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漫画の中の少女探偵についての備忘録(貸本編)

「えーと、少女探偵ものって女児ものともっと年齢高めの女性主人公ものとテイストががっつり分かれてない?」

相変わらず『少女トラベルミステリ』のために少女探偵の出てくる作品を探してあれこれ読んでいて思ったことです。

前回こちらで少女漫画における黎明期の少女探偵について書いていますが、その時に感じたのは女性主人公の年齢の低さです。『こけし探偵局』の主人公、パコは小学校三年生と明記されていますが、『もも子探偵長』のもも子、『くらやみの天使』の智子はデザイン的にかすかな胸のふくらみがあるので、外見としては小学校高学年から中学二年生くらいの印象です。つまり年齢的には義務教育を終えていない年頃の女の子で、責任能力が限定される年頃です。

今回扱うのは低年齢のヒロイン達とは明らかに別の、懐かしい言葉で言うなら『娘さん』という年頃の少女達を主人公とした作品です。

前回も少しだけ書いた山田節子・さいとうゆずる『ガールガール』は、探偵事務所に勤める少女二人、七森由岐と八条路子が主人公です。学生ではありません。現在所持している巻は1、4、5巻だけなので他の巻は確認していませんが、由岐も路子も自動車を運転しています。


ガールガールNo.4

「だとしたら由岐と路子は十八歳以上?」とお思いになるかもしれませんが、『ガールガール』刊行時にはまだ軽自動車免許があったので、軽自動車なら十六歳から乗ることができます。由岐は解りませんが、路子の方はNo.4『白ばら女学院』で同い年か歳の近い印象の菊子の在学する白ばら女学院に泊めてもらうエピソードがあります。菊子は学生で、かつ路子が車に乗っているので、菊子は高校生、路子は中学卒業後に探偵事務所に就職、軽自動車を運転できると考えました。

『ガールガール』の二人は自動車を運転し、アクションもこなし、探偵助手としての仕事をこなしていますが、年齢的にはまだ未成年といったところでしょうか。そして探偵事務所の若き所長、柴木六郎に憧れている少女達です。(この二人の憧れ、柴木所長は何とさいとう・たかを先生が描いてます)
若い娘さんが車を運転し、事件と遭遇するのは『ナンシー・ドルー』にもあった設定です。(初期版のナンシーは十六歳で、改訂版で十八歳に変更されました)はらはらする事件、危険な敵とのアクション、素敵な男性との交流など、女児向けには入れられない要素がてんこ盛りです。

これは後年の星子ひとり旅シリーズや幽霊事件シリーズとも近い路線ではないかと思いました。

『ガールガール』は貸本を古本で購入する以外に入手方法がありませんが、今読んでも面白い作品です。電書ででもいいので、ぜひ復刊してほしい作品です。

追記
タイトルを『ガールガールミステリー』としておりましたが、正確な表記は『ガールガール』だと解りましたので変更しています。

そしてもう一作ご紹介したい作品があります。
『マジシャン』や『殺人事件シリーズ』でも知られる高階良子先生の貸本時代の作品、ミッキーシリーズ。こちらは『ミッキーの顔役』『手折れ花』『ミッキーお手をどうぞ』『ふたつの過去をさぐれ』の四作が若木書房から刊行されました。

今読もうと思った場合、入手しやすい価格帯で『高階良子デビュー50周年記念セレクション』の5(『ミッキーの顔役』『手折れ花』)、6(『ミッキーお手をどうぞ』)、7(『ふたつの過去をさぐれ』)巻に収録されています。(6巻のリンクにしたのは新しく高階先生がミッキーを描いた表紙だからです)

ミッキーこと園美起は第一作『ミッキーの顔役』時点では叔父の園探偵事務所の助手でしたが、その後自分の探偵事務所を開いています。ただしお金持ちのお嬢さんなので、生計を立てられている様子ではありません。美起は自動車を運転している描写はありませんが、拳銃を撃てて、訓練を受けたらしいアクションを見せています。
ロマンス的な要素としては『ミッキーの顔役』で初めて出逢った、暗黒街の人間である黒田丈が駆け引きありのボーイフレンド的な存在として現れます。

ミッキーシリーズもとても面白いので、ぜひ電書で復刊してもらいたい作品です。

この2シリーズの作品を見て、女性主人公のアクション映画を見たような印象で、比較的高年齢向けです。貸本ということで、親ではなく自分で借りるお金を出している若い勤労世代がメインターゲットなのではないかと思いました。

『貸本マンガRERURNS』を読んだ感じでは、貸本の頃には少女漫画と青春漫画は別ジャンルのように扱われていたようです、女性主人公にはボーイフレンドがいたり、アクションシーンが多めだったり、ヘビーな内容だったりする作品も人気があったようです。その流れで生まれたニーズがあったのだと思います。

「アクション、犯罪や性的な要素も含むヘビーな題材の少女向けミステリ作品はこういうところから生まれたんだな」と認識しました。前進です。

次回は少女漫画における少女探偵を扱う上で絶対に避けては通れない野間美由紀『パズルゲーム☆はいすくーる』と、あまりミステリとしては名が上がらないものの、かなりミステリ要素の濃い佐伯かよの『燁姫』について語りたいと思います。


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