文章組手「2020」2020字

 これを書いているのは1/15水曜日早朝。夜勤を終えて帰宅した状態。疲れてはいるが一睡もできていない。

 私は1/17金曜、この文章組手がアップされる日に新しいことをやる。カレー屋だ。景気が冷え込み外食産業が大打撃を受けている令和2年にカレー屋を開業。それも12年通った店での間借り営業だ。
 ランチだけで稼ぎを出さなければならない。飲食の仕事はしたことあるが、自分で仕入れ・仕込み・提供・計算などをやるのははじめてだ。全て一人でやっていかねばならない。全ての行動に責任が生じ、何が起こっても誰も助けられないし、泣き言を言える相手も存在しない。
 カレー屋が上手くいく以前に、カレー屋をうまく回すことができるのかどうかもわからない。お店のオーナーは手伝ってくれるというが、それに頼ってばかりでもだめだ。事前に「完全にダメな状況になるまで手を出すな」と伝えている。

 私は一昨年に手芸のワークショップやイベントを運営するお店で働いていた。声優時代の同期、そしてもう一人の賛同者。そこで周りと意見が合わなくなり飛び出した。人生を賭けるかと思いながら半年で飛び出した。
 理由はたった一つ「他人の力を当てにした」に尽きる。自分ができない部分を他人で埋めていくことでスキの無い運営をやろうと思っていた。しかしそれが完璧な間違いだった。自分ができないことを他人に依頼するとどうなるのか?コントロールが効かない。経営になれている人なら上手くやるだろうがこちらは素人。いがみ合うことも増えてかなり最悪な空気になっていた。
 だからこそ、カレー屋は誰の手も借りず、自分の力だけでやってみたいと思っている。2020年1/17金曜開店。新しい年に新しい船出。開店二日前から眠れなくなっている。しかし意識はどこまでも鋭敏で、当日のイメージトレーニングを繰り返している。もしオープンと同時に席が埋まったら?もし誰も来なかったら?もし電車が遅延して店に入るのが遅れたら?もし仕込みを失敗してしまったら?もし仕入れなければいけない物を仕入れられなかったら?
 私は9年ほど前までこの数多の「もし」を粉砕し続けていた。私は声優・俳優として活動を続けていた。芝居は「もし」に対して理由を付け、説得力を以って虚構を対象に向けて放つ行為だ。だからこそ無限の「もし」と対峙する。もちろん頭の中でシュミュレーションをしても、現実はどこまでも非情。まったく予測できないミスやトラブルが頻発する。だからこそ多くの悪いことを考える。

 表現者は全員どこかでペシミスティックである。なぜなら失敗は即死だから。一度の失敗で積み上げてきた全てが否定され、表現の世界から蹴り出される理由になる。だからこそ全ての悪いことを想定し、何が起こってもリカバリーできるように備える。
 私の場合、常に頭の中に4つのラインで数秒後の行動を想定してきた。例えば「最悪・最高・普通・即死」といった具合に対極対角の状況を想定して進める。そうすれば何が起こっても先に想定している感情の振れ幅の中で対処できる。うまくいかなくても良い。慌てなければどんなことも凌げる。そして本当にダメな時は被害を最小限にして諦めることができる。

 そんな生活からドロップアウトして9年、眠れないながらもランランと光る眼を鏡に映し、中途半端に伸びたヒゲをピンセットで引き抜いている。
 残念ながら私は表現者だった頃の自分に生涯勝つことができない。どんな時も、どれだけ今の自分で戦いたくても、表現者だった時の記憶や経験が私を助けにくる。それが悔しくてたまらない。年齢と経験を重ねているのに過去の自分の方がどこまでも優れている。体力・精神力・毛髪量・勢い。今、勝っているのは体重だけだ。

 そんな自分に戦いを挑むのが2020年の目標になると考えている。本当の意味で過去の自分と向き合い、戦いたい。今も小説を書き続けているし、ある意味では表現者だ。その表現を「過去の表現活動から得た物を昇華する」でなく「今の経験を活かしてブーストする」に変えていきたい。
 貯金はいつしか使い切り、借金となってクビを締めはじめる。今現在、親指が喉を強く押し付けているのを感じる。ここでクビを締める過去の自分の横っ面をはたかないと一生過去に隷属的な人間になってしまう。
 そのために必要なのが「自分の足で立つこと」なのだと思う。もちろん提供スピードを上げるためなどで手伝いを雇うかもしれない。だが、肝心な部分。何かを決めるなどの部分は自分で責任を持ってやり抜きたい。カレー屋が成功しようが失敗しようが、その思いを墓に収めるのは自らの手でありたい。

 このnoteをどんな気持ちでアップしているかが楽しみだ。オープンまで後2日。2020年、最初の戦いをどうか見守っていただきたい。

 多分、勝てる。虚勢は私の最初で最後の武器だ。全く使えない武器ではあるが、頼りない光はいつまでも眺めていられる。


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