…。

つまり、ストーンズを本格的に聴きはじめて間もない頃、近所のレコード屋のサービス券がたまったのか、なにか当たったのか忘れてしまったが、キングから出ていたLP5枚組ボックスセット(第2版のほう)を手に入れて、初期のストーンズにハマるまでブライアン期のストーンズは僕には遠い存在だったのだ。

とは言え、”Satisfaction”がストーンズの大ヒット作であることは知ってたし、妙に色の濃いナンバーだということは、僕の記憶のジュークボックスにしっかりと常備されていた。冒頭で書いた「押せ押せ」感も、今ではオーティスのカバーからの意識づけであるようにも思えるが、オーティス・バージョンはLiveも含め、リズムのアタックは強いが、ストーンズのタンタンタンタンとずっとスネアを打ち鳴らすものとは違っていて、どうしてそう言うイメージを持つに至ったか、訳がわからなくなるが、リフそのものはマーサ&ヴァンデラスの”Nowhere To Run”から拝借しているように思える。

無意識のうちに観ていたNHKヤングミュージックショーの第2回がハイドパーク69であり、そこでもこのナンバーは演奏されるのだが、髪が伸びて、ファッションもヒッピー風になったストーンズはそこで65年のヒット曲とは違ったノリで演奏していた。そのことはTVでリアルタイムに観ていた時に気付いたというよりも、あとでわかったことではあった。

一方、「過去のヒット曲」とだったナンバーが一気に現代に甦ったのが81年の”Still Life”だった。この”Still Life”での”Satisfaction”は吹っ切れた素早さ、とでもいうかとにかく速い。速いテンポで弾かれるイントロのリフとギター・アレンジ、チャーリーのスットコ、スットントンのドラムもチープな印象を与えた。このツアーではオープニングが「アンダー・マイ・サム」であり、60年代の初のLiveアルバム"got LIVE, if you want it!"を彷彿とさせた所為でもある。

この先祖帰りしたようなアレンジはその後のストーンズのLiveでこの曲が演奏される時の基本的なスタイルになるのだが、ここで、時代とともに変化しながら演奏されてきた歴史を振り返ってみよう。

まず、この曲がシングルとして発表された1965年から66年はレコードに忠実な「押せ押せ」リズム。それが67年になるとちょっと8ビートが入ってきて、69年のハイドパークではタイトなシングル・ヴァージョン・アレンジからもっとスケールが大きいラフで自由な感じになって行く。そしてそのあとのUSツアーを経て、暮れの英国ツアーではチャーリーが律儀にかつ急がし目に8ビートを刻むのが印象的だ。

それが71年春のラウンドハウスやマーキー・クラブではゆったりとした大人っぽいアレンジに変わる。チャーリーのドラムはゴーストノートで揺れ、頭打ちの直線的な「押せ押せ」リズムではない。トレードマークだったあのリフも、マーキークラブではキースが別のポジションにおいて崩したフレーズで弾いているが、ラウンドハウスでは片鱗を残すのみで、目立たない。この時期にのみ特徴的な独特のアレンジだ。

このアレンジが続かなかった理由は、ストーンズそのもののサウンドの変化によるものだが、72年のUSツアーではスティーヴィー・ワンダーを招いて、この曲に影響を受けた彼の”Uptight”とのメドレーでやって、ルーツを明らかにさせつつ、テンポやアレンジはまたタイトな方向に戻って行く。そのあと75年のUSツアーではレパートリーからはずされるが、76年のネブワースで復活。このネブワースはほかにも「ルート66」や「夜をぶっとばせ」といった60年代のナンバーが再演されているが、何年ぶりかに演奏された”Satisfaction”はテンポが上がっていると同時に16ビートなGROOVEも感じられ、そのあたりは前年のパーカッション過剰なUSツアーの残り香という趣である。

そして、1978年。パンクロックに影響されたかのようにストーンズのサウンドが性急なものになって行く。同時にドラムは4-On-The-Floorとなり独特のバネの効いたビートになる。そのビートで演奏される”Satisfaction”はチャーリーのせわしない連打とスットコトントン、トトトなオカズと相俟って、「ネイバーズ」なみのスピード感ですっ飛ばす。そして上述の80年USツアー、81年欧州ツアーでどんどん速さが増した。

これが89年、90年になってくると「オリジナル・バージョンへの回帰指向」となるため、60年代のレパートリーをやるにしても、76年頃とは違って、速さの中にも落ち着きが出てきて、94年以降はどんどんレコードに近づいてくる。98年のブリッジ・トゥ・バビロン・ツアーではかなりレコードに戻したアレンジとなり、オープニングを飾るが、以降、その系統のアレンジが定着していく。

ストーンズのレパートリーの中でもこれだけの長きにわたり、またアレンジを変えて演奏されているナンバーはほかにない。あのリフは、シンプル過ぎるくらいシンプルで、手数を加えようと思えばバリエーションは可能だ。しかし、馬鹿みたいにシンプルなその執拗な繰り返しこそ、エッセンスなのだと思う。勿論、今進行中の”No Filter Tour 2021”でも、クロージング・ナンバーとして執拗な繰り返しのもと、演奏されている。

ごとう


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