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#54 救命艇(1944)

第二次世界大戦のさなか、一隻の客船がドイツ軍のUボートに撃沈された。生き残った8人は小さな救命ボートでの生存を余儀なくされる。そこへ生き残りがもう一人乗り込んでくる。それは彼らを沈めたドイツ軍のUボート乗組員だった。

ほぼ狭いボートの中だけでカメラを回して終始する作品で「ロープ」と並んで全編通して映画的テクニックに挑戦した意欲作。
何となくヒッチコックは円熟期の50年代、絶頂期の60年代よりハリウッド試行期の40年代の作品の方が好きなのが多いかも。

捕虜のドイツ兵が優秀で生存するには実質船長にしなければいけない葛藤が面白い。
開かれた密室劇の中、当時の戦争の縮図を描きたかったそうで、極限状態での人物の二面性、リンチ行為におけるアメリカ人のあり方、苛立ち、唯一非暴力を通した黒人などモラル的な実験も。殺人シーンで全員背を向けて顔を見せないのが印象的な演出だった。

ナチスの描き方が問題だと上映期間が減少し、当時興行成績は振るわなかったそうだ。しかし戦時中に作られたプロパガンダ映画で片付けるのは勿体ない気がする。

救命艇のDVDの特典映像も最近観て響いた。書籍で似たような事を目するより本人の喋ってる映像を観る方がすんなり入ってくる。以下「ヒッチコックのすべて」からの散文メモ。

芸術とは感動だ。
つまり、私は映画を作り続けることで観客の心をなんらかの形で揺り動かす事ができる。
それが映画の主たる役割だと思う。

芸術とは経験
画家を例えにすると、画家は景色や果物などを題材として作品を描く。
しかし我々はリンゴ自体に強い興味を持っているわけではない。絵を鑑賞する人も画家の技量を見ることで感動を覚える。結局のところ芸術とは経験だ。
抽象画を観て、この絵が好き、嫌いと思う言葉こそ、その人の経験の証だ。同じ事が映画にも言える。

重要なのはストーリーではなくそれをどう表現するか。

ものづくりについて考えさせられた。

ちょっとズレるが、身の回りにある好きな本やら好きな服は紙や布自体に対価を払ってるのではなく、その著者の知識や製作者のデザインやアイデア、労力に感動して対価を払ってるんだと、当たり前の事をふと思い返した。

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