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【連載・地方議会政策サイクルリポート②】「まずはやってみよう」――進化・深化する“柴田町議会版”の政策サイクル――宮城県柴田町議会

 2019年9月会議から、政策サイクルの取組みをスタートさせた宮城県柴田町議会。年々改善を加え、ワールドカフェによる委員間討議(論点整理)、分科会による委員間討議を踏まえた特別委員会での提言案作成という、いわば“柴田町議会版”の政策サイクルに発展してきた。その根底には「まずはやってみよう」という意欲的な議会風土がある。

■検証・見直しを行い、2年分の行動計画

柴田町の議会議事堂。耐震補強等工事に伴い、リニューアルされ、2022年3月会議から使用している。執行部席と議員席が向かい合う配置で、傍聴席から双方の表情を見ることができる。
蔵書や資料が充実した議会図書室。

 柴田町は、宮城県南部に位置する仙南圏最大の人口(3万6863人=2023年9月末日現在)を擁するまちだ。
 町議会(議員定数18人)は2013年4月1日に議会基本条例を施行した。同条例第27条(見直し手続)では2「2年ごとに条例の目的が達成されているかを議会運営委員会において検証する」と規定。この規定に基づき、議会運営委員会(議運)では、2年ごとに検証、評価を実施。検証結果に基づき見直しを行い、2年分の行動計画を策定し、着実に改革を進めてきた。
 たとえば2017・2018年度の行動計画では「議会懇談会で得た町民意見を政策形成へ反映するための手法の検討」「議員間の自由討議の拡大」「議会図書室の環境整備」「町議会災害対策行動マニュアルの見直しと活用」など7項目を列挙。町民にも開かれた公開議員研修会や高校生との議会懇談会の開催などを実施してきた(2018年4月から通年議会も導入)。
 また、2016年に町内にある県立柴田高校の生徒たちとの意見交換を初めてワールドカフェ方式で実施。2018年には総合体育館建設に関わる調査においてもワールドカフェ方式による議員間討議を行った。

■決算審査から、議会政策サイクルの取組みがスタート

*ワールドカフェによる委員間討議(決算審査特別委員会委員全員)の様子。

 行動計画やワールドカフェによる議員間討議などに手応えを感じた町議会では2019年9月会議から、決算に関わる議員間討議を行い、附帯決議を可決、次年度予算に反映させるという議会政策サイクルの取組みを始めた。
 この時の流れは次の通り。
①決算審査特別委員会(所管課ごとに質疑・2日間)
②ワールドカフェ(議員間で意見の出し合い)
③3つの常任委員会ごとに分科会(前日の意見を基に掘り下げ)
④決算審査特別委員会(附帯決議案の取りまとめ)
⑤本会議(附帯決議案の採択)

 附帯決議では、▽財政の硬直化▽補助金のあり方▽人員の確保▽地域公共交通▽災害対策ー-など11項目について「平成30年度柴田町一般会計歳入歳出決算の認定に当たり、下記の意見を付すので、後年度の予算編成及び事務事業執行等について、十分留意し適切に措置を講ずるよう求める」とした。

■予算審査でも政策提言

*全会一致でまとめた提言書を滝口茂町長に手渡す髙橋たい子議長(右)。

 この手法は決算審査時に加え、予算審査時にも実施。毎回改善を加えており、2023年3月会議では、審議及び分科会、委員会討議を踏まえ、全会一致となった1項目(広報しばたとお知らせ版の統合)を町長に直接提言。また、二つの常任委員会が調査研究してきた項目について次のような提言書をまとめ、議会として町長に提出した。
【地域公共交通事業について(総務常任委員会)】
「タクシー乗車料金の助成制度を」
・助成できる範囲をみやぎ県南中核病院に限定すること
・福祉タクシーや介護タクシー事業者及び利用者家族を含めた整理・議論を
・一定の受益者負担を考慮すること
【通学路の安全対策について(文教厚生常任委員会)】
「通学路安全対策プログラムの策定と危険箇所対策管理シートを活用した継続的な安全対策を」
・危険箇所対策管理シートの作成
・通学路安全対策プログラムを策定し、関係機関との連携を下に安全対策の深化を図られたい

