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フランス対ドイツ 2024/03/23

7年振りに核を欠いたフランス, 3年振りに核が帰還したドイツ

フランスはグリーズマンが怪我で84試合振りに代表戦を欠場、対するドイツはクロースが代表復帰戦となるこの偶然とは思えないカード。もちろん、両チーム共に大きな変化が生まれるのには間違いないが、互いにとってEURO前の最終調整となる親善試合でチームの頭脳となる中心選手の有無がどう影響を及ぼすのか、楽しみな一戦だ。フランスは如何にしてグリーズマンの莫大な量の役割を分担するか、もしくは根本のシステム自体を大きく変更するのか。対するドイツは、マドリーではお決まりのクロースに合わせたバランスにチーム全体が適応し連動できるのか、に注目したい

スターティングメンバー

フランス
特にシステム変更は無し。グリーズマンの代わりに2列目にザイール・エメリ、CFはジルーではなく今季クラブで絶好調のテュラム、GKはメニャンではなくサンバが入る形でいつも通り挑む。中盤のつなぎ役は誰が担うのか、プレスの形はどうするのか、気になるところだ。

ドイツ
RBにキミッヒ、両SHにヴィルツ、ムシアラ、ハヴァーツのCF起用など、ここに来て大幅なシステム変更。LBにはシュツットガルト所属のミッテルシュテット(初見)、またレヴァークーゼンから3人のスタメン起用など、個人のコンディションを汲んだ選出と言っていいだろう。


フランス保持

フランスはオーソドックスな4-3-3でボールを保持。状況に応じてチュアメニがダウン3しつつ中央での組み立てを試みるが、中央には中々風穴を開けられず。中を通しても2CMのラビオ、ザイール・エメリが違いを生み出す場面もほとんど見られなかった。また、前線3人はほぼビルドアップには関与せず受け手としての役割に徹したが、中央でターゲットとして構えるテュラムにボールが渡る回数がそもそも少なく(一度だけ、パヴァール→テュラムのインテル式のくさびが通った時は少し感動した)、結果として両WGの質でブチ抜くサッカーになった(それで毎度攻撃が完結しちゃうのが凄すぎるけどね)。後半61分に兄エルナンデスから弟エルナンデスに変わってからは、2→7可変したテオに合わせエンバペが降りてボールを受けに来るシーンが増えた。これは1つの解決策としていたが、相手ゴールを脅かすまでには至らなかった。

このような現象が起きた要因は、ドイツの堅実な守備にある。ドイツは前6人での極めて幾何学的な六角形ブロックを常に保ちながら綺麗にスライドを行なっていた。基本的にハヴァーツ、ギュンドアンの2人で2CBを監視し、SBに流れたタイミングで逆サイドを捨て両SHのプレス開始を合図に同サイド圧縮をかけた。このタクティクスでは両SHは「SBの選択肢を絞らせる」という重要なタスクを担っており、ヴィルツとムシアラには適任であった。WG無しで挑んだナーゲルスマンの意図はここにあったと筆者は思う。結局、フランスは窮屈な状況に追いやられる場面が多かったが、裏を返せば上手くプレスをかいくぐれた時に逆サイドで「待ってました!」と言わんばかりの攻撃が開始したのだ。これはリスクとして持たざるを得ない部分だが、バグ級のWGを要するフランス相手にこのリスクは見合っていたのだろうか。まぁ親善試合だし今の最善策を試したかったのかな?教えて、ナーゲルスマン!

ドイツ保持

この試合ではフランスは重心を低く構えたため、序盤以外でクロースロールは見られず。基本的に最終ラインを2CBのみで形成し、両SBのどちらかの援護で調整してビルドアップを開始した。特に前線のテュラム、エンバペは終始フワフワしており、簡単に1列目を突破されてしまった。しかもその先でボールを受けるのはトニ・クロースである。フランスはまんまとピッチのあらゆる方向へ揺さぶられ、ドイツに恒常的に余裕を持たせてしまった。更に、前線からはライン間の申し子が4人もボールを受けに来たため、ここにピボーテからくさびが入るシーンが目立った。とは言ってもフランスも後ろはコンパクトに構えていた&フィジカルモンスターが多かった分、好き勝手やらせはしなかったけど。

この試合ではクロースを中盤の底に置いた事で監督御用達のRBキミッヒが降臨。圧倒的な経験値で再三右サイドからの崩しに貢献した。また、クロースの脇で用心棒役を荷っていたアンドリッヒも、クロースの守備タスク軽減だけでなく前進の機動力にもなっており、素晴らしい出来だった。ムシアラは慣れない(?)右サイドでの出場となり、得意のドリブルはあまり見られなかったものの、ポケット侵入やプレスの捌け口になるなどキッチリタスクをこなした。ハヴァーツも最近の好調ぶりが伺えるパフォーマンス。もちろんビルドにも参加するし、今回は記憶では1度しか見られなかったがアーセナル式のプレス緊急脱出先としても機能する。このオプションは本大会で重宝するに違いない。そしてなんと言ってもヴィルツ。毎度彼ばかりベタ褒めしている気がするが、彼がそれに値するプレーをしているのだ。主に左サイドでゲームメイクに関与するだけでなく、攻撃時はWGさながらの仕掛けからセンスの塊みたいなパスを出す場面も見られた(2点目の起点)。早よマドリー来てくれ、トニルカの後継者は君だ!

