行政法の得点力をあげるためには

基本方針


行政法は、学習範囲が比較的狭く、過去問等も充実しているため、取り組みやすい科目です。

基本的な学習方針は、過去問をやり込む。まずはこれに尽きる。初期段階は、5肢択一式ベースではなく、一問一答形式が良いかと思います。
(講座等を受講されている場合、どの過去問を解けば良いのかという指示があると思うので、その場合には、指示通り解いていけば大丈夫。指示が特にないという場合は、一問一答集を購入して、それを使うと良いですね。

テキストを読んだり、講義を聞いたりして、簡単に概要を把握する。その後、いきなり過去問で知識を詰めていく。そんなイメージです。テキストや講義視聴は、とにかくザーーっと終わらせて、すぐに問題を解くように進めていくのがポイントです。

実は、単に過去問をグルグルしているだけでも(言い方を悪くすると、何の工夫をしなくても)、行政書士試験であれば10問程度までは得点できてしまいます。

さて、ここからです。

テキストを読んで過去問をグルグル回しても、なぜか12問の壁を超えられない。やり込みが足りないんだと、もっと回転数を増やしても、やはり結果は同じ。

これはなぜでしょう。

得点が伸び悩む要因


この要因は、次の3つにあると考えられます。

① 未出の知識が習得できていない
② 架空条文に騙される
③ 引っかけポイントを読み落としてしまう

未出の知識が習得できていない

仮に、過去問を300問こなしたとしても、未出の知識(条文・判例)は山ほどあります。これは、過去問をある程度やり込んだ後に、テキストや条文を読み返してみると分かると思います。(行政手続法・行政不服審査法辺りは、条文そのものを読み込むという勉強がどうしても必要になるのですが、この点は、また違う機会に言及します。)

とはいえ、これは、単に過去問の周辺知識を補填すればよい、つまり、テキスト等を読み込んでいけばよいだけなので、そこまで難しいことではありません。普通にやればクリア出来てしまうことです。

問題はここから。

12問の壁を超えて、常に15問前後が取れるようにならないといけない。

この壁を超えるキーワードは、②と③です。

架空条文に騙される

これは、行政法によくある出題方法の1つです。たとえば、次のような問題が挙げられます。

不利益処分の名あて人となるべき者は、弁明の機会の付与の通知を受けた場合、口頭による意見陳述のために、弁明の機会の付与に代えて聴聞を実施することを求めることができる 。(H28-11-2)

→ × そのような規定はない。

処分の差止めの訴えの審理中に当該処分がなされた場合、差止めの訴えは、当該処分の取消しの訴えとみなされる 。(H27-18-ア)

→ × そのような規定はない。

「裁決の取消しの訴え」の対象とされている裁決は、「義務付けの訴え」や「差止めの訴え」の対象ともされている。(H29-18-1)

→ 〇 そのとおり。特に区別はない。

この問題の怖いところは、趣旨等から考えると(一般的な感覚に照らすと)、そのような手続でも悪くないよな。と思わされてしまう点です。

上記の例でいけば、国民側からすれば、弁明の機会より聴聞の方が慎重な手続だし、求めることもできそうだよな。弁明は書面のやり取りしかしてくれないし。と思って、○に。

次の問題も、差止めの訴えの間に処分がされたら、確かに、既に差止めの訴えになってないもんな。ということで、○に。

問題文に引っ張られると、こういう考えに陥りやすいのです。

このタイプの問題は、2つの出題手法があります。

① 手続の流れを捻じ曲げて、あるはずのない手続を創作する
② 適当な区分を設けて、あるはずのない場合分けをする

架空条文問題の攻略のポイントは、「見たことないな。」「聞いたことないな。」というファーストインプレッション。

重要なことは、当該手続の流れを「全て」把握しておくこと。

行政手続法や行政不服審査法、行政事件訴訟法は、複雑に見えて、一定の手続の流れがあります。この手続の流れを、何度も把握するように努めること。これがポイントです。

一定の手続はそれこそ普遍なのですから、普遍のものに常に照合をかければ、「そういう手続は存在するか」はすぐに見抜けるはずです。

したがって、学習の方向性は、細かい知識を追いかけるのではなくて、「聴聞手続はこういう制度になってます!」と何回も言えるように訓練すること。問題は、この手続を理解・暗記しているかを問うチェックテストのようなものですから、「自分の覚えている手続と照合させると、それは違うと思います!」と自信をもって宣言できるようになればいいわけです。