■附帯決議や提言内容は全会一致での採択が原則

柴田町議会の運営・政策サイクル(議会だより「こんにちは!しばた議会です」181号(令和5年8月1日)より
*町議会では毎年、町内にある柴田高校生との懇談会を開催している(2022年7月22日)。
*柴田高校生との今回の懇談会のテーマは「住み続けたいまちって…?」(2022年7月22日)。

 直近の2023年9月会議の進め方(令和4年度各種会計決算審査に係る日程)は次の通りとなっている(抜粋)。
(8月21日~22日)一般質問通告
(8月29日)決算審査のための数字等の事前確認依頼受付開始
(9月1日)同依頼締め切り(事務局で重複事項などを整理し、文書で執行部に照会)
(9月4日)9月会議開会(再開)一般質問
(9月5日~7日)一般質問、議案採決
(9月6日)決算審査のための数字等の事前確認について、執行部から文書で回答をもらう
(9月8日)決算認定議案上程、総括質疑。決算審査特別委員会設置、委員間討議(ワールドカフェ)
 委員間討議では、総括質疑、事前確認資料等を踏まえ、どのようなことを質疑(9月11日~13日)で明らかにすべきかを委員全員で話し合う。
 委員間討議(ワールドカフェ)の内容は、令和4年度決算について、①おおむね満足していること、十分な成果があったこと②議論(検証)の余地があること③問題があること、納得ができないことー-の3点(ワールドカフェによる委員間討議では、思い込みによる発言をしないよう、「事実に基づいて議論する」というグランドルールを徹底)
(9月11日~13日)決算審査特別委員会で質疑。最初に常任委員会からの質疑、次に個人からの質疑
(9月14日)決算審査特別委員会・委員間討議(ワールドカフェ)。委員間討議の内容は次の通り
(1)決算の分析、総括質疑、委員会質疑を踏まえ、令和4年度決算について全体的に感じることは
(2)各種会計の主要な施策の成果及び予算執行の実績を踏まえて、次の4つの視点に該当する施策、事業を整理する
①足りない視点、施策、事業②さらに進めたほうが良い施策、事業③やり方を見直したほうが良い施策、事業④やらなくても良い施策、事業
(9月14日)決算審査特別委員会・委員間討議(分科会)
 ここでは①ワールドカフェで出た意見の確認②意見の集約・整理②´提言する項目についてシール投票③提言文案作成のための議論--を行う
(9月19日)決算審査特別委員会・委員間討議(特別委員全員)
 議会として提言等の内容及び形式(附帯決議、提言書、委員長まとめに包含など)を確定、会計ごとに採択
(9月20日)本会議再開。委員長報告→討論→各種会計決算採決。本会議終了後、議員全員協議会(全協)を開催。全協では、振り返りシートを使って、9月会議全体の振り返りを行う
                *
 議会として附帯決議や提言内容は、あくまで全会一致で採択することが原則だ。委員全員が賛同できない内容は削除や修正を行うなどして整理するが、委員会の所管事務調査や一般質問の項目として拾い上げるので無駄になるわけではない。
 また、令和2年度決算審査の委員間討議では、「議長・議選監査委員は加わらず、傍聴する」としていたが、令和3年度決算審査の委員間討議からは、「議長は出席し、発言することができる。議選監査委員は傍聴することができる」に改めている(議選監査委員の参加のあり方は今後の検討課題)。
        *
 これまでの取組みについて前期から議長を務める髙橋たい子氏は「新しいことをやってみよう、まずやること」と説明。そして、失敗するつもりはないが、「始まったらやめないよ、と(議員全員に)話している」と笑顔で話す。
 政策サイクルの取組みを始めて4年目の柴田町議会。他議会のいいところを柔軟に取り入れながら改善を重ね、柴田町バージョンの政策サイクルは年々進化・深化している。

