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11月に市民フォーラムを開催し、「これから市議会が取り組むこと、目指すこと」を宣言――三重県いなべ市議会

 (公財)日本生産性本部が作成した地方議会成熟度評価モデルの実装化に取り組んでいる三重県いなべ市議会は2023年7月31日、市議会内で議員報酬に関する研修会及び成熟度評価に関する意見交換会を開いた。成熟度評価モデルに関しては、8月19日に開催した市民との意見交換会を踏まえて「議会プロフィール」を作成。11月には市民フォーラムを開催し、「これからいなべ市議会が取り組むこと、目指すこと」を宣言する予定だ。

■議員報酬は18年間同額で推移

 いなべ市議会(議員定数18人、現員17人)では2022年12月13日に今期の議会検証評価特別委員会(清水隆弘委員長、議長を除く全議員16人で構成)を立ち上げ、成熟度評価モデルの実装化に取り組んでいる。
 一方で、議会運営委員会では今年度の所管事務調査のテーマとして「議員活動と議員報酬」を挙げており、その一環として開かれたのが今回の研修会だ。

 いなべ市は2003年12月1日、員弁郡北勢町・員弁町・大安町・藤原町の4町合併で誕生した(人口約4万3000人)。合併時、市議会の議員定数は在任特例で60人。その後、24人(2005年)→20人(2009年)→18人(2017年)と削減してきた。議員報酬は合併時(在任特例中)が月額20万5000円。2005年12月に報酬条例を改正し(議員定数を60人から24人に)、月額39万円に。以後、同額で推移している。

いなべ市議会議員定数・報酬の変遷


 研修会には14人の議員と議会事務局職員が参加。江藤俊昭・大正大学教授が「議員活動の対価・議員報酬~住民自治を進めるために」と題して講演を行った。

■将来、議員になりやすく、また活動しやすくするための条件として考える

「議員活動の対価・議員報酬~住民自治を進めるために」と題して講義を行う江藤俊昭・大正大学教授。

 江藤氏はまず、地方議員の場合、国会議員の「歳費」、職員の「給与」ではなく、地方自治法203条で「議員報酬」と規定されていることを説明。議員報酬は役務の対価であり、議員は非常勤職ではないことを強調した(非常勤職は自治法203条の2に規定)。

 議員報酬額を決める主要なものとして原価方式、成果方式、類似方式があるが、この中では「原価方式がベター」と指摘。全国町村議会議長会が2022年2月にまとめた報告書「議員報酬・政務活動費の充実に向けた論点と手続き~住民福祉の向上を実現する町村議会のための条件整備~」(江藤氏への委託調査)で提起した新しい原価方式の内容を説明した。

 以前の原価方式(平成31年モデル)は、議員の活動量を首長の活動量と比較して、その割合を首長の給料に乗じて議員報酬額を算定する手法。新たな原価方式は、これに「活動内容」を加味して算出する手法だ。

 江藤氏は、「大前提として、報酬だけの議論はしないでほしい」と強調。議員力・議会力の向上、住民福祉の向上につながる条件整備の観点から議論する必要性を述べた上で、報告書で示した次の「議員報酬及び議員定数を考える8原則」を具体的に説明した。

①議員報酬と議員定数は議会がそのポリシーを示さなければならない
②議員報酬と議員定数とは別の論理
③議員報酬と議員定数は行政改革の論理とはまったく異なる議会改革の論理
④議員報酬と議員定数は持続的な地域民主主義の条件として考える
⑤議員報酬と議員定数を「増加できない」あるいは「削減する」場合は、住民による支援が不可欠
⑥議員報酬と議員定数は住民と考える
⑦特別職報酬等審議会委員の委嘱にあたっては、議会を熟知している者を要請する
⑧「後出し」ではなく周知する十分な期間が必要


 このうち④について江藤氏は、現在の議員だけでなく、「多様な住民が将来、議員になりやすく、また活動しやすくするための条件として考える」とその意義を指摘。⑧については「遅くとも選挙の1年前には周知できる準備を進めるべき」と話した。

■いなべ市議会から「新しい議員報酬の決め方、発想を」

3つのグループに分かれてディスカッションを行ういなべ市議会の議員。
ディスカッション後、グループごとに気づきなどを発表し、議員間で共有した。

 江藤氏の講演後、議員は3つのグループに分かれてディスカッション。講演の感想や気づきについて話し合った。その後のグループ発表では「(議員報酬額については)われわれ議員の活動を住民に知ってもらうことが大事」「コロナ渦で生活に苦しい住民がいる中、なぜ議員報酬の議論をするのか。未来の議員のためだ」といった意見が出されていた。

 最後に江藤氏が総括。「新しい議員報酬の決め方、発想をいなべ市議会でつくって、未来の議員のための議員報酬を考えてほしい。期待している」などと述べた。

■政策立案や総合計画への議会のチェックなどをめぐって議論

 研修会終了後、議会検証評価特別委員会のリーダー会議(特別委員会の正副委員長と3グループのリーダー・サブリーダーの計8人で構成)のメンバーと江藤教授による成熟度評価に関する意見交換会が開かれた。

 議会による政策立案や総合計画への議会のチェックなどをめぐって議論。いなべ市では第3次総合計画の策定が2025年度に迫っているが、議会では基本構想のみが議決事件で、総合計画の本質までは監視機能を果たしていないという。

 江藤氏は、総合計画と各種計画の計画期間を極力一致させること、さらに特別委員会を設置し、▽現行の総合計画の総括を行う▽次期総合計画の素案が出される前から議会が動く▽総合計画の審議会メンバーと議会による意見交換の場を設ける――などをアドバイスした。

■11月に市民フォーラムを開催

8月19日に開催した「市民と議会の意見交換会」の案内チラシ。

 最後に、成熟度評価の今後のスケジュールを確認。8月19日に「市民と議会の意見交換会」を開催し、①いなべに住んで良かったこと、残念なこと②議会の印象、議会に期待すること③未来のいなべ、をテーマに意見交換を実施。ここで出された市民の意見も踏まえて「議会プロフィール」を完成させる。

 8月から10月にかけて、いなべ市議会アクションプラン「議会の新たなステージへ~市民に信頼される議会(仮)」を作成。11月には市民フォーラムを開催し、これからいなべ市議会が取り組むこと、目指すことを宣言し、「市民に期待・信頼される議会」を実践するキックオフの場とする予定だ。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

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