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少女探偵の源流はそもそもどこなのか問題2

以前からずっと考えている問題ですが、これに関してはずっと悩み続けています。

この記事を書いた頃に較べて結構あれこれ本を読んで、ちゃんとした理解はできていないものの、もう少し解像度が上がったように思います。今回はそのへんについて書いていきます。

少女探偵の源流はどこなのか。これは「世界、主に英語圏の」と言えばある程度定まっていると思います。ナンシー・ドルーです。1930年にジュブナイルミステリを多く刊行しているストラッテメイヤー・シンジゲートからキャロリン・キーン『The Secret of the Old Clock』が刊行されてから100冊以上刊行されています。『The Secret of the Old Clock』の初めての邦訳は1962年に金の星社から『古い柱時計の秘密』として刊行されています。とんでもないロングセラーを一人で書くのは当然無理で、作者名のキャロリン・キーンは一人ではなく、最初はストラッテメイヤー・シンジゲートの創設者であるエドワード・ストラッテメイヤーがナンシー・ドルーのプロジェクトを書くために用意した筆名で、ストラッテメイヤーがすぐ死亡してしまったのでその後複数の作家が使っています。そして現在もシリーズは刊行中の怪物シリーズです。
ドラマや映画も作られています。

もちろんナンシー・ドルーのシリーズ以前にも英語圏では少女向けミステリ、探偵ものが多く出ています。

マーガレット・サットンの少女探偵ジュディ・ボルトンのシリーズは全38冊、一冊目の『The Vanishing Shadow』が1932年刊行。(初の邦訳は1966年、講談社『探偵少女ジュディー』)

フランシス・K・ジャッドの少女探偵ケイ・トレーシーは18冊、一冊目の『The Secret of the Red Scarf』が1934年刊行。(初の邦訳は1962年、金の星社『仮装舞踏会の秘密』)

クレア・ブランクのベバリ・グレイは26冊、一冊目の『Beverly Gray, Freshman』が1934年刊行。邦訳があるのは九冊目、1938年刊行の『Beverly Gray on a Treasure Hunt』のみで、『秘密の地図』というタイトルで1962年、金の星社から刊行されています。

どうやらアメリカでは少年少女向けミステリはとても人気があったらしく、昔から多くの作品が出ています。英語圏ではこれらの作品を読むのにそれほど苦労はなかったはずですが、日本ではそうでもありませんでした。ナンシー・ドルーは「日本の」少女探偵のアーキタイプではないのです。

金の星社から『古い柱時計の秘密』が刊行されたのは1962年、昭和37年です。同年にケイ・トレーシーシリーズ『仮装舞踏会の秘密』、ベバリ・グレイシリーズ『秘密の地図』が刊行されています。
日本の少女探偵ものの源流はここでしょうか? そうとは言えない気がします。英語圏での「誰もが知ってる少女探偵」というレベルには全く及んでいません。

追記。
ただし日本で初めて翻訳されたナンシー・ドルーシリーズは1956年、秋元書房から刊行された21冊目『楽譜の秘密(The Secret in the Old Attic)』のようです。それに基づいて下の年表も変更します。

ちなみに日本人作家で人気の探偵もの『あらしの白鳩』が1952(昭和27)年、女学生の友9月号から連載開始し、1956(昭和31)年に偕成社から刊行されています。(復刻した『あらしの白ばと(タイトル表記違いますが、雑誌連載時のタイトルのようです)』が芦辺拓先生の監修で復刊しています)
こちらはミステリというよりは爽快な少女探偵達のバトルものといった方が近い内容ですが、戦前の「探偵小説」が必ずしもミステリではなかったことを考えると、そこに文句は言うべきではない気がします。

時系列を並べてみましょう。話を追加していくたびに時系列に追加していきます。

1952(昭和27)年 西條八十『あらしの白ばと』連載開始。
1956(昭和31)年 西條八十『あらしの白鳩』刊行。
1956(昭和31)年 C.キーン『楽譜の秘密』『秘密の階段』『不思議な手紙』刊行。
1962(昭和37)年 キーン『古い柱時計の秘密』、サットン『仮装舞踏会の秘密』、ブランク『秘密の地図』刊行。

現時点ではこうです。ここに「日本人女性作家の少女探偵」を追加します。

『あらしの白鳩』刊行の翌年、仁木悦子先生が『猫は知っていた』で第三回乱歩賞を受賞します。それ以前の賞では小説が受賞していないので、こちらが初めての小説受賞です。
この『猫は知っていた』を第一作目とする仁木兄妹シリーズの主人公、仁木悦子が登場します。

ちなみに作家と同名の登場人物で本人ではありません。(ミステリにはこういう作者名と同じキャラ名の人物が出てくる作品が割とありますね)
仁木兄妹シリーズは初期の長編ではお兄さんの雄太郎がメインで謎解きしていて、悦子は探偵要素が少ないキャラですが、彼女が大人になって子供ができた頃を書いた短編シリーズは彼女が謎解きをしているようです。(現時点では未読)『少女トラベルミステリ』として扱うにはなかなか悩みもののヒロインです。

