見出し画像

宇宙ビジネスと自治体事例ハンドブック『はじめの一歩』を発行――JAXA新事業促進部

 世界5か国目となる月面着陸に成功した日本の探査機SLIMで注目される宇宙航空研究開発機構(JAXA)。そのJAXAの新事業促進部が自治体と連携して、地域課題の解決や地域振興に取り組んでいることを知っているだろうか。JAXA新事業促進部はこのほど、宇宙ビジネスと自治体事例ハンドブック『はじめの一歩』を発行した。「宇宙×地方」が持つ可能性に満ちたハンドブックだ。

「宇宙×地方」が持つ可能性

 ハンドブックはA4版55ページ。まず、「はじめに」でJAXA新事業促進部の伊達木香子部長が「今まで『宇宙は遠い』と思っていた方々でも宇宙へは手が届く、もしくは届けられるよう、宇宙技術を活用している自治体等の事例を現地取材を中心にまとめています。是非、宇宙×地方が持つ可能性を探してください」とハンドブック作成の趣旨を述べている。
 JAXA新事業促進部では、JAXAのもつ宇宙技術や知見で、地域課題の解決や地域振興に取り組む自治体の宇宙施策の「自走」を支援していることを説明。特に期待されているのが「まちづくり」「産業振興」「災害対応」の分野だ。
 国では2023年6月13日、「宇宙基本計画」を策定。「宇宙産業を日本経済における成長産業とするため、宇宙機器と宇宙ソリューションの市場を合わせて、2020年に4.0兆円から市場規模を、2030年代の早期に2倍の8.0兆円に拡大していくことを目標とする」としている。

13自治体が「宇宙ビジネス創出推進自治体」

「宇宙ビジネス創出推進自治体」は現在、13自治体(11道県と2市)にのぼる。

 自治体でも宇宙施策への関心が高まっており、2023年11月現在、全国で13の自治体(11道県と2市)が「宇宙ビジネス創出推進自治体」としてS‐NET(内閣府・経済産業省が運営)より選定されている。
 選定された自治体は次の通り(カッコ内は選定年月)。
北海道、茨城県、福井県、山口県(2018年8月)
福岡県、大分県(2020年9月)
群馬県、岐阜県、鳥取県、佐賀県、鹿児島県、長野市、豊橋市(愛知県)(
2023年3月)
 ハンドブックはこの13自治体を中心に取組事例をまとめたものだ。

事例はインデックスつき

 事例は、取組の「背景」→「課題」→「経緯」→「取組内容」→「自治体コメント」→「JAXA地域連携担当者による感動ポイント!」で構成。
「宇宙インフラ」「衛星データ」「宇宙機器製造」「宇宙素材活用」といった宇宙ビジネスに関連する項目と、「災害対応」「一次産業」「新産業創出」「街づくり」「観光」「業務改革」「人材育成・教育」といった自治体の事例のインデックスがついており、たとえば「衛星データ」と「一次産業」のインデックスがあれば、この2つを兼ねた事例を探すことができる。

福井県「宇宙産業の拠点化を目指す」

「北海道・大樹町」の取組事例。約40年の歴史がある。

 たとえば「北海道・大樹町」では、1984年3月の「北海道宇宙産業基地構想」がターニングポイントになり、広大な土地を有し、衛星データ活用や宇宙港にも適した環境がある北海道の強みを活かし、多様な宇宙スタートアップ企業が誕生。町の担当者は「地元の理解・協力がとても重要。歴代の町長が頑張ってくれて、良好な関係が築けている」とコメントしている。
 福井県では、「新しい産業を創出する必要がある」という機運の高まりを受けて、2015年4月に改訂された「福井経済新戦略」と同年10月に発表された「ふくい創生・人口減少対策戦略」において「宇宙産業の拠点化を目指す」ことが盛り込まれた。
 

「福井県」の取組事例。「ハード・ソフト・人材育成まで一気通貫!」の取組だ。

 同県では「県民衛星プロジェクト」を推進、2021年3月には県民衛星「すいせん」の打ち上げ成功、2022年10月には「ふくい衛星運用」を実現した。県や産業界、大学などとも連携し、宇宙産業人材の育成にも力を入れているのが特徴だ。JAXA担当者は「衛星開発という地元企業にとってはリスクに感じることを、まずは県がしっかりと予算をつけることで“本気”をみせたところに驚きました!」とコメント。

「佐賀県」の取組事例。防災・減災への衛星データ活用の実装化が注目される。

 佐賀県では2021年3月にJAXAと連携協定を締結した。防災・減災を目指した衛星データ活用に挑戦。浸水被害地域の特定や土砂崩壊箇所の総点検などに衛星データを活用する実証実験に取り組んでいる。

水道管漏水調査やスマート農業にも

 インフラ関係では「衛星データの活用で水道管の漏水調査を効率化」(豊田市・大分県)、一次産業では「衛星データ活用によるスマート農業」(北海道十勝地域)、「衛星データを利用したブランド米の生産支援」(青森県)、「宇宙食となったサバ缶の開発」(福井県)、観光分野では「合言葉は『長野県は宇宙県』。宇宙を身近に感じる文化(天文文化)の創造を目指す」(長野県)、「日本一星が見えやすい県に何度も輝いた『星鳥県』というコンセプトで地域活性化、観光客誘致を推進」(鳥取県)などの取組も紹介。実に多彩な取組が地方で創出されていることを知ることができる。
 取組のきっかけは、前述の福井県のように県の計画に明記されたこと、あるいは知事が宇宙ビジネスセッションに参加した(茨城県)こともあれば、議員による一般質問による知事の答弁(岐阜県)というケースも。JAXAの担当者は「あとがき」で、「宇宙ビジネスを推進する最高のプレーヤーは自治体職員と地域企業だと思っています」と記している。
 ハンドブックは全都道府県などに配布。また、JAXA新事業促進部の下記URLからダウンロードが可能になる予定。
https://aerospacebiz.jaxa.jp/jichitai/
 

【ハンドブックの取材・編集担当者の話】

地域課題の解決、地域活性化に宇宙の活用を


JAXA新事業促進部企画調整課の円城寺雄介さん。佐賀県庁からJAXA
に出向して3年目。「宇宙×地方創生」施策の拡充に奮闘する毎日だ。

――円城寺雄介さん(JAXA新事業促進部企画調整課、佐賀県庁から出向中)
 宇宙開発は世界各国で競争になっている。国だけが頑張るのではなく、地域のみなさんが地域課題の解決、地域活性化で宇宙を使ってもらう。そのことが日本の宇宙開発を加速させていく。このハンドブックが何らかの参考になればと思っている。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?