90分を終えて

両者の明確な違い
結果は0-2でドイツが勝利。1点目はクロースとヴィルツの異常なクオリティでもぎ取った開始7秒弾。これはフランスとしても仕方がないが、残りの89分だけを見ても、このスコアで終わったことに違和感はない。グリーズマンのいないフランスはピッチ中央でリズムを生めず、対照的にドイツはクロースを基準点として各プレーヤーが適度な位置関係で同じ方向に向かってプレーをし続けた。まるで宇宙をただ彷徨う星々の集団と、一つの系を公転する惑星の集団のようで、まさしく両チームの核の有無が明確な違いであり、ゲームの明暗を分けたと言える。チームの核の存在がどれほど大事であるか、思い知らされる一戦だった。

EURO本戦に向けて
ドイツにとっては大きな収穫のある親善試合となった。この如何にもゲルマン的な規律性の高い守備戦術を1つのオプションとして持っておきつつ、ニャブリ、ザネらの状態次第ではWGを使ったサッカーも可能だ。また、スカッドにはあのミュラー先輩も控えている(ちなみに今日のギュンドアンの役割はミュラーの方が適任だった気がする、、)。こういう引き出しの潤沢さは、短期決戦のEURO本戦ではありがたいだろう。
だが、フランスも悲観的になる必要はない。正直ドイツの思惑通りのプレーをさせられたかもしれないが、仮に今日のようにサイド攻撃に限定されたとしてもこのチームの火力は世界トップクラスだ。並大抵の相手では彼らの攻撃を防ぎ切ることは難しいだろう。また、グリーズマン(ジルーも)が代表引退してしまう前に修正点が見つかった事も大きい。デシャンも失って初めて気づいたことがあったはずだ。

自国開催のEUROを目前に、あらゆる国にボコられてしまい完全に評価が落ちたドイツ代表だが、ここで1つ成功例を作れたことは大きな財産だ(かといって本大会で油断はもちろん全く出来ないけど)。若手とベテランが融合したドイツ代表が下馬評を覆し、躍動する姿を見たいと筆者は思う。もちろん、フランス代表も全力で応援している。特に今回はグリーズマン、ジルーにとって最後のEUROとなる可能性が高いため、若い世代にレガシーを残せるような大会にしてくれることを期待したい。

総括

筆者にとって、この試合はただの親善試合以上の意味合いを持っていた。ドイツ代表もフランス代表も好きな自分にとって、グリーズマンがいないフランス&クロースがいるドイツの試合を見る貴重な機会だったからだ。"グリーズマンがいなくなったらフランスは崩壊する"と長年言い続けてきた筆者だが、やはり今日の試合を見て次世代には新たなシステムが必要だとより強く感じた。対してドイツは、1サイドに猛プレスをかける様子を見て、10年前の強かった頃のドイツがチラッと垣間見えたような気がして嬉しかった。以前の記事でも書いたが、やはりドイツにはいわゆる現代フットボールというよりは今日のように自己犠牲的精神と規律を持って泥臭くプレーするスタイルに適性があると思う。ちなみに、ドイツの育成年代では、「ドイツでドリブルが許されているのはロイスとエジルだけ」と教わると、現地でプレーした友人が言っていた。これが全てを物語っているのではないだうか。

おまけ

この試合の1時間前にキックオフしたイングランド対ブラジルも前半だけ見たが、ブラジルのヴィニ、ロドリゴ、パケタ、ギマランイスあたりが覚醒していた。両SBで完全にはめられてしまう最終ラインからの組み立ては不安しかないが、華がないと揶揄されるNEOブラジルもやはりとんでもなく強そうだ。対してイングランドはあれだけのスターを持ってして、各々の個人技に頼るばかりで微妙な出来だったと言えるだろう。ここの配置を工夫すれば、、と思ってしまうが、実際そこまで込み入った戦術を短期間で組み込むのにはそれなりのリスクが生じるのも当然理解できる。そんな状況下で個人の能力やチームのモチベーション、団結力などに依存しながら勝利への近道を模索するのが代表戦の難しさであり、醍醐味だと筆者は思っている。EUROまであと3ヶ月。

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