(ちなみに自分は、聴聞や弁明の機会の付与、審査請求の手続の流れを言えるように、ブツブツと何回も再現していました)

一定の手続そのものを覚えて、そこから外れていれば架空条文。そう思えばいいということです。

また、流れを把握する際には、場合分けに注力することも大事です。

適当な場合分けに対しては、「そんな区分はありません!」と言い切らないといけませんから、常日頃から、「どのように場合分けされているのか」ということを意識するのが重要なのです。

(このように考えると、行政法の得点力を上げるには、細かい条文・判例知識を入れることではなく、大きな流れをしっかりと把握する方向性で学習をすることが大事ということですね。「そんなこと聞いたことない…これも覚えないといけないのか…」という方向で学習を進めるのは間違った方向性であるということになります。

ひっかけポイントを読み落とす

例えば、次のような問題です。

申請拒否処分の取消訴訟の係属中に当該申請拒否処分が職権で取り消され、許認可がなされた場合には、当該取消訴訟は訴えの利益を失い、請求は棄却されることとなる。(H29-17-4)

→ × 訴えの利益を失うのなら、請求「棄却」ではなく、「却下」です。

これは、典型的な引っかけポイントです。過去問でも何回か出題されています。それでも、最大限の警戒をしていなければ、平気で間違えてしまいます。

これは、普段の模試・答練で、典型的だが気付きにくい引っかけをメモして溜めておくとよいです。

自分は、いつもこういうミスをする。自分は、いつもこのひっかけに気付かない。こういうことをメモしておく。

問題を解くときには、それを前提に最大限の警戒をしておく。

上記の問題でいけば、「あ、棄却ってきた。ここは、認容だ却下だという判決の種類を引っかけてくるから注意しなければ…」と思った上で、「あ、訴えの利益を失いとなっている。これは、引っかけ問題だ。」と気付くのが正解です。

気付けないのなら、事前に気付くように最大限の警戒をしておけばいい。単純ですが、そういうことです。

また、過去問を解くときに、次のような練習をしておくと、気付きにくいひっかけを洗い出すこともできます。

それは、ずばり、「問題文の置き替え」です。問題文の一部分を置き替えても、日本語として通るものについては、ひっかけ問題を作りやすい。そこで、日頃から、問題文の置き換えを行い、訓練してみると良いです。出題者の思惑がよーく分かるようになります。

例えば

仮の差止めは、処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、申立てにより、または職権で裁判所がこれを命ずる 。(H29-19-3)

→ × 要件が違います。また、職権で行うことはできません。

この問題文を置き替えていきます。

仮の差止めは、処分がされることにより償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、その損害を避けるために他に適当な方法がない時に限り、申立てにより、または職権で裁判所がこれを命ずる 。(H29-19-3改)

→ 損害の要件を正しく置き替えました。出題者はこの点を聞きたいということが、問題文を置き換えることによって分かると思います。

さらに、置き替えましょう。

仮の差止めは、処分がされることにより償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、申立てにより、または職権で裁判所がこれを命ずる 。(H29-19-3改)

→ 「かつ、~」以下を、正しい要件に置き換えました。その損害を避けるため他に適当な方法がないというのは…差止めの訴え本体の要件でしたよね。こういうのは、正しい条文を参考にして、問題文を置き替えてみると、すごく良いです。

さらに、いきます。

仮の差止めは、処分がされることにより償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、申立てにより、決定をもって、裁判所がこれを命ずることができる 。(H29-19-3改)

→ 「職権」という部分を、さらに正しく置き換えました。

これで、仮の差止めの要件のひっかけポイントが理解できたでしょうか。

過去問は、分析のツールです。これを最大限に活かすためには、上記のような置き替えをしてみると良いと思います。

逆に、正解肢をどのように置き換えると間違い肢に出来るか。しかも、多くの受験生が勘違いしそうに。と考えてみるのも有用です。

問題文に振り回されてしまうという方は、このように問題文の置き替えという訓練を取り入れてみてください。、今まで見えなかったひっかけが鮮明になってくるはずです。

今回は、行政法の得点力を上げるための具体的な方法論について書いてみました。過去問を最大限に活用できれば、行政法の得点力は、驚くほど上がります。

ぜひお試しください。

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