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泣ける歌詞紹介 グングニル

グングニルという言葉をご存じだろうか?北欧神話に登場するオーディンという神が持つ槍の名前なのだが、この槍がすごい。狙った物は決して外さず、手から離れても手に戻ってくる機能を備えた神槍である。
バンプオブチキンというバンドの曲にこのグングニルが登場する。私はこの曲に大変勇気を頂いたので詩的見解ではあるが紹介したいと思う。この歌詞は主人公の目線で書かれていない。主人公の気持ちや周りの反応、すべてを客観的に捉えたまるで小説のような歌詞である。

そいつはひどくどこまでもうさん臭くて安っぽい宝の地図でも人によっちゃそれ自体が宝物。「こいつはすごい財宝の在りかなんだ!」信じ切った彼もとうとうその真偽を確かめる旅に出るとする

主人公が宝の地図を手に入れた所からこの物語は始まる。到底本物とは思えないその宝の地図は主人公には紛れもない本物のように思えた。みんなが疑うその地図を本物だと証明する為に旅を決意する主人公。この決意、何かを始めようとする心もまた、宝物の一つであると歌っている。

誰もが口々に彼を罵ったデタラメの地図に目が眩んでるって

誰かが新しい事をしようとするとそれを良く思わない人が一定数いる。不確かな未来に向かって頑張る人が羨ましいとか、一攫千金が妬ましいとか、根底にあるのは嫉妬の感情なのだろうか。この歌詞のような事は現実の世界でも良く聞く事である。この物語の主人公も例に漏れず、「あんな地図を信じるなんてどうかしている」と様々な人からバカにされてしまう。そして歌詞は作者目線のメッセージへと移行する。

容易く人1人を値踏みしやがって!世界の神ですらそれを笑う権利を持たないのに

値踏みとはその物のふさわしい価値を付ける事をいう。この物語の主人公は人々から罵られて当然だ、という価値を勝手につけられてしまった。人間の価値を決めるというのは容易い事ではない。むしろ同じ人間が別の人間に価値をつけるなど勘違いも甚だしい。神様だってそれを笑う権利を持たないのだ。決意とはそれほど重く尊い感情なのだと歌い、物語は次章へ移る。

そいつは酷い出来栄えだが、コツコツ地道に作り上げた自前の船。彼にとって記念すべき最初の武器。荷物を積み、別れを告げ、朝焼けの海に帆を張った。堪えられず掲げた拳、響き渡る時の声。

主人公はただ一攫千金を狙う怠け者ではなかった事を汲み取れる。宝の在処に辿り付くという目的の為に初めての事も慣れない作業もコツコツと努力を続けてついに完成した船。「武器」の表現から如何に主人公が強い決意だっったのかも良く分かる。そして出航の朝、主人公は朝焼けの海の上で雄叫びを上げる。喜びからか不安からか、はたまた自分に「まだまだ頑張れる!」と言い聞かせているのだろうか。いろんな感情を推察出来る。そしてまた歌詞は再び作者の目線へ。

そいつは酷くどこまでもうさん臭くて安っぽい宝の地図。でも誰にだってそれ自体が宝物。本当にデカい、誰もが耳疑うような夢物語でも信じ切った人によっちゃ自伝になり得るだろう

1番では「人によっちゃ」となっていた歌詞が「誰にだって」に変わっている。ここでは「宝物」の本質について表現している。未来というのは不確定だ。ある程度の予測は出来ても、確実にそれを知る術は無い。それなのに人はそれに向かって努力する事が出来る。努力によって手に入れる素晴らしい未来を信じているから。価値ある物だけが宝ではなく、それを信じる心も含めての宝。不確定な未来=うさん臭い宝の地図。誰もが宝物を持っているし、誰もがこの主人公と同じ冒険者なのだと作者は歌う。そして再び主人公の旅へと歌詞は戻る。

