司法書士試験における答案構成は必要か不要かという議論の愚

背 景

受験生の間では、この答案構成用紙が必要か、それとも不要かという議論がしばしばなされます。

というのも、平成22年辺り?から、記述式の問題の分量が増大し始め、平成28年度に最大化。平成26~29年辺りは、かなりの情報量を適切にかつ迅速に処理しないと問題が解き終わらない。そんな状況になったと。

そこで、記述式の得点に「直接関係のない」答案構成用紙への記載を省略することで、問題を検討する時間を増やし、また答案に記載する余裕も出そうという流れが出てきました。

これが、いわゆる「答案構成不要論」です。

ここで、一大論争が巻き起こるわけです。

答案構成必要論者からは、「いや、しっかりと答案構成をしないで、答案が書けるか。間違えて判断したらどうするんだよ。」という主張がされます。

一方、答案構成不要論者からは、上記のように、「いくら答案構成がしっかりしていても、答案に反映できなければ0点じゃないか。だから、答案に解答を書く時間をもっと増やすべきなんだ。」という主張がされることになる。

もっと極端になると、「答案構成力という方法論は、もう過去の遺物だ。これからは、答案構成をしない新たな方法論が必要なんだ。」という、主張まで。

自分の考える答案構成力とは


結論から申し上げると、このような主張・議論は、不毛です。というか、いずれの主張も、結局は同じこと違う目線から説明しているだけです。

そもそも、「答案構成力」というのは、記述式の問題を解く際に、「何を、どの順序で検討し、その際に何を想起していくべきか。また、気を付けるべきことは何か。」といったような、思考過程そのものを具現化する作業です。(答案構成用紙を使う方法論のことが「答案構成力」であると誤解してしまっている例が散見されますが、これは明確な誤りです。「答案構成力」とは、思考過程を具現化する作業のこと全般を指します。)

「答案構成力」という方法論がなかった頃は、「択一式は記述式の延長線上にあるものだ。だから、択一式の知識が正確になれば、記述式の得点も取れるようになる。」という指導が普通だったと聞いています。雛型を暗記することが、記述式の勉強なんだという方もいたとか。(もちろん、いずれも記述式の勉強ではあると思いますが、本質的なものではありません。)

要は、問題が解ける人の思考過程「そのもの」の指導が抜け落ちていたのです。そして、この思考過程そのものを、「全く省略せずに」具現化したものが、山村先生の「答案構成力」です。ご本人から直接聞いたわけではありませんが、自分はそのように理解していますし、大きくは外れていないと思います。

答案構成力の本質


これで、やっと本質的な部分が見えてきます。

答案構成力は、思考過程そのものを具現化する作業のことですから、問題演習後の復習時に、当然ながら

「ここは、別に書かなくても、普通に思いつけるから大丈夫だな。」

「ここは、問題文をそのまま写している感じになっているから、事実〇を読むくらいのメモに留めておこう。」

「ここは、答案構成用紙じゃなくて、問題文に直接メモしておいた方がミスしないよね。」

「特に答案構成用紙には反映されていないけれども、いつもミスをすることだから、書いておこう。」

といったようなことを思うことがあるはずです。

ここはどんどんと、カスタマイズしていけばいい。自分の考え方に従っていけばいい。

要は、答案構成は、それを「作成すること」に意味があるのではなく、「思考過程を具現化する」ことに本質があるのですから、自分の思考過程に最もフィットした答案構成を養成していけばいいのです。(だから、伊藤塾の講座名称は、答案構成力「養成」答練です。「養成」するんです。)

これが極まるとどうなるか。なんとなく想像できますよね。

そうです。最終形態は、答案構成用紙に「何も書かなくても」、自分の「思考過程を」、頭の中だけで「論理的に組み立てることができる」ことができるようになる。

つまり、答案構成用紙は、不要ということになるのです。これが、答案構成用紙なんて不要だ!という方の論法です。(実際は、そんなことは無理なので、最低限のメモを問題用紙に直接記入するなどの措置をとっていることがほとんどですが。)

答案構成用紙を使うか使わないか。使うとして、時系列を書く必要があるのか。問題文に示されている登記記録を写す必要はあるのか。登場人物の関係性の整理メモを入れるのか。そもそも、答案構成用紙を使うのか。

この議論は、本質から完全に外れています。

上記の問題は、「思考過程そのもの」をどこまで具現化するのか。するとして、問題用紙そのものに具現化するのか。それとも、答案構成用紙に具現化するのか。その「程度問題」に過ぎないからです。

答案構成は不要!素早く解く技術はこれだ!

というような魅力的な方法論が示されることがありますが、学習があまり進んでいない方や、記述式の問題に苦手意識がある方は、本当に気を付けてください。

上記のことから分かるように、答案構成を初めから不要とする方法論は、あくまでも「加工食品」です。

いきなり、思考過程が省略されたり、(省略はされなくても)具現化してくれなかったり。加工食品にいきなり手を付けても、全く力は伸びません。

まずは、しっかりと原材料を見ること。そこから、自分で加工をすること。

これが重要なんだと思います。

繰り返しますが、「答案構成力」は、自分の頭の中の思考過程をどこまで具現化するか、どこまで省略するか、このせめぎあいを問題演習を通して身に付けていく訓練のことを指すのであり、答案構成用紙に時系列を書き写したりする作業のことを指しておりません。

自分の頭の中の思考過程を整理する最強の方法論なのです。


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