見出し画像

西洋古典叢書誤植発見記

西洋古典叢書は大変ためになるシリーズだが、自分が読んでいる限りでは誤植の類も多くみられるので、自分が気づいた範囲でここに記録を残す。誤植以外にも、私が気になった点を含むが、私の認識の方が誤っている場合はご指摘いただきたい。

『ソクラテス言行録1』

2011年3月15日 初版第一刷

p. 10, l. 12
自然本性的な事柄にかかずらわっている人たちについて

「かかずらわる」を載せている辞書もある(『大辞林』など)が一般的ではないような。(誤植とは言えない)

p. 11, 注(3)
執行部の当番委員たち πρυτάνιες はその日ごとに議長 ἐπιστάτης を籤で決め、

 一般的には πρυτάνεις?
ただし、πρυτάνιες の形もヘーロドトスやアリストパネースに用例があるらしい

p. 65, l. 13
こうした事柄のすべてに自制心を備えた者たちを支配に任に付くべき者の側に配するのであれば、
p. 66, l. 14
彼らに支配に任に就いてもらうでしょう

「支配の任につく」の方が自然に感じるが、「任につく」という動詞句がニ格をとる用法もある?

p. 96, l. 5
そんな人にも、ゼスウにかけて、断じて近寄ってはなりません

p. 191, l. 6
いいかね、その他のいかなる闘争においても、またいかなることを行なうにあたっても、身体よりすぐれたものに鍛えておいてかえって不利になるようなことは、けっしてないだろう。

「身体よりすぐれたものに鍛えておいて」

p. 215, l. 9
「むろんそうす」。

p. 231, l. 1
すっかり手なけられて

現代仮名遣いなら「手なける」か。「なづける」としてしまう気持ちもわかるが。

p. 246, l. 8
およそありないだろうからね

『ソクラテス言行録2』

2022年7月30日 初版第一

「家政管理論」

p. 11, 注(1)
独裁僭主(τύραννος テュランノス)は前七世紀から六世紀に古来の貴族政体がポリスにおいて特定の有力者が支配の座について政情の安定を図ったのが起源で、ギリシア各地に登場した。

文がねじれているか。あるいは「古来の貴族政体が [ポリスにおいて特定の有力者が支配の座について] 政情の安定を図った」という文構造ととらえれば読めなくもない?
なお、『ソクラテス言行録1』p. 29 の注(1) に「独裁僭主 τύραννος は、前七世紀から六世紀に古来の貴族政体が崩壊したポリスにおいて特定の有力者に「王」の権限をゆだねて政情安定を図ったのが起源であり、新たな政治体制に至るまでの過渡期的存在として、ギリシア各地に登場した。」という似た文があり、これを書き直したものとも思われるが、そのままでもよかった気がする。

p. 21, l. 7
それもまた家政管理の大事なことをあなたは仰有っているのだと思われます

これも誤植とは言えないが、他の場所では「おっしゃっている」とひらがなで書かれており、この用字はこの箇所のみ。

p. 21, 注(1)
この対話の場にクリトブウロスの友人何人かが、もっぱら聞き手として同席していることが分かる。

p. 25, 注(3)
彼女の邸宅は当時のアテナイの文化・術サロンとなっていた。

「藝」がなぜかここだけ旧字体。

p. 51, l.10
自分のなすべき仕事を怠ったたり女性の仕事に手出しした廉で

p. 51, 注(2)
本章におけるイスマコスの見解には、

イスマコス。同注内でも二回目は正しく「イスコマコス」になっている。

p. 61, 注(2)
神(主としてディオニュシオス)の祭壇のまわりで

神の名は「ディオニューソス」で「ディオニューシオス」はそれにあやかった人名では? それとも神の名としても使われるのだろうか。

p. 63, l. 10
冬は暖かかになっています。

p. 67, 注(1)
ただしただしアテナイについては

p. 68, l. 2
そこでわたしは(とわたし[ソクラテス]は言った)、イスコマコスの妻が彼にそう返答したと聞いて、こう言った、「ヘラ女神にかけて(とわたしは言った)、イスコマコスさん、[…]」

「家政管理論」全体はクセノポーンが聞いていたソークラテースとクリトブーロスの会話を報告するという形をとっているが、この箇所はその会話の後半で、ソークラテースが、過去にイスコマコスと交わした会話をクリトブーロスに伝えているという状況である。ここで地の文となっている「そこでわたしは […] 、イスコマコスの妻が彼にそう返答したと聞いて、こう言った」の部分はソークラテースのクリトブーロスに対するセリフなので、(括弧書きで)挿入されている部分は単に「(とソクラテスは言った)」でよいのでは?
Perseus Digital Library で確認できるテキストでは、原文は次のとおり:
καὶ ἐγὼ ἀκούσας, ἔφη ὁ Σωκράτης, ἀποκρίνασθαι τὴν γυναῖκα αὐτῷ ταῦτα, εἶπον:

なお、p. 71, l. 2 にも「とわたし[ソクラテス]は言った」が出てくるが、ここの原文は次のとおり:
τί οὖν πρὸς θεῶν, ἔφην ἐγώ, πρὸς ταῦτα ἀπεκρίνατο;

p. 85, l. 11
人を配慮をめぐらすことのできる者にさせうるどうか、ということ

「人を~できる者にうる」の方が自然に感じるが、「笑顔にさせる」同様の用法だろうか。

p. 90, ll. 13-14
しかしながら、あるところはドラコンの立(1)を、あるところはソロンの立(2)を援用しなが(1)(と彼は言った)

注番号(1) が二つついているが、後者は不要。

p. 93, l. 3, l. 10 注(1) が二つある

こちらは、後者の (1) が (2) であるべきところ。

p. 108, ll. 4-5
「脱穀場の半分の広がりまで穀物を選り分けたな[改行]
らば、穀物はまき散らかされたままで、

謎の改行。

p. 108, l. 13
わたしは知らず知らずうちに金の溶融法や笛の吹き方や絵の描き方をも会得しているのだろうか。

p. 111, l. 10
「はい、分かっています」とわたしは言った

閉じ括弧がひとつ余計。

p. 113, l. 4
「ソクラテスさん、あなたの理解はすべてにまさにわたしと同じです」。

「すべてにおいて」等とすべきところか。

p. 113, l. 11
オリーブ用の穴はより深い目に掘られているのを、

「形容詞+め」では連体形を用いることもあるようだが、「深め」の方が自然に感じる。

「酒宴」

p. 133, 注(1)
プラトン『プロタゴラス』はこの三人がそろってアテナイ市内のカリアス邸に滞在しているという設定がされている。

直前にプロータゴラース、ゴルギアース、プロディコスの名が挙げられているが、プラトーン『プロータゴラース』にゴルギアースは登場せず、(ソフィストとしては)他にヒッピアースが登場する。

p. 145, 注(1)
市場監督官(アゴラーノモイ)は市場で商品が適正な価格で誤魔化しなく売買されているかどうかを監督している役人[改行]抽選で数名が任命されていた。

「役人」のあとに句点、ないし「で、」のようなものが欲しい。

p. 165, l. 2
人びとが富を有したり貧困を抱えたりいるのは家においてではなく

「ソクラテスの弁明」

p. 217, 注(1)
できるだけ多くのものを手に入れてそれをたそうとするが

p. 220, l. 15
あなたが不当に死罪に処せられるのをこの目で見るは、いかにも辛く耐えがたいことです

「この目で見るは」も言えないことはないがやや古めかしく感じる。

解説

p. 228, l. 10
平明率直な模範的文章の力によるところ大であるともに、

「あるとともに」

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?