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議会の発言力を増すことを政策サイクルに求めたい
――髙橋たい子議長、平間奈緒美副議長、広沢真・議会運営委員会委員長に聞く

柴田町議会の政策サイクル等について髙橋たい子議長、平間奈緒美副議長、広沢真・議会運営委員会委員長に、その特徴などについて聞いた。

左から髙橋たい子議長、平間奈緒美副議長、広沢真・議会運営委員会委員長。

(3氏のプロフィール)髙橋たい子(たかはし・たいこ)現在4期目。前期(2017年4月~)に続き2021年4月から2期目の議長。平間奈緒美(ひらま・なおみ)現在4期目。2021年4月から副議長。広沢真(ひろさわ・まこと)現在5期目。前期(2017年4月~)から連続して議会運営委員会委員長。

柴田町議会は2022年のマニフェスト大賞で優秀賞(議会改革賞)を受賞している。
歴代議長の肖像写真。髙橋たい子氏が女性で初の議長。

■「作戦会議」を行い、数字は事前確認

――柴田町議会は2019年から政策サイクルに取り組んできた。決算・予算の特別委員会においてワールドカフェで議員間討議、その後、委員間討議で全会一致した項目については政策提案し、予算への反映を図っている。政策サイクルの取組みが4年目を迎え、その手応えは?
髙橋 私が思っているのは「新しいことをやってみよう、まずやること」。やりながら、こうしたらもっとよくなると考えて進んできた。また、予算・決算の特別委員会では、ワールドカフェで議論する中で、みんながかなり活発に意見を言えるようになってきた。
ー-議長が先頭に立って、失敗するかもしれないが、まず新しいことをやってみようという雰囲気を醸し出したところがポイントですか。
髙橋 失敗するつもりはない(笑)。ただ、うまくいかないところがあったら、どうしたらよくなるのか、と考える時間も大事。あと、「やめないよ」と一番最初に言っている。「よくなることを考えてやっていきましょう」と進めてきた。
 いま、「議会の見える化」が全国的に課題だと言われているが、「言える化」も大事。声に出して言わないとなるものもならないし、物事が進まない。
平間 「政策サイクル」が始まった2019年当時、特別委員会の委員長を務めていたが、初めての取組みでみんなが手探り状態だった。いまは決算審査、予算審査が始まる前、委員会を開くが、いろんな意見を出し合う作戦会議を行っている。以前は数字から聞いていたが、執行部に照会して事前確認できるようになった。それをもとにワールドカフェを開き、できるだけ答弁・質疑で抜けが出ないようにすることもだんだん定着している。
 いままで議会事務局職員がワールドカフェで出た意見を一個ずつPC上でまとめていたが、前回から写真を撮ってみんなに共有した。事務局の仕事を一つ減らすことができた。これもやってきたことでつながっているのかなと思う。
髙橋 タブレットを導入したおかげでみんなで情報を共有できるし、職員の事務量も短縮できる。それも実際にやってみて、「こうしたほうがいいね」という成果だろう。
平間 反省会で振り返りもしていて、そこで出たことを次にどうつながていくかも定着してきた。質疑内容を振り分けたり、ここは絶対に確認しようとか、特別委員会はいままで個人でやっていた部分が大きかったが、委員会として、最終的には議会としての取組みにつながってきたと思っている。
広沢 政策サイクルでも濃淡、強弱があって、目玉のテーマのときはすごく盛り上がる。3月の予算会議では、第三セクター鉄道の問題が出て、存続か否か、あるいは財政負担はどうなるのかで議論が盛り上がり、最終的に議会として提言を出すかどうかで激論になった。ワールドカフェではなかよく議論していたのが、全体会になったらお互いにバチバチやり始めて。結局、そのときは提言にはまとめられないという結論になったが、その後も議論は続いている。