(この男女コンビの探偵役のミステリで、女性側が謎解きを担当していないパターンの作品は結構あって、女性側は狂言回し、感覚が鋭くてちょっとした謎に気が付くなどの役どころだったり、果ては足を引っ張る道化役だったりすることもあるんですが、女性の方が見栄えがいいせいか、女性の方を探偵役っぽく表記されることが多くて、「うわーっ、ワタシは少女探偵を探しているんだーっ!!」とシャウトする羽目になったりします。このへんの問題についてはそのうち記事を書きます)

1952(昭和27)年 西條八十『あらしの白ばと』連載開始。
1956(昭和31)年 西條八十『あらしの白鳩』刊行。
1956(昭和31)年 C.キーン『楽譜の秘密』『秘密の階段』『不思議な手紙』刊行。
1957(昭和32)年 仁木悦子『猫は知っていた』刊行。
1962(昭和37)年 キーン『古い柱時計の秘密』、サットン『仮装舞踏会の秘密』、ブランク『秘密の地図』刊行。

では以前から追っていた漫画についても追記していきましょう。

ここで採り上げた作品をリストに加えていきます。今回は実際にミステリかどうか未確認の小野寺秋風先生の『探偵タン子ちゃん』『探偵テイ子ちゃん』も加えています。
(これは主に他ジャンルからの移入時期を確認する目印としてです。今回は書いていませんが、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズや、人気映画の多羅尾伴内シリーズの時期を追記する予定です。こちらは後ほどの回で)

1951(昭和26)年 小野寺秋風『探偵タン子ちゃん』『探偵テイ子ちゃん』連載。
1952(昭和27)年 西條八十『あらしの白ばと』連載開始。
1956(昭和31)年 『あらしの白鳩』刊行。
1956(昭和31)年 C.キーン『楽譜の秘密』『秘密の階段』『不思議な手紙』刊行。
1957(昭和32)年 手塚治虫『こけし探偵局』連載。
1957(昭和32)年 仁木悦子『猫は知っていた』刊行。
1958(昭和33)年 鈴木光明『もも子探偵長』連載。U・マイア『くらやみの天使』連載。
1962(昭和37)年 キーン『古い柱時計の秘密』、サットン『仮装舞踏会の秘密』、ブランク『秘密の地図』刊行。

こちらの貸本編、三輪香月と瀬名生燁姫編についても加えていきます。

1951(昭和26)年 小野寺秋風『探偵タン子ちゃん』『探偵テイ子ちゃん』連載。
1952(昭和27)年 西條八十『あらしの白ばと』連載開始。
1956(昭和31)年 『あらしの白鳩』刊行。
1956(昭和31)年 C.キーン『楽譜の秘密』『秘密の階段』『不思議な手紙』刊行。
1957(昭和32)年 手塚治虫『こけし探偵局』連載開始。
1957(昭和32)年 仁木悦子『猫は知っていた』刊行。
1958(昭和33)年 鈴木光明『もも子探偵長』連載開始。U・マイア『くらやみの天使』連載開始。
1962(昭和37)年 キーン『古い柱時計の秘密』、サットン『仮装舞踏会の秘密』、ブランク『秘密の地図』刊行。
1965(昭和40)年 山田節子、さいとうゆずる『ガールガール』No.1刊行。
1967(昭和42)年 高階良子『ミッキーの顔役』刊行。
1983(昭和61)年 野間美由紀『パズルゲーム☆はいすくーる』note1『ミステリ研最初の事件』掲載。
1984(昭和62)年 佐伯かよの『燁姫』連載開始。
1985(昭和63)年 松本洋子『すくらんぶる同盟』連載開始。

追記
作品タイトルを『ガールガールミステリー』としておりましたが、正確な表記は『ガールガール』だと解りましたので変更しています。

ここにメインで調べている星子ひとり旅シリーズ、幽霊事件シリーズのデータを入れる前に調べなければいけない難関がそびえています。

夏樹静子先生、山村美紗先生、平岩弓枝先生など、女性作家の人気ミステリ作品のリストを作らねばならないようです。
ただし皆さんとても多作です。とりあえずドラマでキャラ人気の出たシリーズ、トラベルミステリに多くの影響を与えた作品に限って今後記事で扱いたいと思います。

夏樹静子作品では少女探偵はいませんしトラベルミステリと言っていい作品も多くはないのですが、女性探偵の人気シリーズ、朝吹里矢子、霞夕子シリーズと、交通ミステリとして評判の高い『77便に何が起きたか』をリストに加える予定です。

山村美紗作品は、リストではトラベルミステリに最も影響を歌えたキャサリンシリーズをリスト化したいと思います。ただし、他のシリーズも基本的には女性探偵ものなので、地道にやっていきたいです。多すぎます。
ただしリストに関しては西村京太郎研究会という最強のサイトがありますので、ここをがっつり頼って読んでいきたいと思います。
いや、ものすごい量があるので読むの自体がえぐいんですが。やるんですか本当に……。

そして一番難関の平岩弓枝先生……ミステリではないヒット作の方が多く、どう手を付けたらいいのか解りません。ただし「トラベル」という部分に注目すると絶対に外せない先生なので、いずれは手を……手を……付けたいです……。リストでなくても一度は記事を書きたいと思います。

とりあえずこの年表は穴だらけもいいところで、これを埋めていくのが今後の課題ですというか、そのうち続報を書きます。

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