誰もが口々に彼を呪いだした。「願わくば高波よ悪魔となれ。」

馬鹿にしてあざ笑っていた人間が、へこたれずに努力を続け夢への1歩を踏み出した事で人々の罵りはどうとう「あんな船、沈没してしまえばいいのに」という呪いの域にまで達してしまう。悲しい事だが昨今のSNSなんかでも似たような事が起こっている。誰かが不幸になっても決して自分が幸せになる訳ではないのに、人の不幸を望む人がいる。まっすぐに生きている人間を蔑む人がいる。とても愚かで悲しい事だ。それに対して作者は怒る。

容易く覚悟の前に立ちはだかりやがって
夢の終わりは彼が拳を下げた時だけ。

強い口調で覚悟を折ろうとする人々に語りかける。その信念はどんな呪いをもっても折る事は出来ないと。夢が終わる時はこの主人公が信じる事をやめ、もう終わりにすると思った時だけだ。苦しい時、私はフレーズに何度も助けられた。そしてこの次に命題であるグングニルが出てくる。

死に際の騎士、その手にグングニル。
狙った物は必ず貫く

前途多難な旅に人々の応援は0。それどころか努力して作った船ごと沈んでしまえと言われる主人公。まさに死に際であるがここに出てくる歌詞は主人公の心がまだ折れておらず、騎士のように懸命に戦っている。そしてその手にはまだ、全てを貫く槍グングニルのような信念があった。そして物語は終盤へ向かう。

誰もがその手を気付けば振っていた。黄金の海原を走る海に向けて。
自らその手で破り捨てた地図の切れ端を探して拾い集めだした

朝焼けだった海が黄金(夕暮れ)という表現になる事で時の経過を汲み取れる。夢を信じ、グングニルを手に懸命に戦っていた主人公があらゆる絶望に地図を破って捨ててしまう程の長い時が経ったようだ。夢の終わりなのだろうか。そんな中、船を罵り、呪っていた人々は大海原に浮かぶボロ船に「頑張れ!」「負けるな!」と手を振っていた。破られた安っぽい地図のかけらを主人公の為に拾い集める。どんな事があっても戻ってこず、宝を探す真っ直ぐな心を支えようと思ったのだろう。主人公の努力が人々の呪いを打ち消した。「気が付けば」とあるようにそれを一目しただけで応援したくなったのだ。気の遠くなるような努力を重ね、誰にも認められずに信念のみで戦った主人公。心情が重なる人も多いのではなかろうか。そしてその絶望の淵にいる主人公に向けて作者は厳しくも優しく一喝する。

容易く自分自身を値踏みしやがって!
世界の神ですら君を笑おうと俺は決して笑わない!
船は今の嵐の真ん中で、世界の神ですらそれを救う権利を欲しがるのに

この曲の最終フレーズ。「自分にはもう出来ない」と信じる事をやめようとする主人公に自分自身の価値を決めるな!と叱責する歌詞。その惨状をどんなやつが笑ったとしても、すべてを見てきた俺は絶対に笑わない!だからまだ諦めるんじゃない!嵐の真ん中では何も見えずに聞こえない。主人公は世界の神々でさえ助ける権利を欲しがっている事に気が付いていないだろう。このあとの物語がどうなるか気になる所ではあるけど、必ずハッピーエンドになるだろう。グングニルはその手に戻って来る折れない槍なのだから。


いかがだっただろうか?この歌詞は何かを始めてうまく行かない時に聞くと心に刺さる。入学、就職、出産、結婚、いろんな節目で感じる不安に寄り添ってくれるまさにグングニルのような歌詞である。
今嵐のど真ん中で絶望に打ちひしがれている人は最初に持った信念を思い出して欲しい。グングニルを携えて時の声を上げたはずだ。まだあなたには見えないが破った宝の地図を誰かが拾ってくれている。「頑張れ!無理はすんなよ!」と手を振ってくれている。絶望の中で弱音を吐いてカッコ悪い姿を見せたとしても誰もそれを笑ったりしない。だからもう少しだけ、嵐に耐える力を振り絞って欲しい。あなたがその手から離したグングニルは必ず戻り、狙った物を貫くから。

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