■提言は「全会一致を前提」

ー-ワールドカフェと全体会は全く雰囲気が違うと。
広沢 お互いに相手の意見を否定しないで、意見を積み重ねていくワールドカフェと、議会全体の発言力を増すための意味も含めた全体会での提言まとめの議論がうまくかみ合わさっている。また、自分の主張が提言に取り入れられなくても、その後の委員会の調査項目に加えられたり、あるいは一般質問のテーマに浮上してきたりということで、取捨選択ではなく振り分けという位置づけが議員間に浸透してきた。
 財源まで示した代替案を出せればベストだが、ハードルが高くてそこまでそろった提言はまだ実現できていない。めざすべきところはそこかなと思っている。長年、要望は出していても、それを取り上げるかどうかは町執行部の裁量次第。そこに一石を投じて議会の発言力を増すことを政策サイクルに求めたいし、それが議会の存在感を示すことにもなる
ー-議会が財源を含めて提言したならば、さらに実効性が高まるはず。
広沢 「われわれの提言は全会一致を前提とする」と話したら、「全会一致というのは重いんだ」と町長にも言われた。そこが重要なのかなと。
髙橋 だから議会として提言を出している。
ー-討議の中で意見が一致しないこともあるのでは?
広沢 違いを明確にする議論ではなくて、どこまで一致できるのかを探る議論でもある。その点では最初にゼロの状態でワールドカフェ、その後の分科会で各常任委員会ごとの取捨選択というかどの所管に属するのかということと、それまでの審議の中で誰かが意見を述べたり質疑をしたりしているかどうかが一つの選択基準で、まず整理をして、その上で対案だったり、財源などを組み込めることができるかどうかで最終的に分科会から全体会に行く流れができあがってきている。でもまだ完成形ではない。
ー-提言を出す前に執行部の担当課などと協議する場を持っているのですか。
髙橋 「こういう提言を出す」と予告し、それに対してもっと調べてほしいということがあれば「議長の許しを得て、(町長等の)発言を許す」ということになっている。以前は多かったが、このごろはしなくなった。
広沢 うちの議会の場合、提言を出すことが最終目的ではなくて、過程を大事にしている。ワールドカフェで意見を積み重ねて、その後、自分の考えも含めて議論に参加する中で、決算や予算に臨む考え方を議員がまとめる一助にもなると考えている。だから提言として出したいが、出せなかった場合でも決して無駄ではない。その意見をどう活かすかで苦心しているのがいまの段階だろう。
ー-基本条例の検証に伴う行動計画では、議会政策サイクルの定着を挙げている。
髙橋 予算議会のときに、予算に反映されているか否かを常任委員会が作戦会議の中で調べている。
広沢 決算時の提言だけではなく、たとえば委員会の所管事務調査の中で出している要求要望も含めて、予算議会の前に進捗状況の報告をもらい、それも踏まえて予算議会に臨んでいる。

■他のいいところを改革の土台の上に載せる!

ー-議会事務局職員のサポートはどう感じていますか。
髙橋 これまでとは違うことをやってきたので、議会事務局職員にはものすごく負担をかけている。改革は事務局の力を借りないとできない。私は局長に、議会を風通し良くするためにも「気づいたことは言ってください」とお願いしている
ー-柴田町議会ほど議員間討議を組み入れている議会はまだ少ない。
広沢 視察に来られた議員から「どうしたら議員間討議に入れますか」とよく聞かれる。本会議場で挙手して、「議長、これを議員間討議でやりましょう」というイメージから入るとハードルが高くなるのではないか。柴田町の議会にそういう場面はない。
髙橋 岩手県紫波町に視察に行ったときに(議員間討議は)分科会方式みたいな形を取るという話になって、「常任委員会を分科会におきかえたらすぐにできるのでは」となり、そこから始まった。プラスアルファでワールドカフェを合体させて“柴田町バージョン”にした。いままで取り組んできた土台があるので、「いいところを取ってきて土台の上に載っけて」という感じで進めてきた。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)
*印の写真は柴田町議会提供

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html


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