文章組手「2019」2019文字

 失ってばかりの2019年だ。去年の10月、学生時代の知人とハンドメイドのお店をやることになり会社員を辞めて埼玉に引っ越した。しかし半年後にかなりドロドロとした感じになり私は離脱する。
 その瞬間、無職の37歳中年男性が爆誕したぞ!爆誕してしまったのだから仕方がない。前職の失業保険をまだ受給できたので、それを食いつぶしながら人生初の小説賞の公募に長編小説を投稿。10月、一次通過すらできずに落選。

 新宿まで電車で45分ほどの場所に引っ越したものだから以前は暇な時に飲みに誘ってくれた友人も気を遣って私を誘わなくなった。誘ってくれても金が全くない状態+終電などで行けず、交友関係もほとんど無くなった。
 何が令和だファックオール。人生はボロボロ、夢も希望も交友関係も砕け散った生きる生ゴミ飯食うトラッシュ。人生何もかもがダメダメオールスターズフューチャリング就職も難しい年齢。

 2019年の春あたり、お店が若干厳しくなってきた時だ。プロのミュージシャンとして活動幼馴染から入電。彼は今、普通に働いている。たまに飲みに行くとバンドの話などで盛り上がった。いつかバンドをやろうと言って放置していたが、幼馴染が酔った勢いで
「一緒にバンドやらへんか?君のバンドに俺が入るのも全然良い」
 などと吐かしやがる。ヘドロ気分を打ち壊すにはロックンロールだ。こちらも勢いでドラムが抜けてから活動を止めていたバンドを再開した。新ドラムは10年ほど付き合いがある友人をスカウトした。
 いろんなストレスを発散するために練習を行い、鬱屈した気分を殺すために行ったライブにはTwitter仲間もたくさん来てくれた。私は捨てられた訳ではなかった。それを実感できただけでも十分だ。私は根が表現者の所為で「人に見られない・注目されない=存在しない」の公式を心に刻んで生きてきた。刻んだ切り口に新しい細胞が生まれ、深夜に気になる水滴のように垂れていた血液が止まった気がした。

 そして割と大きな出会いがあまなつさんの主催する「匿名の部屋」のお手伝いをはじめたことだ。このイベントは精神障がいを持つ方やその周りの人が普段は言えないことなどを思いのままに話したりする。そこでお手伝いを続けていると「今日は本当に来てよかった」などの言葉を貰える。とある企業の言葉ではないが「ありがとう」を貰うのがこんなに気持ち良いとは思わなかった。やはり人に喜んでもらえることをやるのは良い。普段は人を積極的に支えないのでメサイアコンプレックスではないとは思うが、この心の充実感は何にも代えがたい。お店が復活したらまたやってほしい。

 お店からの離脱、小説の落選、疎遠になる人々、それらの辛さから私を救い出したのは間違いなく「人との関わり」だった。主にTwitterでの行動だが、いつの間にか仲の良かった人に嫌われたり、誰かが嫌いな人と仲良くすることで敵認定などもされたりでSNSの交友関係は溶けた鉛のように姿形を変えて流転し続ける。だが、そこには常に新しい薪が焚べられ、新しい炎を立ち上がらせる。

 失うのはここまでだ。2019年を残り二ヶ月残した状態で再度もう一度立ち上がる準備ができた。新作小説を書き、イベントを行い、呼ばれないなら自分が人を呼び会う。38歳になりはしたがやれることは多くある。諦めるのはガソリンが無くなった際の言い訳にすぎない。

 そのあたりから妙にカレーにハマりはじめた。スパイスを使用するタイプのカレーで、ハマった理由はルーを使うよりも手間がかからず、味を自由に変えられるからだ。作っている時、自分の中で「これや!」という形ができ、ウキウキしながら毎日を過ごしていた。
 なんとなく「カレーで商売できれば楽しいな。だが店を持つなんてできねえだろうな」と思いながら、12年ほど通っている串カツ屋にフラりと飲みに行った。この店は以前ランチでカレーを出していた。カレー作りの話をしながら、ランチではカレーはどのくらい売れていたのかなどを聞いていると

「それやったらウチで出したらええがな。俺はもうランチやる体力ないんや。来週からでもできるで」

 チャラーン!この瞬間、カレーのランチ営業をやることが確定した。そこからはひたすらカレーの実験に時間を注ぎ込んだ。試食を作り串カツ屋に持っていき常連に食べてもらい、ランチを利用するサラリーマンに合う形にカスタムする、調理器具の一部は名店「curry punje」のマスターからいただけたりもした。この時分かったのだ。人が離れていくと感じていたが、実は俺が離れていただけなのだ。自分が燃え上がり、もう一度立ち上がり、行動さえすれば頼りになる多くの方に協力してもらえる。2019、失ってばかりの一年。実は違った。2020年にすべてを取り戻すため、準備の一年だったのだ。

 来年は今以上に訳のわからない行動を繰り返すつもりだ。何卒よろしくお願いいたします。

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